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カウンセリングで子育てを支えるために―応用編:発達段階ごとの悩みへの向き合い方(前編)―

青年期のアイデンティティ発達や親子関係についての研究するほか、スクールカウンセラーや幼稚園カウンセラーなどで教育・保育(子育て支援)分野で活躍なされている遠山千尋カウンセラーに、全3回に渡って、心理支援を通した子育て支援のあり方や実践について解説いただきます。

入門編では、子育ての悩みを紐解きながら、大まかに振り返ってきました。
応用編となる今回(第2回)と次回(第3回)の2本では、子どもの発達段階別によく見受けられる悩み事の実体や傾向、また、どんな対応をしていけるとよいのか、そのヒントを探っていきます。

ここでは、便宜上、発達段階を乳児期(0歳~3歳)・幼児期(3歳~6歳)・学童期(6歳~12歳)・思春期(12歳~18歳)の4つに分けて考えてみたいと思います(年齢は大体の目安です)。
第2回の今回はこのうちの、幼児期までについて考えていきます。

※この記事「カウンセリングで子育てを支えるために:応用編(前編)」は、全3回のシリーズの2本目です。

シリーズ1本目はこちら


乳児期(0歳~3歳)の子育てに関する悩み

赤ちゃんが生まれて、初めての育児。
お母さんは寝る間を惜しんで、様々なお世話に追われます。授乳一つとっても大変です。母乳かミルクか…
様々な情報が飛び交う中、何が正解なのか、どうするべきなのか、最初から正解のない育児の課題を突き付けられます。

授乳のタイミングは?
あげ方は?
発育は順調か?
…等など、様々なことが一斉に気になってきます。

そしてなにより、赤ちゃんは、容赦なく泣きます!
夜であってもおかまいなし!
まさに休みなく、数時間おきの頻回授乳は続きますので、身体もへとへとになり休む間もありません。たとえば母乳育児をしていると、赤ちゃんが泣いて起きる回数も多いので、そのことも悩みの種になります。卒乳のタイミングも、悩まれる方が多いです。良かれと思って母乳育児をしているけれど、母乳をあげていることで大変なこともあります。授乳一つとっても、アンビバレントな状態になるのです。

また、赤ちゃんの発育・健康面での心配には、かなり敏感になる時期でしょう。たとえば、初めてのお熱が出た!ふと目を離したすきに、何かを口に入れてしまった!本当に言葉をしゃべりだすようになるのか?歩き出しが周りの子に比べて遅いぞ!など、ちょっとしたことで心配になり、不安になります。

子どものことに全集中しながら、24時間警戒モードでいることは、当然ながら疲弊も伴います。産後の身体は疲れやすく、ゆっくり休めない中で、しんどいこと、気がかりなことは増えていくのです。離乳食が始まれば栄養面の心配がやってきて、歯みがきやトイレトレーニングなど生活面の心配など、様々な気がかり事がお子さんの発達と共に次から次へとやってきます。

ここまでお伝えしてきて、なんて大変なんだろう!と途方もないお気持ちを感じられた方もいらっしゃることでしょう。育児は確かに大変、でも幸せもちゃんとあるものです。その幸せや喜びを感じられるかは、周囲のサポート力がカギを握っています。
育児をしていく上で、パートナーや原家族などの頼れるサポート源があるかどうか、一緒に協同作業をしたり、苦労や大変なことも共有し分かち合えているか。お母さんがひとりで抱え込まなくてすむ環境があるかどうかは、大きなポイントです。

とはいえ、なかなかそれらのサポート源が得られず、ひとりでがんばっているお母さんも少なくありません。そんな孤軍奮闘状態のお母さんは、まずは自分の話をたっぷり聴いてくれて、受け止めてくれる居場所を求めています。

