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カウンセリングで子育てを支えるために―入門編:子育ての悩みを紐解く―

「子育て支援」というとどのようなことを思い浮かべるでしょうか?
もしかしたら、何か子育てに役立つアイデアやコツ、工夫を教えることを思い浮かべたり、発達心理学の知識を伝えたりすることを思い浮かべる人もいるかも知れません。

たしかに、アドバイスを伝えたり、心理教育をしていくことが大事な局面もあります。とはいえ、カウンセリングにこられるお母さんの中には、むしろ育児書を読み漁ったり、たくさん勉強をしていて、それでもどうしようもなく苦しくて、途方に暮れてやってこられる方も多いものです。
では、そんな途方に暮れている人に、どのような支援をしていくのがよいのでしょうか?
今回は、青年期のアイデンティティ発達や親子関係についての研究するほか、スクールカウンセラーや幼稚園カウンセラーなどで教育・保育(子育て支援)分野で活躍なされている遠山千尋カウンセラーに、全3回に渡って、心理支援を通した子育て支援のあり方や実践について解説していただきます。

※この記事「カウンセリングで子育てを支えるために:入門編」は、全3回のシリーズの1本目(入門編)です。


私が心理職としてのキャリアのスタートを切った時、同じように自分自身の子育てのスタートラインに立ったような状況でした。
行き先もやり方もわからない中で、まさに謎多き子育ての世界の悩みに立ち向かうことは、壮大な『生み出すものとのみ込むもの』の波にのまれるようで、なんとかその波にさらわれないように、必死に現場での生き知恵を習得しようともがいていたころを思い返します。

そんな私は、生きる臨床家として、自身の子育て経験からも、子育てという壮大なプロセスから生き知恵を学んできたように感じます。
正解がない世界の片隅から、今まさに臨床家としての歩を踏み出された皆さんの何らかの指針になることを祈って、今の私から見えている片鱗を綴ってみたいと思います。

子育てとはなにか?

子育てとは何か…
それは文字通り、子どもを育てることを意味しますが、子育て支援の現場では、ただ単に子どもを育てるという意味合いに終始しません。

私が支えとしてきた言葉に、『子育ては、個育て』『育児は、育自』という言葉があります。
子育ては、それぞれの個性をもった子どもを育てていくこと、つまり子どもの個性を育んでいく営みでもあります。そして、それは同時にそれぞれの個性をもった母親が、母親自身を育てていく営みでもあるのだと思います。

『個性』といっても、子どもひとりひとりの特性、特徴、持ち味は様々で、それらをどう捉え、どう生かしていくのかはとても奥深く、まさに正解のない、手探りの旅のように感じられることでしょう。
人見知りな子、手がかかる子、よく泣く子、大人しい子、じっとしていられない子、オーバーリアクションな子、言葉数が多く早口な子といったように、その個性の持ち味や深みはとても多彩で、その個性をどう捉えていくのかも自由に溢れているものです。

そんな個性という花がどう開いていくのか、その過程に寄り添うのが子育ての営みだとすると、そこには一筋縄では語れない色々なドラマがあるはずです。喜びもあれば、悲しみもあるでしょう。子どもの成長を感じられることもあれば、何をしてもうまくいかない絶望や停滞感を感じることもあります。
そんな風に日常を通して様々な感情体験を積んでいく中で、子どもの個性をどう捉え受け止めていくかは、まさに母親の個性にかかっているとも言えるのかもしれません。

たとえば、子どもがわがままを言ったときに、それを受け入れられるときもあれば、受け入れがたい時もあるでしょう。怒りを感じるときもあれば、涙がこみ上げるときもあるはずです。子どもの発達が気になって仕方なかったり、些細なことで不安になったり、自分の育て方がこれでよいのか悩み、葛藤することも多いものです。

母親自身も、そんな感情の揺れ動きを経験しながら、自分を知り、受け止め、自分自身を育んでいくものです。これは一人で成し遂げられるものではなく、子どもとの相互作用で影響し合って学びとなっていくものなのだと思います。

そんな風に、母と子、それぞれの個性が影響し合いながら、互いに様々な感情体験を積んで、それぞれの個性を育み合っていくことこそが、子育ての一つの在り方なのだと思います。


子育ての大変さとはなにか?

