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レポートの正解を求めて。<博物館保存論 課題2>

レポートを作っていていつも感じるのは、これで課題の問いに合っているのだろうか、である。それは文学部の通信だった時も、美大の通信のおなじで、常に悩んで、考えて、それから何度も書き直していく。

 求められているものはこれなのだろうか、の連続で、起承転結もいるし、短い短編を創っているのと似ている。

 自分の考えを書きなさい、とだけ記されていても、そこには何かしらの発見とそれに対する自分の答えのようなものがないといけないのだろうから、それがきちんと説明できていない場合はただの感想になってしまって、文学部だったときの文学系課題、「アメリカ文学」とか「フランス文学」という方面の課題では、「これはレポートではなく、感想です」みたいな再提出がいくつかあったのを覚えている。確か学生になって最初の数年で提出した課題だった。

 博物館保存論は課題1が、近隣の施設を調査し、どのように管理運営されているかをレポートにした。課題2は、資料(展示物)が劣化してゆく状況の調査で、これも自分で探してレポートする。これで合っているのかどうか、わからないまま作って提出したが、一応合格を貰えたのでホッとした。

以下レポート。

博物館保存論 課題2

 公開資料を選択するにあたり、地元にある文化財で、長い間、鑑賞する機会が度々あった藤沢市片瀬江ノ島の「八臂弁財天」について調査をすることとした。この像は、神社の江ノ島弁財天神社の境内の中にある別殿、奉安殿に安置されている。

この八臂弁財天像は、鎌倉時代に2019年に国指定重要文化財に指定された。藤沢市文化財調査報告書によれば、修復は京都国立博物館文化財保存修理所にて、2021年の3月から5月にかけて、大規模な修復が京都国立博物館にて行われたことが記録されている。この修復に伴い、奉安殿自体の修復も行われた。修復後、2年経過している本像は、奉安殿の長年の同じ場所に安置されている。

修復後の記録には本体・光背・台座に分けて、19箇所の修理状況がある。このうち、一般鑑賞者として目視で確認できるのは、「経年の塵埃の付着」で、この原因について調査を進めた。この煤は、二年前に修復されて薄らいだように見えるが、全く取り払われたわけではなく、全体像はやや煤けている。これは以前より気になっていた劣化である。

 筆者は子供の頃から江ノ島神社に詣でる度に、奉安殿の弁財天像に参拝し、鑑賞してきたが、この八角堂の造りの奉安殿そのものに照明がほとんど設置されていないため、印象は暗いもので、二体の弁天像は薄暗い空間にぼんやり浮かんで見えた。本殿と比較してこの奉安殿は小さな空間で、大人がせいぜい八人程度入れば満員電車並みの混雑に違い。

 この堂内に祀られた像は「八臂弁財天」に加えて、「妙音弁財天像」の二体がある。近年の修復以前、双方とも経年の劣化のため煤けたような像だった。貴重な像のために、触られておらず清掃をされていないようにもみられた。二体の像の前には賽銭箱があるが、そこで参拝しながら子供の頃は怖いと感じたこともあった。裸弁財天の「妙音弁財天像」が白く塗り直された時期がある。

 調査のために訪問した第一回目は、10月中旬、天気は晴天だった。平日で境内にはそれほど人はいなかったが、奉安堂内には四、五名ほど参拝者がいた。これは多い方である。数十分の間には、無人となった。風が吹いていなかったので八角堂の堂内はむしろ外気の暖かさが室内に溜まっているようにも感じられた。

 八角堂内には、南側三面の中央に弁財天像が二体収まる面、その両脇にガラス戸が備えつけられた二面があり、このスペースには記念の石、石造、銅製品などの宝物が置かれている。弁財天像の二体が収まっているスペースの面は、像の前に御簾が降りているが、ガラス戸は無い。この三面の内部は設置空間としては繋がって一つで、参拝者がこの三面に向かって参拝する仕組みになっている。三面には、スポットライトが各面に二つずつあり、弁天像と宝物を照らしている。三面と平行する動線に、八角堂の西と東の方向に向かって入り口と出口がある。扉は、公開時には常に解放されている。安置されている三面のうち、右左の二面はガラス戸があるのに、中央の弁天像部分のみ、御簾になっている。そのため、三面の空間全体は常に外気と接触していることになる。参拝の記憶を辿ると、天候がよほど悪くない限り、奉安殿は常に開いていた。雨の場合も、おそらく台風などで参拝者がほとんど無いような日以外は公開していたのではないかと思われる。

 第二回目の調査は曇りで風がある日を選んだ。自宅の部屋の湿度は63パーセントだった。前回の調査は午前中だったので午後に訪問した。強風ではなかったが、僅かに寒さを感じるくらいの風が吹いている中、調査に入った。入場券係の女性に、「天候によって、奉安殿は観覧中止になることはありますか」と質問したが、そのようなことはほとんど無いという答えだった。子供の頃の記憶と同じく、悪天候の場合も奉安殿は公開されているようだ。

 前回よりは鑑賞者が少ないが、筆者の他に二人、奉安殿を参拝していた。無人になった際に堂内を調査すると、入口と出口の二箇所に消火器が設置されていた。入口の、向かって左の壁に電灯用スイッチがあった。湿度計や温度計はなく、除湿や加湿に対する配慮があるのかはよくわからなかった。この調査日の風は、奉安堂内でも僅かに感じられた。注意して観察すると微かな空気の動きで、御簾の端が微かに揺れているのが見られた。二体の弁天像。および両隣二面の宝物などは、直に外気に晒されていることがわかる。この奉安殿の中には湿度計はないように思われた。

 朝から突風注意報が出ていた、雨と風の強い日を待って、三回目の調査を行った。豪雨ではなかったが強風で、境内に九時過ぎに入ると風はやや弱まっていた。奉安殿は公開しており、敷地の周囲には強風のための枯れ葉が溜まり、スタッフが清掃していた。さらに筆者の長靴が濡れていたため奉安殿の床は足跡で湿った。御簾はやはり微かに揺れていたが、風は入口から出口の一直線に抜け、強い風が直接当たってはいなかったが、御簾の向かい面にかけられた壁代布が揺れていた。また奉安殿そのものが揺れ、堂内でぎしぎし音がした。その後、参拝者が二人入場し、彼らの雨傘もそのまま奉安殿内に持ち込まれていた。雨靴に付着した水滴と雨傘の水滴は堂内を湿らせた。木製品には良くないと考えられ、カビや埃塵の温床になる。このような、日々の湿気の連続によって、弁天像はうっすらと緑がかったて煤けた状態になっていったのではないかと考察した。

*このレポートに、図解した八角堂の風の通る様子を添付した。

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