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ショートショート11 「国際センス」

ここは、ある山奥の廃寺。日本妖怪たちが、一堂に会し、長である、ぬらりひょんを中心に、会合を催していた。

文明が進み、夜になっても、街は明るく、加えて、古来より変わらない妖怪たちの身なりは、現代には不似合いで、ここ最近は、夜道で人を脅かそうとしても、逆にその姿を笑われてしまうことに、危機感を覚え、現状を打破する起死回生の策を模索していた。

「やはり、妖怪の本懐は、人を恐怖させることにある。今の人間たちは、我々を怖がらないどころか、指をさし嘲笑し、挙句、ダサいと罵っている。このままでは、我々は、道化に成り下がる。何か、いい策はないものだろうか。」

「長、では、諸外国の知見を深め、センスを磨くというのは、いかがでしょう?」

化け猫が出した提案に、長は大きくうなずいた。

「なるほど、それは、いい。妖怪も、グロバリゼーションの時代なのかもしれん。まずは、馬鹿にされることのない、洗練された感性を身につけ、そして、人間たちを恐怖させようではないか。」

こうして、希望者の中から、長の選により、妖怪たちの未来を託された3名の精鋭が決定した。


留学期間は1年間。再び、人間たちに恐怖される、明るい未来を信じ、妖怪たちは彼らの帰りを待った。そして、またたく間に、1年の時が過ぎた。


最初に、帰国したのは傘化け(からかさ小僧)。彼は、アメリカに渡り、トップビルダーの指導の下、一本しかない脚を限界を越えて鍛え抜くことで、筋骨隆々にビルドアップした、たくましい姿、そして、鋼の精神(メンタル)を身につけることに成功した。


二番目は、天狗だった。彼は、韓国にて、最新の美容整形とエステによって、高すぎた鼻を、現代の美的感覚に合った高さへ整形し、赤かった肌を、透き通るような肌色へと変貌させ、絶世の美男子として、皆の下へ、戻ってきた。


しかし、待てど暮らせど、3人目は、帰ってこなかった。死ぬことはない妖怪のこととはいえ、こう遅くては、何かあったのではないか?と、長も、他の妖怪たちも心落ち着かない日々を過ごしていた。

そんなある日、長のところへ、伝書鳩がやってきた。差出人は、3人目の妖怪だった。


ー 長へ。月日が過ぎるのは、早いもので、もう、約束の1年ですね。でも、ごめんなさい。わたし、日本に帰るつもりはありません。気づいてしまったんです。わたしは、妖怪である以前に、ひとりのオンナ…女の子なんです。化け物と呼ばれ、忌み嫌われる日々に、何の意味がありましょう。ここは、素晴らしいところです。皆が、わたしのことを「村一番の美人だ」と言って、毎日甘い言葉をかけてくださいます。皆さんは、とても親切で、わたし、初めて、妖怪に生まれてよかった、って思うことができました。ここがわたしの生きる場所。わたしは、ここでしあわせになります。どうか、皆さんにも、本当のしあわせが訪れることを、お祈りしております。今まで、ありがとう。そして、さようなら。」



ミャンマーの首長族の村を留学先とした、ろくろ首からの手紙は、そう結ばれていたのだった。

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