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【短編】ディッキンソニアの還った日-03

※少々、性的な内容を含みます。苦手な方はご遠慮ください。

-能面ビッチ

 我が事ながらひどいあだ名がついたものだと思うけど、別に気にしちゃいない。気になった事を納得いくまで検証した結果だ。言いたい人には言わせておけばいい。

 と言いつつ、勘違いした(正確にはさせてしまった、だろうか)男が、時たまこんな感じで連絡を寄越してくるのが億劫ではある。

 「ビッチやめました」なんて看板でも掲げとけば納得するのだろうか。いや、そんな事をしたところで関係なく「大将、やってる?」くらいのノリで店内に入ってこようとする無神経さを持っているのが男だ。

 きっかけを作ったのは自分とは言え、ため息が出た。

❇︎

 私には、男女の営み(まぁ、平たく言えばセックス)の良さが分からない。

 多くの女の子がそうであるのと同様に、私もまた近所の年上のお姉ちゃんや、保健体育の授業、漏れ聞こえる男子の会話、などから徐々にその行為の存在を知っていったのだけど、

 知れば知るほど、不思議だった。

 お互い裸の間抜けな姿で、これまた間抜けな表情・言葉を晒しあう。罰ゲームか何かじゃないのか? と思えるこの行為をするために男性は必死になり、女性の中にもこの行為が好きだ、という人もいるらしい。

 生殖に必要だというなら、何億年も猶予はあったろうに、なぜ生物はもっとスマートな形でそれが行えるよう進化しなかったのだろう。

 もはやそこは進化させる気がないと言わんばかりに、雌雄を以て子を成すというのが生物の当たり前のプロセスとなっている。

 頭で考えても一向に不思議が解消されないので、高校生になった時、同級生を誘って試してみた。

 体験してみて尚、摩訶不思議さが消えない。それは想像に違わない間抜けな行為だったからだ。

「こんなものがいいなんて、やっぱり訳がわからない」

 相手を変えてみればいいのだろうか? と、他の同級生とも試してみたが結果は変わらない。上級生の先輩や、大学生や、社会人や、おじさんやと年齢を変えて試してみたが、ちっともいいと思えなかった。

 無表情に淡々と、でもいろんな人と関係を持つ。

 その有様についたあだ名が「能面ビッチ」……というわけ。

 不名誉な通り名を得て導いた結論

 ”あの行為”は私には合わない。

 その解答が導き出せたので、私としては十分だ。これで納得。

 ただ、その後始末が少々ややこしかった。

 どこからか噂を聞きつけた男子が私をスキモノ認定して迫ってくる。需要と供給の完全なミスマッチだ。

 私は、ちっともいいとは思わないからこそ検証をしていたに過ぎず、結論が出た以上、全く興味はない。

 大体、なぜ男というのは誰としたという極めてプライベートな話題を戦利品の様に仲間内で話したがるのか。最中の自分の間抜けな表情を鏡で見せてやりたい、なんなら写真に撮って現像して差し上げようか。そうすれば、人に話す気なんて起きないかも知れない。

 勘違いした男子の迷惑を被ったのもそうだけど、女子にも頭がおかしい人として扱われたのが少し残念だ。

 いわゆる女子トークの中で、そっちの話題になった時に「私は色々試したけど、良さが分からなかったなぁ、条件が違えば、結果も違うかと思って、色々と条件を変えて行ったけど、全然一緒だった」と淡々と話をした時に

「ちょっとフツーじゃないよ……それ」

 と真剣な顔で言われたのが心外だ。

❇︎

 フツーって、なんだろ。

 今、直面してる恐竜が見えるフツーって、ちょっと前なら異常事態だったわけじゃんか。

 人それぞれにフツーは違うし、同じ人にとってすら、環境が変わればフツーも変わっていく。

 窓から恐竜たちが見える。彼らは、別に人間を気にする風でもなく、ただただそこにる事で、いつの間にかフツーになった。

 私もそしらぬ顔をして、そういうものだと振る舞っていればいい。いずれ、それが周りにとってもフツーのことへと変わっていくことだろう。

<続>


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