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「 イッセイ ミヤケ( ISSEY MIYAKE )の 『 残反を混ぜた新しい再生紙 』 への加工 」

コスモテックの青木です。

2022年8月、世界的に有名なデザイナーの三宅一生氏が逝去されました。イッセイ ミヤケ( ISSEY MIYAKE )は、三宅一生氏が立ち上げた日本のファッションブランドです。国内ではもちろん世界にも名を馳せており、誰もがその名を耳にしたことがあるかと思います。

今回、 2022年9月末にフランスはパリで開催された世界有数のファッションの祭典 「 パリ・ファッションウィーク( パリ・コレクション ) 」 で、イッセイ ミヤケ( ISSEY MIYAKE )のショーで使用された 「 ある特異な紙 」 への加工を、大変光栄にもコスモテックでお手伝いさせていただきました。

動画は AFPBB News より


イッセイ ミヤケ( ISSEY MIYAKE )がパリ・ファッションウィークでショーを開催するのは約2年半ぶりの出来事です。


突然のご連絡

2022年9月某日、日頃から大変お世話になっているアートディレクター / デザイナーの田中義久さんから 「 折り入ってご相談があります! 」 とご連絡をいただきました。

田中義久さんとコスモテックが最近がっつり関わらせていただいたお仕事は、ニューバランスのシューズボックスの加工です。田中さんからご連絡をいただく際は、いつも期待と緊張が入り混じった気持ちになります。

特異な紙へ押すこと

田中義久さんから今回の製作物の全貌をお聞かせいただいた時、衝撃が走りました。イッセイ ミヤケ( ISSEY MIYAKE )がパリ・ファッションウィークで使用する非常に貴重なアイテム( ※ )製作であり、その加工に使用する紙が未知の紙だったのです!

紙はなんと、イッセイ ミヤケ( ISSEY MIYAKE )の残反を混ぜた新しい再生紙。まだ誰も加工したことがない唯一無二の紙です。加工内容は、この名もない 「 特異な紙 」 に一撃で文字を箔押し、もしくは型押しするという大変シンプルなものでした。

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※ イッセイ ミヤケ( ISSEY MIYAKE )のショーでお客さまの席に置かれるカード

渾身の押しを実現させるため( 文 前田瑠璃 )

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加工後、裏面から見た様子 圧の痕跡を感じることができる


コスモテックの現場の前田です。

今回は紙に箔押しか型押しをするという大変シンプルな加工でしたが、素材が未知の貴重な紙であったこともあり、非常に難易度が高いものでした。 今回の加工で一番役立ったことが、アートディレクター / デザイナーの田中義久さまと以前ご一緒させていただいたニューバランスの紙加工で得た経験値でした。

加工で使用した金属版の選定にも、その知識と経験が生きています。


イッセイ ミヤケ( ISSEY MIYAKE )の 「 特異な紙 」 へ加工する際、田中さまがコスモテックの現場へ加工立ち会いのために駆けつけてくださいました。

今回の紙はイッセイ ミヤケ( ISSEY MIYAKE )の残反を混ぜ込んだ再生紙。この 「 特異な紙 」 は、表面がごつごつと粗い感じなのに不思議と柔らかな印象もあり、素のままの雰囲気が魅力的でした。力強さと柔軟さを合わせ持っているように感じました。

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凹凸感が感じられ、柔らかい印象もあるが硬い紙
残反を混ぜた新しい再生紙


自分が初めてこの紙に加工するのだと考えると、ぴりぴりとした緊張感が自分の中から湧き出てくる気がしましたが、お任せいただけることを光栄に思い、心を込めて製作に挑ませていただきました。

加工立ち会いでは白箔や透明箔などの箔押し、また、箔を用いない型押し加工など、田中さまとその場でいろいろ試し押しをし、方向性を決めるお手伝いをしました。テストプレスをする中で、「 特異な紙 」 そのものの特徴を最大限に活かすということから、今回は箔という別の材質を定着させない、型押し加工の表現で見せることに着地しました。

寄せていくこと

ただし、ここからが大変でした。
型押し加工( 厳密には加熱型押し - 熱をかけての型押し )は、ただ力任せに圧力をかけて可読性を持たせるというわけではないのです。 その醍醐味は 「 お客さまの求める凹ませ具合に合わせる、寄り添うこと 」 です。 田中さまの感覚に合わせて、「 これだ! 」 という解を導き出すのです。

型押し加工は、箔押し機の金属の台座に紙を置き、機械にセットした版で一気に熱と圧力をかけて型押しします。今回、金属の台座の上にふかふかの紙を敷いて、その上に 「 特異な紙 」 を置き 型押しをすると、下の写真よりももっと強烈な型押しを表現することもできました。

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この写真以上に深く、強く、型押しすることもできたのですが……


しかしながら、このプランは採用されていません。

型押しした時の文字の強烈なインパクト、主張。凹ませた文字まわりが立体的になり印象が強まりますが、凄みが増し過ぎてしまい、求められた雰囲気とは違ってしまったのです。田中さまとは、圧のさじ加減、文字の見え方など、たくさんのバリエーションをその場で試し、「 これだ! 」 という答えを探しました。

ただ強く押せばよい、というわけではない

最終的に辿り着いた表現は、主張しすぎない凹み具合いでありながら、文字のエッジがしっかりと際立っている加減です。

熱をかけてプレスしているため、押した部分の色が濃くなり、少しツヤ感も出て、プレスしている部分としていない部分とのさり気無い質感の対比がおもしろい表現となっています。これによって可読性をあげる役割も果たしています。

裏面は、表面からの圧の影響でプレスした部分が盛り上がり、型押し加工の痕跡を感じることができます。

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裏から見ると表面からの圧によって文字がぐっと盛り上がっている


今回の 「 特異な紙 」 を加工する際に感じた大きなポイントは 「 柔らかな印象と違って、意外にも硬い! 」 ということです。

ボコボコとした紙の質感は指で触ると柔らかな印象を受けるのですが、いざ加工してみると、金属素材の版に傷や凹みをつけてしまうこともあるほど硬質なのです。 これは意外でした。

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そのため、金属製の版の材質もなるべく耐久性と強度のあるものを選んで加工に挑みました。また、型押し部分に加える熱の温度があまりに高過ぎてしまうとプレスした部分が少し黄色みを帯びてしまうため、紙の色味が変化してしまわないよう、温度や圧力を微調整しております。

『 一見シンプルに見える型押し加工ですが、加工時の工夫によってその見え方は確実に変わります 』

アートディレクター / デザイナー の田中義久さま、この度は大変貴重な紙への加工に挑戦させてくださり、誠にありがとうございました! 光栄でした!

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カードに刻まれたイッセイ ミヤケ( ISSEY MIYAKE )デザイナー 近藤悟史氏とデザインチームからのメッセージ

私たちにとって、デザインは、好奇心に導かれる、突き詰めた探求に基づいたプロセスであり、人々の生活に喜び、驚き、希望をもたらす、もちろん遊び心も欠かさずに。

デザイナー近藤悟史とデザインチーム、三宅一生を偲んで


【 箔押し加工 】

有限会社コスモテック 現場リーダー 前田瑠璃
〒174-0041 東京都板橋区舟渡2-3-9
TEL:03-5916-8360 / FAX:03-5916-8362

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