『疲労とはなにか』近藤一博(講談社ブルーバックス)【読書感想文】#45


妻は挨拶みたいに、疲れた、と云う。
ただいま、だとか、おはよう、なんてと云う代わりに、疲れた、である。

仕事に子育てに忙しく働いているから、疲れるのは当たり前だ(僕も疲れている)。

疲れてるなら少し休みなよ、と云ってみた処で、子どもは待ってくれず、なかなか休めない。

その子がやっと寝て、ひと休みとばかりソファに寝転がってスマホを眺めているうち、眠りこけてしまうこともあるらしい。

だらしがねえなあ、とおもう僕の考え方は、欧米的なのかも知れない。

欧米の人びとは、疲れたら休む、が原則で、死ぬまで働くなど以ての外、疲れた、なんてしょっちゅう云っているのは自己管理のなっていないやつ、てことになるらしい。休養も仕事の内、ということか。

余談だが、大谷翔平がたまに試合に出ないと、日本のメディアはすぐ「スタメン落ち」などと書くが、違和感がある。
あれは休んでいるのであって、このあたりも疲労の捉えかたに日米の違いがでているようにおもう。

その我が国は、働きすぎて人の死んでしまうこともあるのだから(自死も含めた過労死)、疲労は大問題である。

実際、疲労の研究は日本が最先端を進んでいるらしい。欧米では疲れたら休めば済む話で、人が死ぬほどの大事ではないから、あまり真剣に研究されないのだとか。

近藤一博『疲労とはなにか』(講談社ブルーバックス)は、そんな疲労先進国の我が国でも第一人者の著者が、疲労とはなにかについて分かりやすくまとめた一冊である。

そもそも疲労とは何なのか、そのメカニズム、疲労と疲労感の違い、どうやって測り調べるのか、などなど、興味深い話がつづく。

ふつうの疲労(生理的疲労)を理解したら、つぎは病的な疲労へと話は展開する。
究極の疲労、うつ病である。

ところで、著者の専門はウイルス学だ。ウイルスが疲労やうつ病と何の関係があるの?と不思議におもうが、それがさいごまで読むと美事に繋がる。

近年でてきた新たな病的疲労に、新型コロナ後遺症がある。
新型コロナ、そう、ウイルスだ。

このふたつを結びつける疲労の研究は、一本道ではないが非常にエキサイティングで、科学研究の醍醐味を存分に味わうことができる。

難解な部分もあるが、疲労やうつ病、新型コロナ(後遺症)といった身近な話題だけに、さいごまで飽きることなく読めるはずだ。がむばって従いていってほしい。

ひとつの謎が解明されると、新たな謎が浮かびつぎの研究へ、という構成が素晴らしい。

僕は生物学については、用語や現象のひとつひとつを読めば頭では理解できるのだが、どうにもその全体像というか、科学観を掴みきれていないところがある。
RNAやらタンパク質やら、朧げながらわかるのだけど、実際にどういうふうに反応(?)が進むのか、いまひとつイメージできないというか。
そんな生物学研究全体のイメージに対する解像度が、この本を読んで少しだけクリアになったような気がしている。

学生のころはよく読んだブルーバックスを久しぶりに手にしたが、思っていた以上に愉しい読書になった。
積みっぱなしの本もまだ何冊かあり、この機にまた少しずつ読んでいきたいところである。


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