吐き出すということはとても大切で、こころの内にとどめて悶々としている状態は、ただでさえ忙しい育児生活の中で、容赦なくお母さんのエネルギーを奪っていきます。どうしたらよいかわからない中、暗中模索しているお母さんに、まずは安心して話せる居場所としてカウンセリングの場を活用していただき、ご自身の守りとしてサポート源に加えていただくこと。
それも大切なコーピングの一つで、自分を守るスキルの一つだと思っています。

この時期に多い相談内容としては、言葉の発達・情緒面の発達に関することです。表情が乏しい、言葉の発達が遅いなど、かなり早期から発達障害の可能性を心配されてご相談に来られる方もいらっしゃいます。
昨今は発達障害に関する情報も幅広く周知されているがために、母親の不安を助長してしまうことも多いように感じます。
そして、母親は、「自分の育て方が悪かったのではないか」と自分を責めてしまい、自分のせいだと原因帰属してしまう傾向がみられます。

これは、発達障害に関わらず、いわゆる手がかかるお子さんなど、お母さんの思った通りにいかない場合や発達の目安とされるものに満たない場合など、お母さんは自分を責めて、対応法に困り果てて自信を失ってしまうというパターンに陥りやすくなります。ひとりで不安を抱えたお母さんは、良くない未来を想像しては、どんな対応をすべきなのかと『正解探し』に翻弄され、疲弊しきってしまうことも多く見受けられます。

こんなとき、どのような対応を心がけるとよいのでしょう。まさに『正解』はありませんが、この時期は特に、お母さんの不安を吐き出させてあげるとよいと思います。泣ける場を作ってあげる感じです。
「それは不安だよね」と感情を受け止め、認め、「よくがんばっているね」とエンパワーメントしながら肯定的な側面にも目を向けていきます。
そして、「あ~、私はこうだったんだ~」とお母さん自らが気付けたとき、また次のステップに進めるでしょう。
子どもの発達を「自分のせいだ」と過剰に自分に原因帰属していたことに気付けたとき、子どもの個性を客観視し、共に対応策を検討していく土壌が育っていきます。

巷には『こうしましょう!』『こうすればよし!』という子育て術やアドバイスに溢れています。それらは魅力的に映るものの、それが本当に生かせるかどうかはケースバイケースです。
子どもそれぞれの個性によっても違い、対応していくお母さんの個性によっても違います。まさにオーダーメイドされた対応法や工夫、コツのようなものを一緒に探っていけるとよいでしょう。

この時期は、お子さんそれぞれの発達の個人差も大きいものなので、不安を受け止めながら、共に、できることを検討していくこと。発達心理学の知見から、心理教育をすることも有効です。その中で、発達障害の可能性など現実的なフォローが必要な時は、専門機関や社会的な資源を有効活用できるように、サポート源とのコネクションを作っていくことにもアプローチしていきます。

お母さんが周りのリソースを有効活用しながら、ひとりで抱え込まない環境を作っていく視点も持ち合わせていることが大切です。そんな風にお母さんが周りの力を頼れた時、まさに他者と育くみ合っていける自分として、我が子を育んでいくことに対する見方や意味合いも変化していくものでしょう。


幼児期(3歳~6歳)の子育てに関する悩み

幼児期になると、保育園や幼稚園に通いだす子が多くなっていきます。親の手を離れ、子どもは社会生活を通して、生活習慣や人との関係性、コミュニケーションを学び、情緒体験を積み重ねていきます。

この頃の悩み事として多いのは、園生活に関わる悩みです。
朝の登園渋り、泣いてばかりいる、他の子と同じように集団生活ができないという悩み事や、ママ友との関係性で悩むことも増えてきます。
『○○ちゃんママ』として呼ばれることも増え、母親自身のアイデンティティも揺さぶられます。また、マウンティングなどの言葉にも代表されるように、子どもを通して人と比較したり、ヒエラルキーのような問題構造も浮き彫りになってきたりします。

子どもへの期待も膨らむ頃ですので、「うちの子は、できる!」という期待が強すぎると、習い事や早期教育など、お子さんよりもお母さんが一生懸命になってしまい、歯車がうまく回らなくなることもあるでしょう。

