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科学者の声に耳を澄ませて『ドミトリーともきんす』高野文子【読書感想文】#37

ふだん漫画はほとんど読まない。

かつてはドラゴンボールスラムダンク幽遊白書ドカベンマキバオー等々、主にジャンプ方面を読み漁るふつうの子どもはだったが、いまではすっかり遠ざかっている。

端から見ていると、漫画は文学などよりずっと先を行っているな、と羨ましくおもうけれど、手が出せずにいる。

これ以上興味の範囲を広げると収集がつかなくなりそう、というのが手の出ない主な理由ではある。意識/無意識にかかわらず漫画は僕の関心領域の枠外に位置しているらしい。

ドラマや映画などの映像作品もそうだが、文芸と併せ行ったり来たりできているひとたちを羨ましくおもう。


妻が仕事の関係で読んで良かったからあなたも読んで、と渡された『ドミトリーともきんす』を読む。高野文子著。

科学者たちの書を読み、そのことばにインスピレーションを受け、漫画を編む。

困難な営みだが、絵のタッチやコマ割りが面白く、すらすら読める。良い。

取り上げられる科学者は、朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹の四名。

むかしの科学者って、専門分野に限らず思想的にも哲学的にも優れているよね。

彼らの声に耳を澄ます、という行為が、僕らの精神を落ち着かせる。
自然科学(を学ぶこと)にはそんな効用もあるようにおもう。
俗世から離れる、といったような。

僕はPh.Dの学位を持っているのだけど、これってPhilosophy of Doctorの略で、直訳すると哲学博士なのよね。

アイザック・ニュートンとかの時代、自然科学は自然哲学と言われていたように、自然の研究も哲学の一部で、Ph.Dという称号もその名残りなのだけど、科学もやっぱり哲学なのだなあ、てことが、この本を読むとよくわかる。

僕の指導教授だったひとは、研究にはフィロソフィーがないとダメなんだ!て酔っ払うとよく言っていて、ほんとうに尊敬できる処のない先生で教わったことはごく僅かしかないのだけど、彼はほんとうの意味での科学者だったなあ、と想い出されたりもする。

科学者のこういう気質は失われて久しい。
さいきんは科学者のことばと云っても、経営者的なセンスだったり、アスリート的なメンタリティだったりばかりが賞賛されているとかんじる。

けど科学のほんとうの愉しみって、この〈ドミトリーともきんす〉(書名であり作中の寮の名でもある)のような静謐さの内にあるんじゃないかな。

科学者の声に耳を澄ませる。そんな営みを僕もやってみたい。幸い、科学者の声を聴くことに関しては、ひとより少しだけ学んでもいる。

この本は登場する科学者たちのエッセイが、参考図書というかたちで多数紹介されていて、良いブックガイドとしても機能している。素晴らしい。

科学者の哲学。あまり役には立たなそうだけれど、それが善い。
このnoteでも、いずれそういう声を拾っていけたらいいな、とおもう。


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