ショートショート104「メリー」
私メリーさん、今あなたの後ろにいるの。
そしたら、あなたはとても怒った。
でも、私は妖怪であなたは人間。
この包丁を握っていないと落ち着かないし、こんな危ない女と一緒にいたら、恥ずかしいでしょ……。これは私なりの思いやりなの。
妖怪とか、そんなの関係ない。俺は君が好きだ。どう思われても構わない……って。
よくそんな歯が浮くみたいなセリフ言えるね。
こっちが恥ずかしいよ。
そう、恥ずかしいだけだから。
照れてるわけじゃ、ないんだから……。
✳︎
私、メリーさん。今、あなたの前にいるの。
後ろ手に何かを隠して、珍しくあなたの方が緊張してる。
これってもしかして……。
そうかも知れないと思うと、緊張が空気を伝ってこっちにも移ってくる。
”メリー”クリスマス って、本人は誠意いっぱいオシャレにキメたつもりかもだけど、それダジャレじゃない?
緊張なのか、寒さなのか、言葉が震えるその様子がおかしくって。
私、笑いながら指輪を受け取り「はい」って答えた。
笑いすぎて涙が出ただけだって。
泣いてなんか、いないんだから。
✳︎
私、メリーさん。
今、私はあなたの前にも、後ろにもいないの。
あなたのことが視界に入っていないことも増えた。
でもね、今まで以上にあなたの存在が大きくなった。
二人で同じ方向を見て、二人の未来を作っていく素敵。
私、メリーさん。
今、あなたの隣にいるの。
<了>
二人の馴れ初めはこちら。
サポートいただいたお金は、取材費/資料購入費など作品クオリティアップの目的にのみ使用し、使途は全てレポート記事でご報告致します!