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スタートアップで働く人へ。メンタルヘルスケアの処方箋 【SusHi Tech Tokyo 2024対談】

世界の時価総額ランキングを見ると、IT・AI関連企業が連なり、人材や知財などの人的資本から価値を創出する企業が台頭してきました。
人的資本を経営の重要指標として据える「人的資本経営」は、企業規模問わず重大なテーマになっています。

その中でも、スタートアップ企業は、人への投資が企業成長に直結しやすく、競争を勝ち抜いて時価総額が高まっているスタートアップは、従業員に向き合った働き方へ意識的に変化しようとしています。

今回は、スタートアップで活躍する経営者が、人的資本経営の中でも特にメンタルヘルスケアに焦点を当ててトークセッションを行いました。

※本記事は、2024年5月15日に「SusHi Tech Tokyo 2024」にて行われたトークセッションを元にしています。


【登壇者(敬称略)】

西岡 恵子(株式会社cotree 代表取締役)
2013年同志社大学卒業後、森永製菓に入社。​その後サイバーエージェント、コネヒトに参画。​
事業家として大企業からスタートアップまで様々な環境を経験し、2022年に​株式会社cotree代表取締役に就任。

森山 穂貴(株式会社emome 代表取締役社長)
LINE株式会社(現:LINEヤフー株式会社)にて、プロダクトマネジメントに従事したのち、実家の介護事業の系譜を受け、株式会社emomeを創業。介護施設での利用者のWell-Beingを実現する事業を展開。同時に自身の経験をもとに、起業家向けコーチング事業「GRITCOACH」を運用。

尾林 誉史(株式会社産業医 代表取締役 / VISION PARTNER  メンタルクリニック四谷院長)
東京大学理学部化学科卒業後、(株)リクルートに入社。退職後、弘前大学医学部医学科に学士編入し、東京都立松沢病院にて臨床初期研修修了後、​
東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。現在、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷の院長を務めつつ、23社の企業にて産業医を務める。


意識的に「余白」を作る。経営者のメンタルヘルスケア方法

西岡:まず、スタートアップで活躍されている登壇者の皆さんが行っている、日々のメンタルヘルスケア方法を共有いただきたいと思います。

まず私が行っている方法の1つ目が、定期的にデジタルデトックスをすることです。私を含め、常にスマートフォンやパソコンを手にしている方も多いと思いますので、それらから一旦離れて他人の感情に左右されないような時間を作っています。
2つ目が、利害関係のない第三者に相談することです。特に悩みや不調がない時にもカウンセリングやコーチングを定期的に利用していますが、肩書きを脱ぎ捨てて、かっこ悪い自分も受け止めてもらえるような時間を作ることが重要だと思ってます。
3つ目は、スマートデバイスを活用し、客観的に自分の体調を把握してコントロールすることです。私はOura Ringで毎日の睡眠を可視化しながら、感覚ではなく客観的な数値を見て、数値によっては強制的に休むようにしています。

このような形で自分をコントロールしながらチャレンジを続けていますが、皆さんのメンタルヘルスケアの方法もぜひ教えてください。まず森山さんはいかがでしょうか?

森山睡眠は何が何でも取らなければいけないという意識があります。少なくとも7時間前後はしっかりと寝れるように意識しています。
どうしても早起きが必要な時は、移動手段を工夫してできるだけ目的地に着くまで寝れるような環境を整えていますね。睡眠はメンタルの安定にとって非常に重要な要素ではないかと考えています。

西岡:尾林さんは精神科医であり産業医でもいらっしゃいますが、ご自身のメンタルヘルスケアで気をつけていらっしゃることはありますか?

尾林:私は一日の予定の中で、あえて30分〜1時間ほど何にも予定を入れない時間を確保しています。その時間は、気分が乗ってれば仕事したり、「疲れたな」と思ったら休む自由時間です。
これにどのような効果があるかというと、スイッチングコストの省力化です。皆さんも種類が違う様々なタスクに対応されていると思います。仕事の中でも複数のプロジェクトに携わったり、仕事をしながら家事などをこなす方もいるでしょう。
そのようにAからB、BからCって頭を切り替えることは、ものすごくスイッチングコストがかかるので、一旦リセットしてあげることが必要です。
スイッチの連続でタスクを入れてくのではなく、あえて休憩の時間を入れるという心掛けは、効果的かつ実践がしやすいと思います。