「子育ては大変!」とはよく言ったものです。
子育ての自由度は増しましたが、巷では、『子育ては大変なもの』というイメージが根深く、何か大変なことを成し遂げていかねばならない、大変なことをこなしていく苦行だという重みさえ感じられることもあるかと思います。

実際に、カウンセリングの場面でも、「こんな至らない私が、子どもを育てていけるのか」「自分のことで精いっぱいなのに、子どものことも背負っていけるのか心配だ」という声をよく耳にします。昨今の社会事情もあり、親が家庭人・職業人として複数の役割を担うことの大変さ、パートナー間での役割分担・分業についての難しさ、また子どもを授かりどう育てるかということに関する自由度が増したことでの悩みなど、子育ての課題は時代の色を映しながら、様々なテーマを浮かび上がらせます。

改めて、子育てが大変な理由は、まさに正解がない世界で、どうしたらよいのかわからない中、手探り感覚で日々をこなしていくことにあるような気がしています。
妊娠、出産を経て、そこから突然始まる育児は、乳児期から幼児期、学童期、青年期を経るまでその時々の発達課題を含みながら、次から次へと問題は移ろいでいきます。

きっと、誰しもが子育てを通して悩むものだと思います。
わかりきった対応法や正解を教えてもらえて、それで楽になれたらどんなにいいことでしょう。実際は、そんな魔法のような解決法はなく、親自身が自分自身を通して自分を知り、感情を受け止め、気付きを得ていくプロセスを通して、ようやく一筋の光が見えてくるような感じです。

子育ての実際は、どうしたらよいかわからない中、葛藤し、悶々とし、それでも日常をこなしていかなければならないことばかりです。また、途中でやめたり、休むことは気楽にできず、日々追われるかのようにやらなければならないことをこなしていかざるを得ない親御さんも多いことでしょう。


母親の苦しみ

ここでは代表して、主な養育者を母親として、話を進めていくこととします。もちろん父親も育児を担う重要な役割を果たしますが、母親としての葛藤はより特徴的です。それは、母親は、自分自身が生み出した存在である我が子という唯一無二の存在に対して、複雑な感情を抱くものだからです。

「可愛いはずの我が子なのに」「母親は子どもを愛して当然なはずなのに」、どうしても可愛がれない、可愛いと思えない、お世話もしたくない、時には憎いとすら思ってしまうこともあります。

我が子が思い通りになったらどんなに楽なことでしょう。
でも現実は、何回言っても言うことを聞かなかったり、困らせることをしたり、痛いところを突いてくるような言動をしたり…子どものことで、感情をかき乱されることもあれば、体力も尽きるほどあれもこれもやることがあって、途方に暮れてしまうこともあります。

「愛すべき存在」が、自分を困らせる憎き存在でもあること、このアンビバレントを母親一人で抱えていくことは困難です。母親という役割は、このアンビバレント状態を内包しながらも、世間から求められる『良いお母さん』像に苦しむことになります。

今どきの『良いお母さん』とは、どんなイメージなのでしょう。
人それぞれではあると思いますが、カウンセリングの場面で良く見聞きするのは、仕事も家事も育児もすべてをこなすパーフェクトウーマンというイメージ像が多いようです。それらを器用にこなし、子どもにも笑顔で優しく接するお母さんという感じでしょうか。これは、想像に難くないと思いますが、とてもとてもハードルが高いことです。

子育ての自由度は増したようでいて、実はその自由度の高さから、周りと比べ、自分らしさを見失ってしまうこともあります。
他者と自分を比べては、仕事も家事も育児もこなすという完璧な母親像が理想化され、そんなオールプレイヤーであることを自分自身に課してしまい、それが思うようにできず、自分を責め、苦しむ母親も少なくないはずです。


母親が助けを求めるとき

子育ては、様々な問題と直面化します。
それは、子どもの発達段階によって様々ですが、その問題は手を変え品を変え、次から次へとやってきます。一つの局面を乗り越えたと思ったら、また次の課題がやってきて、終わりのないいたちごっこのようです。

この現象は、客観的に少し距離を置いてみれば、子どもが成長する時の大事なステップでもあって、成長する前には、苦しいこと、つらいことなど何らかの壁や課題がやってくるものです。
これを乗り超えた時、親子共に成長していけるもので、あとから、あの苦しかったことにも肯定的な意味付けができるものなのだと思います。

でも、その問題の渦中にいるとき、親も子もとても苦しい…苦しいものです。にっちもさっちもいかない、まさにどうしたらよいかわからず途方に暮れ、一寸先は闇のような状態になることもあります。

さらに追い打ちをかけるのは、子育てには休みがないことです。
世間的にお休みの日であっても、子どもの衣食住を守り維持するためには、母親のやることリストに終わりはありません。それを自分の都合で休むことはできず、たとえその時に棚上げしても、結局はあとから「自分がやるしかない」と追い込まれてしまったり…
ゆっくり自分を振り返ったり、涙を流す暇もないものです。
実は、それだけちゃんとがんばっているのですが、その問題の渦中にいるときは、そんなことには気付けない、気付けるほどの余裕もなく、切羽詰まった状態が続きます。

