日本人とアメリカ人の「強み」に違いはあるのか?を調べた研究
「文化の違いってありますよね。
海外と日本で、”強みの違い”とか、ないんですか?」
強みを理解し、仕事に活用するための研修を企業に実施させていただく機会があるのですが、その際に「強み」について、しばしばいただくご質問が、こちらです。
この質問に対して一つの答えを示す論文が、ペンシルバニア大学のポジティブ心理学の創始者であるマーティン・E・P・セリグマンをはじめとした米国研究者と日本の研究者による、2006年の共同研究です。今日はこの研究論文について、ご紹介させていただきます。
論文のざっくりポイント
本論文では「性格的強み」の日米の文化的影響、男女差、幸福感と強みの関係について調査した。
日米の若年成人合計約1400名に、性格的強みのアセスメント『VIA』に回答してもらい、その結果を調べた。
結果、アメリカ人と日本人は、強みの分布がほぼ同じであった。すなわち、両者とも高い強みと低い強みが似ていた。
また「強みの性差」「幸福感と強みの関係」もアメリカと日本で似た傾向があった。
という内容です。本研究は2006年の調査ですが、「性格的強みの文化間の違い」を調査した、第一歩目の研究とされており、なかなか興味深い内容です。それでは、より詳しく見ていきましょう。
強みアセスメント「VIA」とは
セリグマンとピーターソンの2名の研究者、合計55名の著名な科学者により
開発された「性格的強み」のアセスメントが『VIA(Value in Action)』です。
中国、南アジア、西洋の哲学者や精神的指導者のさまざまな著作を調べ、それぞれの著書から、人の「善となる価値観(美徳)」とされていることをリストアップし、その共通点を分析しました。すると、それらの価値観(美徳)は「知恵と知識」「勇気」「人間性」「正義」「節度」「超越性」の6カテゴリ24の特性(強み)に分類されました。
VIAは240問のテスト(約30分間)を受けることで、自分がどの強みを使っているのかが分かるものであり、科学的な妥当性と信頼性も高いものと認められています。(以下サイトから、無料で受検が可能です ※日本語を選択するとテストも結果も日本語で見ることがっでいます)
研究の目的
本研究では、以下の3つの項目を調査することを目的としました。
「強みの分布」の文化間の類似性
(日米において、強みの類似性はあるのか?)「強みの性差」の文化間の類似性
(男女では、性格的強みにいくつかの差がある。例えば、女性は人間関係に強みがあり、男性は勇敢さ二強みがあるなど。これは日米間でも同様の差があるのものか?)「強みと主観的幸福度の関係」の文化間の違い
(日本とアメリカの文化は違う。日本のほうがより集団主義的であり、アメリカは独立志向が強い。これらの文化差に性格的強みが役立つ可能性が考えられ、幸福度にも影響を与えるのではないか?)
とのことでした。
研究のプロセス
<参加者>
・アメリカ人:1099名、日本人:308名
・参加者は、18~24歳の若年成人。
<調査項目>
・性格的強みのアセスメント「VIA-IS」(240項目)
・「主観的幸福度」(Lyubomirsky and Lepper, 1999)
研究の結果
1)「強みの分布」の文化間の類似性について
→両国の強みは類似性があった
{注目ポイント}
・アメリカ人と日本人は、測定された24の強みの分布がほぼ同じであった。
・高い強みには「愛情」「ユーモア」「親切心」が含まれ、低い強みには「思慮深さ」「自己統制」「謙虚さ」が含まれた。
2)「強みの性差」の文化間の類似性について
→両国の性差も類似性があった。
{注目ポイント}
・女性は「愛情」と「親切心」の強みを報告する傾向が強く、男性は「勇敢さ」と「創造性」の強みを報告する傾向が強かった。
3)「強みと主観的幸福度の関係」の文化間の違いについて
→国を超えて、幸福感と強みの関連も類似性があった。
{注目ポイント}
・日米どちらのサンプルにおいても、幸福感との関連が高い強みは「熱意」「希望」「好奇心」「感謝」であった。
文化間の違いで違っているところは?
最も大きな違いが「スピリチュアリティ(宗教心)」であること
・VIAの項目には(2006年当時)「神への信仰」という項目があり、西洋宗教を前提としているものがあった。その点については、VIA項目の尺度への批判を免れない。
・日本人は仏教と神道の混合主教の影響を受けているため、ありふれたものの中に聖なるものを見出している。そのため、VIAの項目を適宜修正すれば、将来的に、日本人の回答者がより高い得点を示す可能性がある。VIAのすべての項目において、アメリカ人が一貫して日本人より絶対得点が高いこと
・この結果を額面通りに受け取るのは、ありえないことである。これらの結果はアメリカ人の「偽の独自性効果(false uniqueness effect)」(Kitayama and Markus,2002)に似ていると思われる。
・つまり、この結果も「北米の自己強化文化」に影響されていることが示唆されていると考えられる
まとめ
全般的に「日米の強みの分布・性差・幸福感との相関に類似がある」というのは発見でした。性格的強み(美徳)とは、文化に限らず共通しているところがあるのかもしれませんね。
一方、少し詳しく見てみると、日本のほうがより高い結果であったものは「謙虚さ」「公平さ」「思慮深さ」であり、米国の方がより高い結果となったものは「スピリチュアリティ(宗教性)」「大局観」であるところに注目すると、共通性があるとはいえ、やはり文化的な背景の違いを感じるところでもありました。
また、日本の若年成人はアメリカに比べて「学習意欲(Love of learning)」が高いはずなのに、大人になると学ばなくなってしまうというのも、なんだかもったいないな、元々持っている勤勉性を活かせていないのかもしれないな、などと考えさせられた論文でもありました。
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