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人生最長プロジェクトで、人生最多スピーカーを操り、見えない音の壁をデザイン 〜株式会社coton 宮本 貴史さんインタビュー〜

作曲家、映像作家、メディアアーティストとして様々な作品を創作、ライブパフォーマンスも行いながら、株式会社cotonの創業メンバーとしても活躍中の宮本貴史さんに、2021年7月グランドオープンしたZUKAN MUSEUM GINZA powered by 小学館の図鑑NEOの音響演出を中心に、cotonでの仕事について聞きました。

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cotonとの繋がり

cotonに参加した経緯を教えてください。

宮本:大学院卒業後はフリーで活動していたんです。僕が国立音大在学中の2016年に研究室に松尾さん(coton代表取締役社長)が講演に来たことがあって、音楽やアートをいかに社会や仕事と結びつけるかみたいな話だったんですけど、面白いことやってるんだなぁ!と思ったのを覚えています。
もちろんそのときは一方的に知っただけなんですが、ずっと後になって、Maxユーザーコミュニティの仲間づてに、松尾さんからメッセンジャーが届いて、一度オフィスに遊びに来ませんか?みたいな話になったんです。松尾さんが代表をしているもう一つの会社、株式会社インビジの六本木オフィスに行って、色々おしゃべりしたらあれこれお手伝いするようになったんですよね。
それとは別に、濵野さん(coton最高技術責任者)は僕が在学中にも音大で講師をしていて、授業は取っていなかったのですが、自主的なウェブの勉強会なんかで面識がありました。これは後から知ったんですが、受験勉強でお世話になった先生が濱野さんの恩師でもあったりして、意外と古くからゆるく繋がっていたみたいです。
で、松尾さんと濱野さん、そして東京芸大の古川先生が2019年にcotonを立ち上げた時に、僕も参加することになりました。

「ZUKAN MUSEUM GINZA」は最長プロジェクト

cotonでは今までどんなプロジェクトに関わってきましたか。

宮本:cotonが誕生してから全員で開発に取り組んでいる、音楽の自動生成シス テム(soundtope)のAPIをつかった音楽の制作などです。2019年秋には「渋谷音楽祭」で展開した音のARサービス「Audio Scape」や、昨年銀座にオープンした「SHISEIDO グローバル フラッグシップ ストア」にも提供しました。

soundtope は cotonの提供するサービスにいろんなかたちで応用されてますね。

宮本:はい、今回の「ZUKAN MUSEUM GINZA」では、時間(朝・昼・夕・夜)と天気(晴・雨)が移り変わる中、森の中、水中、草原など5つのゾーンで、それぞれの世界観に合ったBGMを自動生成しています。
「ZUKAN MUSEUM GINZA」には昨年10月から参加し、オープンぎりぎりまで取り組みました。僕のなかでは一番長く関わった仕事になりました。
フリーで収録やPAの仕事などもしている関係で、当初はハードウェアの選択について相談を受けたりしたのですが、その後、BGMの自動生成のほか、生物やガジェットの音の作成、いろんな種類のスピーカーの配置、オリジナルのパンニングシステムの設計などにも関わることになりました。

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音の仕切りでゾーンの移動を演出 

広大な乾燥地帯で朝日を浴びたと思ったら、いつの間にか蛍の舞う幻想的でしっとりとし た川辺が現れたり、動物の移動する気配を音で察知したり、地面の感触の変化を感じたり、耳も目も大忙しです。スクリーンに現れる動物を見逃すまいと大人も子供も必死になりますね。

宮本:ゾーンごとに物理的な壁などがないので、音で見えない仕切りのようなものを作ってコントロールしています。具体的には専用のスピーカーを設置して、独自のマスキング技術を組み合わせることでゾーンをまたぐ感覚を作り出しています。

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音による仕切りでゾーンを跨いだ感覚を演出

宮本:ちなみに、ミュージアム全体では150個のスピーカー、5台のPCを配置し空間全体としての調和も保つよう設計しているんです。これだけ大きな規模のデザインは初めての体験でした。

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PC5台で150チャンネルのマルチサラウンドシステムを構築

蟻になったら世界をどう感じる?