そして、どうにもいかなくなったとき、母親の感情はまるでダムが決壊するかのように、様々なありさまで溢れていきます。それが子どもに当たるということであらわれることもあれば、夫に向かう場合も多くあります。
攻撃的になったり、イライラが止まらなかったり、感情の起伏が激しくなってコントロールできない感じがあったり…現実的にこなさないといけないことに手がつかなくなったりします。

これは、大事なこころのSOSのサインです。
このようなつらい感情たちは、「今、つらい気持ちだよ~!大変な状況だよ~!!」と教えにきてくれたかのように、あちらこちらで問題として顕在化し始めます。
このときに、日々がんばるお母さん達が、「つらい時はつらいって言っていいよ」と自分を許せるか、そうやって許してもらえる場があるかということがとても重要で、その一助を担う居場所がカウンセリングだと思っています。

つらい状態に陥った時、できればそうなる前に、お母さんが気軽に頼れて話せる居場所があることがより理想的です。そのために、私たちカウンセラーは、より身近に気軽な形でカウンセリングを届けられるように、できることを考えていけたらと思います。


そのとき、何ができるか

そんな風にして、ようやくたどり着いた居場所が、カウンセリングだとしたら…

あなたは、どんな風に話を聴いてもらいたいですか?
どんな風に接してもらえたら、縮こまったこころが、ほっと和らいでくれるでしょう?
どんな雰囲気だったら、安心できるでしょう?

日頃がんばっているお母さん、それも家族や子どもためにがんばっているお母さんには、安心して自分と向き合えるための居場所が必要です。その居場所であるためには、まずは、『ありのままの自分でいい』と安心感を感じ、それを受容してくれる器があることです。

人は、受け入れられてはじめて、自分を受け入れることができ、そして他者を受け入れることができるのだと思います。
安心して、涙を流せる場所…そんな居場所は、あなたにあるでしょうか?

現代人は、複雑化した社会生活の中で、様々な役割を担い、背負い、葛藤し、いつしか本当の自分で、ありのままの自分で、感じたり、表現したりすることに臆病になっていたり、抵抗感を感じたり、気にし過ぎてとらわれていたり、許されない気持ちになっていたりします。

がんばりすぎているときほど、どこか鎧のように自分をガードしていて、それは守りでもありながら、縛りでもあるのです。その鎧を背負い続けることはとても重たくて、苦しいこと。その背負っているものを安心して下ろして、ありのままの自分で、ありのままの感情を感じることが許される時間と空間を意識的に作っていくことは、こころの健康にとっての大事なスキルだと思います。

カウンセリングは、その鎧を安心して下ろしていい場所です。
誰も責めません。どんなあなたであっても、ありのままのあなたとして、そのまま受けとめ、受け入れてもらえる、そんな安心できる居場所。私は、そんな居場所を守っていくために、『伴走者』であることを意識しています。

カウンセラーは、教え導くものでもなければ、何でも許して、ただ聴いているだけの存在でもありません。その人生の主役であるクライエント、目の前のお母さんに、まさに主役になってもらえるよう、共に伴走していくことを大切にしています。


子育て支援の落とし穴

子育て支援というと、「支援してあげなくちゃ」と思われる方もいるかもしれません。何か子育てに役立つ知識や知恵やコツや工夫を教えてあげて、「お母さんに役立つことを提供しなくちゃ」という使命感にかられる方もいるかもしれません。
確かに、発達段階を理解して、それに沿った対応法やアドバイスをすることが大切な場面もあります。特に、お母さん方の関心の高い発達障害などの特性をもつお子さんの場合は、その対応法にコツが必要ですので、そのことを知識として理解し、心理教育という形で伝えていくことは大切です。

しかし、教えてあげるというスタンスが強いと、抵抗や傷つきを示すお母さんも多いことも事実です。実は、そこが落とし穴なのです。

カウンセリングにこられるお母さんの中には、むしろ育児書を読み漁っていて、どうしたらよいのか情報を得るように努めていて、それでも苦しいから、解決法がわからないから、途方に暮れてやってこられる方も多いものです。そんながんばり切っているお母さんに、「ここをこうしましょう」と伝えても、「それでもうまくいかなくて・・・もっとがんばらなくちゃ!」とさらに追い込んでしまったり、「うまくいかない自分が悪いんだ」と自分を責めてしまう方向性にも傾きがちです。

支援者としては、『こういう時はこうすればいい』とマニュアルがあれば楽なのですが、子育ての場面ではそれが通用しないことも多いのです。支援者は楽をせずに、クライエントの抱える苦悩に寄り添い、共に感じ、考え、伴走していく姿勢が何より大事だと思います。