スタートアップならではの抱えやすいストレスとは

西岡:では、少し話の規模を広げてスタートアップの人的資本経営についてお話ししたいと思います。
大企業とスタートアップでは、どちらも成果を出す上ではストレスがかかりますが、ストレスの種類が大きく異なります。
大企業だと、信頼を維持するためのコミュニケーション負担が大きくなりやすく、具体的にいうとルールの厳守やミスが許されない丁寧さ、出世競争…などがストレスとして挙げられます。
一方でスタートアップは、当事者意識の強さから生じるプレッシャーがあります。一人で何役もこなさなければならない責任感や、強い仲間意識の中での人間関係、挑戦に対する成長痛が挙げられます。

お二人が考えるスタートアップならではのストレスはどのようなものがあるか、お聞かせいただけますでしょうか?では、森山さんからいかがでしょうか。

森山スタートアップの場合、会社の成果と個人の報酬が直結しやすいと考えています。
つまり成果主義に近くなるので、なかなか成果が出せないとプレッシャーを強く感じやすいのではないでしょうか。

西岡:ありがとうございます。たしかにそうですよね。
尾林さんは、産業医としてスタートアップ企業を担当されていらっしゃるとうかがいましたが、従業員の皆さまの様子はいかがでしょうか?
特にこのようなストレスを抱えやすいとか、このような悩みが多いなどの傾向があれば教えてください。

尾林:仕事のストレス要因は大きく3つに分類できると考えています。
1つは単純に仕事の量ですね。そして2つ目に挙げられるのが、個人の指向性と、事業としてやらねばならないこと・求められる期待値との乖離がある場合はストレスになり得ます。
最後に3つ目は、人間関係ですね。この人間関係はストレス要因としてとても大きい。仕事量や指向性はコントロールの余地がありますが、人間関係だけは自分の思い通りに動かしたり支配することができません。社員数が限られるスタートアップでは、人間関係は最も大きな問題になり得ます。

西岡:ありがとうございます。スタートアップはビジョン共感型で強い仲間意識があることも多いので、その中で合わなかった時に他の同僚とどう向き合うかはとても深い悩みだなと思いました。
では、人間関係の悩みをどう対処して乗り越えるのが良いか、尾林さんからぜひアドバイスいただけますでしょうか?

尾林:余裕がなくなってるときは、だいたい行き詰まって正しい判断ができない状態です。イライラしやすかったり、カリカリしやすかったり、ちょっとしたことを過大に受け止めてしまったりってことが起こりやすい。そのような状態の時に、精神的なゆとりを持てと言われてもなかなか難しいですよね。
そこでまずは物理的な余裕を持つということが重要です。時間的や場所・空間的な余裕を持つことが良いと思います。
その中でも一番トライしやすいのが、時間的な余裕を持つことなので、私は先ほどお話しした通り余白・余裕を作るということを意識的に行っています。


スタートアップで心身ともに健康に働く上で、持つべきマインドセットとは?

西岡:若手のうちから、余裕を心がけておけばこれからのチャレンジが変わっていきそうですね。
最後に、お二人からスタートアップで働く上でのマインドセットについて、アドバイスがあればお願いします。

尾林:産業医・精神科医として最近よく皆さんにお伝えしてるのが、成功と失敗という2軸で物事を考えすぎないことです。失敗体験が必ずしも悪いものなのかというと、それが逆に奮起する材料になったり肥やしになったりすることがありますよね。
なので私は、成功の連続というよりは挑戦の連続をしてほしいと思います。
挑戦した結果、上手くいったことを「成功」と呼び、望ましくない結果に「失敗」というタグをつけるだけの話で、全て経験として取り組む姿勢が良いと思います。

西岡:私もちょっとした失敗で悩んでしまうことがあるので、今のお話を新たな視点として聞かせていただきました。
では、森山さんからもアドバイスをいただけますでしょうか?

森山:スタートアップで働く方にとって、自分が「何をやりたいのか、どうやっていきたいのか」が見えていたり、その意志がある状態が良い状態だと思います。
さらに上手くいかない時の対処方法があると良いですよね。人によってそれぞれやり方があると思います。
例えば私の場合は、白紙にこれまでの人生の道のりや会社を立ち上げた経緯を書き出してみて考えを整理すると、見えていなかった想いに気づき、上手くいかない時も乗り越えることができます。

西岡:ありがとうございます。本当に貴重なお話が盛りだくさんだったのではないかと思います。
これからも皆さんの夢が叶うようなチャレンジを続けていただけたらなと思っております。本日は、ありがとうございました!

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