宮本:ここは蟻の視点で昆虫たちの世界を体験する「アントビューゾーン」です。ムネアカオオアリをはじめ、カブトムシ、トビズムカデ、オオセンチコガネといった生物音を200ほど作りました。リアルな再現というより想像力を駆使して臨場感を演出するよう工夫しています。ちなみにミュージアム全体では、OTOYAさんのご尽力で2000種近くの生物音を作成しています。

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渾身の「アントビューゾーン」
その名のとおり蟻の目線で昆虫たちを観察できる

宮本:「アントビューゾーン」では、GENELECスピーカー、HSSの超指向性スピーカーに振動スピーカーも組み合わせた22チャンネルで構成しています。映像にあわせたパンニング調整がほかのゾーンより一層体感しやすいと思います。物理的な振動やファンを制御して風を送るなど、ほかのゾーンとはちょっと違った演出も楽しんでほしいです。
超指向性スピーカーというのは、レーザービームみたいに、一人か多くても二人に直接音が届くように設計されています。音が頭にまっすぐ届くかんじですね。ちょっと移動するだけで、耳からの情報が異なってきて、昆虫世界を想像しながら楽しめると思います。

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両端にGENELECスピーカー、その間にHSSの超指向性スピーカーを設置

宮本:ちなみに、エントランス部分もこの超指向性とGENELECスピーカーを組み合わせています。僕はエントランスの作曲も担当しました。

親子のコミュニケーションの場にも

とてつもない工夫と試行錯誤が詰まってますよね。子供たちが「記録の石」にどれだけ生き物を記録できるか夢中になっている様子も見受けられました。

宮本:「記録の石」に生物を記録したときの音や、ゴール地点で生き物を地球に放出する仕掛けがありますが、そういったときの操作音、効果音、いわゆるガジェット音も作成しました。

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ゴールエリアでは神秘的で壮大な音楽を浴びながらミュージアムで体験してきたことの総仕上げができる

宮本:コウモリのいる洞窟があるのですが、そこは子供にだけ聴こえるような高い周波数でコウモリの鳴き声が鳴っています。親子で来ると、親は聴こえなくて、子供は聴こえるみたいなことが起きると思います。この演出がコミュニケーションのきっかけになれば嬉しいです。

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耳年齢がばれそうな「コウモリの洞窟」

宮本:正直に言うと、僕は自分が作りたいものや表現したいものを実現することに集中しがちで、ユーザー目線をあまり意識してこなかった部分があります。今回インタラクション・デザインを担当してくれたインビジ・フェローズの藤原さんはそのあたりをすごく考慮してくれ、また仕事を進めるうえでも揉めることなく、意思疎通をスムーズに進めることができました。

その藤原さんは、宮本さんのハードとソフト両面の専門性の高さ、豊富な知識量に裏打ちされた的確な意見とその信頼性に本当に救われたそうです。密なやりとりを通して、音楽に対する溢れ出す熱量と、それゆえの技術の高さと創造力の豊かさに脱帽したそうですよ!

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現場での仕様変更や追加要件への対応も密なコミュニケーションで乗り切る

アーティスト気質ですよね。

宮本:はい、お金にも無頓着で。いつものことなんですが、今回も、完成するまで生きていけるだけのギャラをもらえればそれでいいと思ってました笑

現在注力しているお仕事、作品は何ですか。

宮本:大阪芸術大学アートサイエンス学科の「音とアートの社会実装」です。4回の授業をとおして実際に音響システムを設計して組み込むところまで学生たちと一緒に行います。フリーとしては、友人から依頼を受けて人感センサー内蔵の仏像を作ってます、全身光るんですよ。

ありがとうございました。これからも多方面のご活躍を楽しみに応援しています。

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宮本貴史 | Takashi Miyamoto

サウンドアーティスト、VJ、メディアアート作家。1992年に東京に生まれる。2011年に国立音楽大学に入学し、コンピュータ音楽を専攻する。2014年に同大学を首席で卒業し有馬賞を受賞。同年に国立音楽大学大学院に首席で入学し、奨学金を授与される。2017年3月に同大学院を卒業する。Tokyo Media Interaction代表、株式会社coton開発メンバー、「1÷0」、「一昨年」等のアーティストグループのメンバー。

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