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「『 印刷加工連 』が生まれる夜明け前」

今日は2019年9月22日。ちょうど7年前の今日、2012年9月22日は、印刷加工連(※)として THE TOKYO ART BOOK FAIR に初出展した日です。

印刷加工連の発足は2012年。
お披露目を兼ねた初出展のイベントとして THE TOKYO ART BOOK FAIR を選びました。今日でその日から、ちょうど7年の月日が流れたのかと考えると、とても感慨深いものがあります。

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※ 印刷加工連は6社から成るグループ( 篠原紙工・小林断截・鈴木製本・東北紙業社・コスモテック・オールライト )


今回は、印刷加工連が生まれるちょっと前のことを書きます。
それはまだ僕たちに 「 印刷加工連 」 という名前すらも無かった時のこと…。


◎ 突然の一本の電話

2012年のある日。夕方から夜にかけての時間、コスモテックに篠原紙工の篠原さんから突然のお電話がありました。その当時、篠原紙工とコスモテックは仕事で直接のやり取り( お取引含め )を行ってはおらず、書籍「 デザインのひきだし 」をはじめとしたメディアを通して、間接的にお互いの存在を知っていた程度の仲でした。

「 青木さん、これから製作しようとしているものがあるのだけれど、打ち合わせ、今から来られる? 」
 。

実は篠原さんと直接お話しするのはこの電話が初めてであり、今までお会いしたことはありませんでした。ただ、未だに不思議に思うのが、全く初めてお話しする相手であるはずなのに、旧友から突然電話がかかってきたような懐かしさや親しみを確かに感じたのです。

「 行きます!! 」 と即答。

僕は、これから何か面白いことが起こりそうな予感と、走り出したいような気持ちに胸が高鳴り、居ても立っても居られず、すぐに会社を飛び出しました。

◎ 印刷加工連が生まれる夜明け前

篠原紙工に到着すると、そこには小林さん( 小林断截 )・鈴木さん( 鈴木製本 )・オールライトさんが既に集結していて、無事、初対面をすることとなりました。

その場で製作するアイテムの脅威の仕様を聞かされてゾクゾクした感覚は、今でも昨日のことのように鮮明に思い出せます。

この製作物こそが、後に多くの人たちを魅了した伝説の 『 紙文具セット 』(※) です。

出来上がり

※ 「 東京製本二世連合会 」 の30周年記念パーティーのプログラム兼記念品として製作した 『 紙文具セット 』


先ほどの集結メンバーの中には、まだ1社、 「 印刷加工連 」 のメンバーが足りないことに気が付いたでしょうか。 実は『 紙文具セット 』 の表紙には当初、蛍光色のシールを貼り付けるデザイン案がありました。

「 そういえば、東北紙業社 という凄腕の型抜き加工所が、紙象嵌( かみぞうがん )という、紙に紙を嵌め込む加工をやっていたよね? シールを貼り付けるのでは無く、紙を嵌め込むのはどうかな? 東北紙業社を呼んでみよう! 」 ということで、急きょ東北紙業社に電話することになりました。

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表紙には蛍光紙が紙象嵌の手法でふかふかのクッション紙に
がっつりと嵌め込まれている

そして、その場に加藤さん( 東北紙業社 )がすぐさま飛んできて合流。
こうして 「 印刷加工連 」 の全メンバーが何かの引力に吸い寄せられるかのように、あっという間に集結したのでした。今思えばこの出来事自体、とても運命的で不思議な体験でした。

◎ 予算がない、納期もない

篠原紙工の篠原さんからはその場で 「 予算がない! 納期もない! でも、やる。 」 ということは、まずはじめにハッキリと伝えられました。

僕はただ、ここに集まった皆と仕事してみたい、皆の感覚に触れてみたいと心の底から思いました。「 予算や納期のある・なし に関係無しで、このメンバーと一緒にものづくりをするのだ! 」 というある種の使命感のような気持ちに突き動かされ、なんとしてもその場にかじりつくぞという一心でした。

その時、その場にいた皆の気持ちは果たしてどうだったのか。
聞いてみたことはありませんが、きっと皆も同じ気持ちだったのではないかなと思います。

オールライトさんが考えていたデザイン案にプラスして、各加工所が 「 こんなのはどうだろうか? 」 「 これをやったらもっと良くなるのではないか? 」 と、皆が真っすぐな意見をぶつけ合いました。