また、家庭でも、第一次反抗期を迎え、わがままになったり、言うことを聞かなくなったりして、対応に困る時期でもあります。
朝、子どもを起こしてから、食事、排泄、身支度と生活面のお世話に加え、子どもは素の感情をぶつけてきますので、忙しい時に、「いやいや~!!」と泣きわめき、お母さん自身が泣きたくなるようなエピソードの数々は山ほど見聞きしますね。
夜も、なかなか寝ないという相談事も多いですが、子どもがようやく寝付くころにはお母さん自身の体力も尽き果て、気付けば一緒に寝落ちの毎日。自分の時間なんて満足に取れないような日々なのです。

また、この頃は、『きょうだい問題』も生じやすいです。たとえば二人目、三人目を望むのか、どう育てていくのかなどを悩み、そこから金銭的な不安や夫婦間の価値観の違い、また性生活に関する相談にまで広がるテーマでもあります。
実際に、弟や妹さんが生まれると、お母さんは複数分のお世話に追われるだけではなく、上のお子さんへの対応に困り果ててしまうケースが多いです。
上の子がわがままになって、言うことを聞かない!下の子はかわいいと思えるが、上の子はどうしてもかわいいと思えない!などお母さんの中でも葛藤する気持ちを抱えてしまいます。

お仕事をされているお母さんの場合は、まさに目まぐるしく、日々が走馬灯のように駆け抜けていって、全てが中途半端になる感じに悩まれることが多いようです。仕事も以前と同じようにはこなせない、自分自身のキャリアに対する不満や焦り。追われるように日々が過ぎていって、子どものことにもちゃんと向き合えない。
日々たくさんがんばりながらも、そんな自分自身を認められないことは、お母さんの苦しさをさらに助長します。

この時期の特徴は、忙しい日々の中で、葛藤することが増えていき、あれもこれもでパンク寸前の状態に陥りやすいことです。そして、特にこの時期に着目したいテーマは、夫婦関係です。夫婦関係が良好であれば、お母さんは悩むことがあっても、夫との対話や理解し合えている安心感のもとで、その葛藤を夫婦で一緒に乗り越えていくことができるでしょう。
お母さんの悩みが顕在化しやすいのは、陰に夫婦関係の問題が隠れている場合が多いものです。中には、子どもへの不満を言っているようでいて、実はその不満は夫に向けられていることもあります。

この頃に特に留意したい話の聴き方としては、お母さん自身がどう感じるのかを丁寧に整理していって、自身の感情や感じ方を自分自身で受け止めていく基盤を作っていくことです。自分は今どういう状態なのか、何ができていて何が課題なのか、どうしてそう感じるのか…少しずつ紐解いていきながら、やはりお母さんの自己受容を丁寧に支えていきます。そのお母さんなりにがんばっていることや心がけていること、工夫していることなどがきっとあります。その方なりのやり方を認め、がんばりも認め、エンパワーメントしていくことが大切です。

お母さんの自己受容が進んでくると、気持ちが落ち着いてきます。
その上で、お子さんの個性やどうしてそのような反応になっていたのか、問題のパターンや悪循環の本質を捉えていきます。その子それぞれに受け取りやすい刺激や反応の仕方などもあるものです。
どういう伝え方をしたらわかりやすいのか、どうしたらより望ましい行動に結びつくのかなど、これまでうまくいったパターンや例外に注目しながら整理していきます。そして、できたら褒める、できなかったときの対応はどうするかなど、応用行動分析のヒントを活用したり、その子の得意なところを活かしながら対応法を探ることもコツです。

同じことは、夫婦関係においても大事なことです。
忙しい日々の中で役割分担につまづき、すれ違う夫婦も多いものですが、お互いの得意なことや苦手なことから、価値観や感じ方などに至るまで、丁寧に対話し、理解し合えているか、共有できているかが大きなポイントとなります。