そうやって『受け入れてもらえた』という感覚、『ありのままの私でいていい』という実感、『ありのままの私で許される』という安心感が土壌となり、お母さんは日頃ためこんでいた感情を吐き出し、話しては放し、客観視しては気付き、受け入れてもらっては自分の中でも受け入れどころを見つけていき、少しずつ受容と変容を繰り返していきます。

様々な肩書や役割を下ろし、ありのままの自分で、感情を吐き出して、思いっきり泣けたとき。「あ~、私はこんな気持ちだったんだ」と自分の気持ちに気付き、受け入れ、許し、受け止めることができます。その気付きが、とても大切です。

そんな風に気付きの過程を子どもと一緒に歩んでいく営みが子育てだから。カウンセリングという場では、その気付きを促し、支え、整理し、認め、受け入れていくことが重要になります。
『支援しよう!教えよう!!』という、一見すると正統派のやり方のように見えて、それこそ子育てと同じ落とし穴がそこにはある。『教えよう』というスタンスであり続けると、お母さんが陥っている問題構造と同じになってしまったり、気付きを促せなかったり…要は、共に感じ、認め、受け入れていくこと。カウンセリングの大原則でもあるような根本にある大切なもの、それこそお母さんが癒され、受容し、先に進んでいくためには大切な姿勢なのだと思います。

カウンセリングという場で、カウンセラーは器となって、まずはお母さんの受容を育んでいくこと。そこから丁寧に積み重ねていくことが肝だと思います。そういう意味では、カウンセリングは、お母さんを支え育てていく場でもあるのかもしれません。とはいえ、私は子育て支援を通して、自分が育てられてもいるので、やはり、子育てのポイントは『育ち合い』ということになるのでしょうね。


何を聴き、どう伴走するのか。

それでは、具体的に何をどう聴いて、どう寄り添い、どんな風に伴走していくことが効果的なのでしょうか。

子育ての悩みは様々ですが、ある程度共通した足取りをたどって、気付きと受容のプロセスは進んでいきます。
まずは、ありのままのお母さんから吐き出されることを、こちらもありのまま聴き、寄り添っていきます。子育ての悩みをはじめとして、夫への愚痴、義母への怒り、両親への葛藤する気持ち、漠然とした不安、自分を責める思考など…色々な話題やテーマが繰り広げられ、様々な切り口で自分語りは深まっていきます。

カウンセラーは、そこで語られたことを全身全霊で受け止め、共に感じ、返していくこと。お母さんは、自身の感情を受け止めてもらうことで、自身の感情に気付き、「受け止めてもらった」という安心感を土壌に、自分自身の気持ちを受け止めていきます。その過程を繰り返し、お母さんは様々な気付きを得ていくのです。

何が問題だったのか、子どもはどうしてそのような行動を取ったのか、その時の子どもの気持ち、自分の気持ち、どうして自分はそんな風に反応したのか、どうしてそんな気持ちになったのか…
お母さんは、それぞれのペースで、それぞれの気付きを深めていきます。

最初は、子育ての悩みだったものも、よくよく聴いていくと、そこには夫婦関係の悩みだったり、自身の原家族との葛藤や親子関係の歪みがあったり、義両親やママ友との人間関係の悩みだったり、複合的に様々なテーマが絡んでいることがみえてきます。それら一つ一つを整理していって、最終的には、『自分』という存在に行きつきます。

『自分』はどんな風に感じ、どうしたいのか。
『自分』にはどのような個性や特性があって、どう付き合っていけるとよいのか。
これまでどんな風に歩んできて、どんなことを望んでいるのか。

『自分』への気付きを得ることによって、子育ての悩みについても客観視ができたり、距離を取って見直すことができたり、子どもの個性や特性も理解することによって、対応法を工夫していくこともできるようになります。

カウンセラーは、どうするのかを教えるのではなくて、この母親自身が気付きを深めていくプロセスに寄り添い、母親の自己理解を深め、子どもへの理解も共有し、そこからどんな対応法や工夫ができるのか、一緒に考えていくのです。そういう意味で、カウンセラーは、『先生』ではなく、『伴走者』なのだと思います。

一人で『育児』という暗闇の世界をさまよいもがいていたお母さん達にとって、一歩一歩、共に歩んでくれるカウンセラーの存在はどれだけ心強いことでしょう。その存在と居場所感がお母さんの支えとなって、そのお母さんらしい子育てができるようになること。

私はその営みに寄り添い、自分自身も成長していけたらと願っています。


シリーズ第2回目はこちら⇩

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