「強みの活用」は6ヶ月後の幸福度にどのような影響を与えるのか?の研究 ―強み活用尺度の検証結果ー

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しいただきありがとうございます。
今日ご紹介の論文では「強みの活用が、持続的に幸福度を高めるのか?」を調査をした2011年の研究です。

また2007年に開発された「強みの活用尺度」の心理測定尺度としての確からしさも検証をした内容も特徴。ということで早速みてまいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『個人的・心理的強みの活用は時間の経過とともに幸福感の増加につながるか:縦断的研究と強みの活用質問票の開発』
Wood, Alex M., P. Alex Linley, John Maltby, Todd B. Kashdan, and Robert Hurling. (2011). “Using Personal and Psychological Strengths Leads to Increases in Well-Being over Time: A Longitudinal Study and the Development of the Strengths Use Questionnaire.” Personality and Individual Differences 50 (1): 15–19.


15秒でわかる論文のポイント

  • ポジティブ心理学では「強みを持つ」と「強みを使う」の2つの視点がある。しかし、(2011年当時は)どちらかというと前者に焦点があたっていた。

  • 今回の研究では、まず「強みの活用尺度」の心理測定尺度を検証した。次にイングランドの227名を対象に「強みの活用が幸福感に”持続的に”影響を与えるのか?」を検証した。

  • 具体的には3~6ヶ月と同じ人物への縦断研究を行うことを通じて、開始時点の「強みの活用」が幸福度の尺度にどのような影響を当てるのかを分析をした。

  • その結果、(1)強みの活用尺度は信頼できる心理測定尺度であること、(2)強みの活用は幸福度を予測する因子であること、がわかった。

「強みを持つ」と「強みを使う」は違う?

2011年のこの研究が発表される前までは、「強みを持つ」ことに研究の焦点が当たっていた、と本論文は始めています。

しかし、「持つ」と「使う」は違うものです。たとえ大変なポテンシャルを秘めていた能力を”持って”いたとしても、実際に使う機会がない・・・なんてことも、現実世界ではありえます。(職場でもありそうですよね)

よって、この論文では、以下2つの目的を検証することにしました。

目的1)「強みの活用尺度」(Govindji&Linley, 2007)の、心理学的な尺度としての確からしさを検証する

目的2)「強みの活用」は幸福度に持続的に影響を与えるのか?を調べる

とのことでした。

では、実際にどのように実験を行ったのか。見てまいりましょう。

研究の方法

今回の研究は、以下のような参加者、手順で行いました。

参加者

227名
(イングランド中部と北部の地域から募集)
(53.7%が女性。平均年齢31.96歳)

進め方

参加者に対して、合計3回の調査を行いました。

・T1:ベースライン時(開始時)
・T2:3か月後
・T3:6ヶ月後

その結果を元に、縦断研究(=同じ人を繰り返し観察する)を行い、ベースライン時の「強みの活用」が3~6ヶ月後の「幸福度」他の尺度にどのような影響を与えているのかを検証しました。

調査項目

参加者には、「強みの活用」の他に「幸福度」を様々な視点から確認するために、合計5つの幸福度に関連する尺度に答えてもらいました。

{強みの活用に関する質問}
・「強みの活用尺度」(Govindji&Linley, 2007)(14項目)
(※この論文では「強みの活用」を評価する唯一の尺度と説明されています)

{5つの幸福度に関する尺度}
・「ポジティブ感情」
・「ネガティブ感情」(Watson et al, 1988)(各10項目、合計20項目)
・「知覚されたストレス尺度」(Cohen&Williamson, 1988)(10項目)
・「自尊心」(Rosenberg, 1965)(10項目)
・「主観的活力」(Ryan&Frederick, 1997)

研究の結果

さて、では上記の調査結果を分析して、どのようなことがわかったのでしょうか? 以下、まとめます。

わかったこと1:「強み活用尺度」は優れた心理測定である

最初に、本論文で”唯一の「強み活用の尺度」である”とされた、2007年にGovindji&Linleyさんによって開発されている「強み活用尺度」が構造的に確かなものかを、検証しました。方法として「最尤(さいゆう)因子分析」と呼ばれる検証方法を行っています。最尤法(さいゆうほう)とは、観測データが得られる確率(尤度)が最大化するパラメータを見つけるもの(らしい)です。そしてその上で、強み活用尺度で示される14項目について因子分析を行っています。

