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「阿吽の呼吸」

コスモテックでは、僕が入社した2005年よりずっと前から一貫して、職人が一枚一枚の素材(紙)を手作業で機械に通して箔押ししております( 手差しの手動箔押し機「 アップダウン 」を用いて )

便利な自動の箔押し機が導入されてからも、「 アップダウン 」は変わらず活躍し続けています。

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紙の寸法や印刷物自体が大きい場合は、素材を機械にセットして箔押しする人、その隣で箔押しされた素材を機械から引っ張り出す人の二人組で箔押しすることが昔の主流でした。

二人の呼吸を合わせて一つの箔押しを完結させるのです。


今は亡き、箔押しの匠 佐藤勇は、現場に新たに加わったメンバーを隣に座らせていました。例え大きな印刷物ではなくとも、隣に座らせた新メンバーに箔押しした素材の引っ張りをさせつつ、そのやり方を見せてコミュニケーションを取っていたのです。

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僕は入社当時、匠の真横に座って引っ張る作業が大好きで、時間を見つけては営業活動そっちのけで箔押しのお手伝いをしていた時期がかなり長い間ありました。箔押しの手伝いをしながら匠の話に耳を傾けることが日課のようなものでした。

そして「 針・咥え( くわえ )って一体何ですか? 」「 ヤレってどういうものですか? 」など、様々な質問・疑問を匠に投げかけては、匠が「 仕方の無いヤツめ 」というような表情でニヤリとしながら説いてくれたのでした。


繰り返し、毎日毎日。
箔押し機の前に二人で座って、作業の間、匠の話を聞く。
僕が質問する。匠が答える。

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今思えば、この時間程、多くのことを学ばせて頂いたことはないと思います。


紙加工に限らず、匠自身の昔話も頻繁に聞くこともありました。
年齢の差のためによく理解できない話題もありましたが、業界未経験の僕は「 勉強させて頂きたい 」 という一心で時間のゆるす限り匠の横を陣取っていたのでした。

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聞く姿勢、質問の仕方、匠との間合いなど、僕なりに試行錯誤していました。


予め前日の夜中に匠への質問をいくつも考えておいて、翌日匠の隣で印刷物を引っ張りながら、まずは今日の匠の話を聞く。

その後、会話の合間に自分で考えておいた質問を織り交ぜながら匠に教えてもらう、ということを繰り返しました。

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「 匠は教えるのが上手だったのか 」 と問われると、教え上手とはお世辞にも言えなかったと思います。ただ、初心者の僕のトンチンカンな質問に対しても、真剣に親身になって答えてくれたことは間違いありません。

匠の話を聞くこと、僕が質問をすることを繰り返す中で、徐々に匠との理解が深まり、阿吽の呼吸のようなものが生まれていったことは明らかです。

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振り返れば、箔押しの匠 佐藤勇の隣でこの時間・瞬間を 『 共有すること 』 が出来たのは、僕にとって大きな影響を与える大切な時間だったと感じます。

未熟な 僕が隣に座ること自体、きっとストレスもあったでしょう。
そして、生意気な口をきく危なっかしい新人営業にハラハラしたこともあったでしょう。

匠に質問したり、言葉を聞いたり・頂いたり、一見すると何気なく、それでいてかけがえのない時間を多く持てたこと、そのような機会を持つようにお互い努力したことは、僕にとって財産となりました。

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学校の授業や講演会のように10人・100人・1000人に向けて話す言葉ではなく、僕だけしか聞くことが出来なかった、僕のためだけの言葉が、そこにあったのだと信じてます。

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