子どもに対しても、夫に対しても、大切なことは、コミュニケーションです。相手に一方的に期待したり求めてしまうと、自分自身も苦しくなってしまい、悪循環の源になります。
まずはそんな状態に陥っている自分自身に気付くこと。そして、どうして自分はそう感じるのかなど自己理解を深め、自己受容を積み重ねていくことです。その上で、きちんと自分自身の感情や想い、考えなども落ち着いて丁寧に伝えていくこと。

その際に、『Iメッセージ(「私は~」を主語にして、自身の感情や気持ちを伝えていくこと)』というコツは、汎用性が高く、効果のあるものだと感じています。
お母さんが、「なんであなたはこうなの!」というイライラの圧力をぶつけていたところから、「私は、悲しいんだ」という言い方にかわるだけで、言葉がわかり始めたくらいの子どもであっても、慣れ親しんだ夫であっても、ただ『お母さん・妻』として見ていただけだったところから、きっと何かしらの気付きが生まれてくるものと思います。

対人関係において、すれ違うことはこわいことではありません。
むしろ、自分自身の感じ方をしっかりと伝え、相手の感情や気持ち、想いなども受け止め、違うところをも認め、受け入れられた時、真の信頼関係が成り立つのだと思います。自分と他者は違うからこそ、支え合えるのです。
自分と他者の違いも受け入れ、だからこそサポートし合い、支え合って生きていくこと。
家族という近しい間柄だからこそ、そのことがとても大切だと思います。



まとめー家族の発達を支えるということー

振り返ってみて、いかがだったでしょうか。
こうして子育ての悩みの正体を紐解いていくと、これらをより深刻な悩みとして抱え込みやすいお母さん像として、責任感が強く、「自分ががんばらなくちゃ!」とがんばりすぎてしまうお母さんのイメージが浮かぶように思います。

がんばれることは、素敵なことです。でも、一人で背負い込んだり、「自分のせいだ」と自分を責めては追い込んでしまって、空回りしてしまったり…
我が子は思い通りにいかず、夫ともわかり合えない…
お母さんの一人っきりの孤独な空回りは続き、どうしたらいいのか、まさに迷子になってしまいます。

乳児期から幼児期からの子育ては、問題や悩みを抱えやすい時期ですが、でもだからこそ、気付けることがあるものです。自分自身を振り返り、自分を認めてあげること。それは自分自身の個性を改めて知り、自分で自分のことを受け入れてあげる大切な過程なのだと思います。
そして同時に、我が子や夫の個性も知り、認め、受け入れていくこと。お互いの違いも含めて、丁寧に対話し、理解し、共有していけるかが大切なことです。

子どもは、お母さんの所有物でもありませんし、期待や要求に応えるべきものでもありません。ひとりのかけがえのない個性をもつ大切な存在。
夫も、何も言わなくても通じ合えて、全てを理解してくれて全部を満たしてくれる万能な存在ではありません。ひとりのかけがえのない個性をもつ大切な存在。
家族は、それぞれの個性が違う中で、支え合い、助け合い、共に歩んでいく同志でもある存在なのでしょう。

この時期は、『家族』を作っていく段階です。正解のない子育て・・・お母さんは、母としての責任や役割を背負い、日々がんばっています。それぞれの個性を有した我が子を、夫と共にどう育み合っていくのか、それを模索していく貴重な時期です。
葛藤することは必然でもあるでしょう。それは最初からあるものでも正解があるものでもなく、まさに葛藤しながら、試行錯誤しながら、気付き、見出し、育み合っていくものだからです。

その過程では、お母さんの葛藤を、ごもっともなこととして、否定せず、受け入れ、肯定的に抱えてくれる居場所が必要です。お母さんの葛藤を抱える場があってはじめて、お母さんは、家族の葛藤を抱えることができるのでしょう。

そんな唯一無二の場として、カウンセリングが機能することを祈って、この章を閉じたいと思います。


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