果てしなく前向きで前のめりなアイデア出しは、爽快且つ斬新なアイデアの宝庫でした。
まるで学生時代に部室で熱く語り合っていた時のような気持ちで、時間を忘れて熱中しました。

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5枚の紙を合紙( ごうし )して、製作した紙の定規。
外装は白い紙で、加熱型押しを施すことで、中の蛍光色を透けださせる加工プラン。更には定規の一辺を斜めにカットしているというこだわりの一品。

◎ 圧倒的なスピード感

紙の文房具の一つ一つも、先ほど紹介した紙の定規のようなこだわりの詰まった品ばかりです。定規のほかに、メモ帳・筆箱・えんぴつ・クリップ・消しゴムが詰め込まれております。

この脅威の印刷物が仕上がるまでには、本来なら恐らくもの凄い日数を要するはずですが、この結集されたメンバー各社の前のめりな最速スピードによって恐らく通常の 1/3 程のスケジュールで製品を仕上げました。

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背をミーリングし、色付き( 蛍光イエロー )糊で綴じている。

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蛍光色がまばゆい紙のクリップ。
紙クリップを複数枚でまとめて天糊して、1セットとしている。


これがチームとしての初めての仕事だったのですが、「 今、この加工真っただ中だよ! 」 「 無事に作業完了しました! 」 「 次の工程の人、よろしく頼むね! 」 等、電話・メール・SNSなどを最大限駆使して、その場で一緒に作業しているような環境が自然と出来上がりました。

そして、これが初めての一緒の仕事とは思えない程のスピード感と一体感、絶妙なパス回しは快感すらおぼえました。

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ほうれんそう( 報告・連絡・相談 )も、ごく普通に行われ、長年共にやってきた仲間のように円滑なコミュニケーションが実現しました。まるで目に見えないの糸で繋がっているような、そんな感覚です。

この note の記事で掲載している写真のほとんどは、その加工の真っただ中にメールやSNSで 「 どうだ!これを見よ! 」 と言わんばかりの各社の加工現場から送られてきたものばかり。加工で慌てているのか、興奮しているのか、手ぶれにもその時の状況や思いを感じ取ることが出来るような気が致します。

◎ 根っからの加工好き

「 みんな完成したよ! 」 と送られてきた写真の1枚が、今でも僕の心を掴んで離しません。それが、こちらの写真です。

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左 小林さん( 小林断截 )・右 鈴木さん( 鈴木製本 )


写真の中の時計の針を見れば分かるかと思いますが、この写真が撮影されたのは夜中の0時半近くなのです。真夜中の工場からの一枚。

『 紙文具セット 』 を製作するために集められたこのチームの共通点は、まずは、根っからの加工好きであるということ。そして、メンバー皆が人が大好きであり、感動し、それを共有することに喜びを感じているのだ、ということ。 『 紙文具セット 』 を製作している途中、僕はそのことに気づき、胸が熱くなりました。

そして、実はこの現在進行中のやり取り全てが、一瞬一瞬が、僕らでしか味わうことが出来ない熱狂の渦なんじゃないのかな、と感じました。

2019年の現在から振り返った時、あの体験をすることが出来たことは、コスモテックにとってだけでなく、僕自身にとって本当に幸運だったと言い切れる出来事でした。

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あの日、篠原さん( 篠原紙工 )からのお誘いに、仮に都合が合わず行くことが出来なかったら、コスモテックは印刷加工連に入っていなかったのではないだろうか? とか、どこか一社が欠けていたら印刷加工連は生まれなかったのではないだろうか? なんてことを、時々ふと考えるのです。

僕が篠原さんから頂いたお電話に対して、 『 何かこれから面白いことが起こりそうな予感 』 は、製作した脅威の 『 紙文具セット 』製作 から 『 印刷加工連 』 の発足へと続いて行ったのですが、あの日・あの時・あの瞬間、「 行きます!! 」と即答して本当に良かったなぁとしみじみ思います。

222日


お互いの会社や人をリスペクトしつつも、自身の意見や意思を持ち、実行に移せるメンバー。それぞれが共鳴し合っているからこそ、必然的に根っからの加工好きが集まった、そんな気がします。 「 印刷加工連 」 という名前はまだ存在していなかったけれど、この出来事が僕たちをチームにしたのだなと思います。


「 印刷加工連 」の発足から7年間。
改めて、メンバー( 篠原紙工・小林断截・鈴木製本・東北紙業社・オールライト ) に愛と感謝を込めて伝えたいと思います。

沢山の感動や発見をありがとうございます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。

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