その結果、14項目全ての項目が、因子負荷量が0.66以上でした。また、本参加者の調査結果の各時点(T1、T2、T3)での信頼性係数を確かめたところ、α=.97と示され、内的一貫性/テスト-リテストの信頼性/基準妥当性が高い結果となりました。

その結果、「『強み活用尺度』は、優れた心理測定としての特性を持つ」ことが示されました。

以下、「強み活用尺度」をご紹介します(DeepLによる日本語訳)

【強み活用尺度】(Govindji& Linley, 2007)

1,自分の得意なことを定期的にできている(0.83)。
2,常に自分の強みを生かしてプレーしている(.84)。
3,私は常に自分の強みを生かそうとしている(0.84)。
4,私は自分の強みを生かすことで、望むことを実現する(.86)。
5,自分の強みは毎日使っている(0.81)。
6,自分の強みを活かして、人生で得たいものを得る(0.83)。
7,私の仕事は、自分の長所を生かす機会をたくさん与えてくれる(.85)。
8,私の人生には、自分の強みを生かすさまざまな方法がある(.66)。
9,自分の強みを発揮するのは自然なことだ(0.79)。
10,自分の強みを発揮するのは簡単だと思う(0.83)。
11,私は自分の強みをさまざまな場面で発揮できる(0.87)。
12,私の時間のほとんどは、得意なことに費やしている(0.77)。
13,自分の強みを生かすことはよく知っている(.87)。
14,私は自分の強みをさまざまな方法で生かすことができる(0.87)。

注:この尺度は、「以下の質問は、あなたの強み、つまり、あなたがよくできること、または最も得意とすることについて尋ねるものです」という指示とともに実施され、1(「強くそう思わない」)から7(「強くそう思う」)の尺度を用いて回答する。また( )内は、探索的因子分析による負荷量である。

わかったこと2:「強みの活用」は「幸福度」に対して持続的に効果がある

次に「強みの活用」と「幸福度」の経時的な変化について。「多重回帰分析」という手法を行いました。(この部分については、私の定量調査の読解力が弱くミスリードがあるかもです・・・ご容赦ください)

まず、ベースラインの2つの変数を設定しています。「ベースライン(T1)の幸福度のレベル」と「ベースライン(T1)の強みの活用レベル」です。そして、この2つの変数(幸福度のレベルと強みの活用レベル)に対して、T2(3か月後)、T3(6ヶ月後)のそれぞれの時点で、5つの幸福尺度がどれくらい回帰していたか(=影響を与えていたか)を調べたのでした。

その結果は、以下の表のようになりました。

注目していただきたいのが、「ベースラインの強みの活用」が3か月後と、6ヶ月後の5つの幸福度の尺度と相関がある、ことです。

表の右半分では、「強みの活用」は、3か月後のストレスを減少させ、自尊心・活力・ポジティブ感情を増加させていました(右上)。また、6ヶ月後のストレスも減少させ、自尊心・活力・ポジティブ感情を増加させていました(右下)

強みの活用に対する、3ヶ月、6ヶ月後の5つの幸福度尺度の回帰分析

ちなみに統計では「相関がある」ことはわかっても、「因果がある」かはわかりません。しかし、縦断的な研究において「(a)A→Bに共分散がある(ここでは「T1の強み活用」が「T2の幸福度」の結果に相関がある)」「(b)AがBに先行している(T1は開始時でT2より前)」「(c)もっともらしい他の説明がない」ときに、「因果関係は証明できないが、(中略)もっともらしくすることはできる」(Zapf ea al, 1996)とのこと。

つまり因果があるかは証明できないものの、「強みの活用が3ヶ月後、6ヶ月後の幸福度に対して影響をあたえているっぽい(=因果関係がありそう)」くらいはいえるようです。

まとめ(個人的感想)

「強みの活用尺度」については、2007年以降のいくつかの強み介入の論文で度々登場してくるな、と思っていました。ただ、その心理測定尺度の確からしさってどうなの?という疑問を分析をしている論文と出会えたため、その納得度を高めることができたのは収穫でした。

同時に、「多重回帰分析」や「縦断研究デザイン」などの方法は、なんとなくふわっとわかったつもりになっていても、その詳細は、まだまだ自分の理解が追いついていないな、、、とも感じるものでした。

こうした内容が手に取るように理解できたら面白いんだろうな、と思いつつ、自分のペースで少しずつ理解を深めたいと思います。

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