「 蓮沼執太さま 紙ジャケット 『 空押し 』 加工 」
こんにちは、現場の前田です。
今回、大変光栄なことに 篠原紙工 製本ディレクターの小原さまからご依頼いただき、加工のお手伝いをさせていただいたものは、アーティスト 蓮沼執太さまが音楽担当されたNHK総合 【 よるドラ 】「 きれいのくに 」 のCDアルバム 『 NHK DRAMA “KIREINOKUNI” ORIGINAL SCORE 』 です。
CDアルバムは紙ジャケット仕様になっています。
デザインは アートディレクター / グラフィックデザイナーの本田千尋さまによるものです。現在さまざまなメディアでも取り上げられている話題のCDアルバムなのです。
蓮沼執太さま プロフィール
校正(テスト)の段階から、アーティストの蓮沼さま・デザイナーの本田さまがコスモテックの現場に駆けつけてくださり、加工立ち会いを行いました。
「 どのように加工しているのか 」
「 今回の加工が、しっかり紙面上で表現可能かどうか 」
などを、目の前で確認していただきました。
蓮沼さまも本田さまも、その瞬間・シーンの空気感を肌で感じ取って見入って下さっている様子があり、それがまた私にとって非常に嬉しい出来事でした。
「 もう少し、圧を強めてほしい 」 「 逆に弱めてみたらどう見えるのか 」
「 文字表現をもう少し強調してほしい 」 など、さまざまアプローチを試みました。
強烈な圧力で空押し加工
CDジャケットを見た瞬間、目に飛び込んでくるのは
表面の凸凹のテクスチャー 紙『 モノ 』 の ならではの迫力!
紙ジャケットは全面空押し加工というデザインです。
空押し加工では、強い圧で紙を凹ませて表現します。
上の写真をご覧いただくと分かるかと思いますが、紙地にテクスチャーが表現され、デコボコになっています。凹んで入る部分が金属製の版で紙を押し込んだ部分です。
また、紙地に無数の大小の黒い点・青い点のようなものも見て取れます。こちらの正体については後で明かしますが、この点々があることでどこか素朴で、無機質、素(す)の雰囲気が漂います。
加工で使用した金属版 仕上がりトンボ含めて全て空押し加工
今回の紙ジャケットのデザインは 「 印刷をしない 」 というのも特徴の一つです。 紙の素(す)の表情が『 自然・環境への配慮 』 を感じさせてくれる仕様なのです。
紙ジャケットに空押し加工するうえで、仕上がりより少し大きめの紙がコスモテックの現場に搬入されました。通常は加工時の位置合わせの目印となるトンボが印刷で表現されているのですが、今回は空押し時にグラフィックと一緒にトンボも空押し加工します。
後の工程で、紙ジャケットの形に仕上げる際、この空押し表現したトンボを目印に仕上がりサイズに組み上げるためです。
紙の特徴を活かしたデザイン
CDジャケット1枚1枚、紙に含まれている古紙の色・配置が異なる
1点1点が微細にも異なる仕上がりに
今回、空押し加工させていただいた紙は 『 Uボードホワイト 』 という厚手の古紙再生紙を使用しております。
紙の表面が白、裏面がうすいグレーなのですが、グレーの面には黒や青などの細かい点々が混ざっているのが分かります。デザインを手がけられた本田さまは、紙の裏面であるグレーを紙ジャケットの表面、白い面を紙ジャケットの内面としてデザインされています。
加工立ち会い時、今回のCDジャケットを制作するうえでの紙選びのポイントを本田さまより教えて頂いたのが印象に残っています。
紙の裏面をCDジャケットの表面に使用したり、配合されている古紙の見え方など、随所にデザイナーの本田さまとアーティスト 蓮沼さまのコダワリが垣間見える紙CDジャケットなのです。
曲目などの文字情報もすべて空押し表現
しっかり圧を加えて、可読性を維持している
◉ 全面押しのむずかしさ
空押し面積が大きいと加圧する圧力が分散化され、紙を凹ませることが難しくなります。今回のデザインはテクスチャー面は密度のあるグラフィック、情報の面は繊細な文字の表現です。
仮に全てが文字のみの表現であれば、強めの圧力でガッツリと凹ませることができるのですが、テクスチャー面が存在することにより、強めの圧力ですと、圧がテクスチャー面に持っていかれてしまうため、全体的に空押しのインパクトが弱くなってしまうのです。
テクスチャー面のデコボコ感を紙面上でしっかり表現しつつ、文字の可読性をしっかりと確保すること… 両方のデコボコ感のバランスは、押し圧の加減と丁寧なムラ取りから成り立っています。
シンプルなデザインであり、シンプルな加工方法 空押しですが、突き詰めていくとシンプルがゆえの難しさを感じます。
リアルさ。 実物の持つ説得力
加工裏面からも表面から押した圧の痕跡を感じとることができる
校正(テスト)立ち会い後、量産・本番加工時では校正時よりも 『 可能な限り圧を強くしてほしい 』 と、篠原紙工の製本ディレクター 小原さまよりご指示をいただいたため、すこし工夫を凝らし、より加圧感を感じとることができるよう加工をしました。
◉ 「 ちょっと 」 を突き詰めること
空押し加工は金属版を使用して、『 押す・圧をかける 』 というシンプルな加工方法ではありますが、ちょっとしたさじ加減一つ、工夫一つで、仕上がりの良し悪しが大きく左右します。たとえば、10社の加工会社に同じデザインでお願いした場合、押し加減一つとってもそれぞれ異なって見えるはずです。
ゆえに、わたしは現場で直接見ていただいたり、お客様と会話をしたり、時間を共有することで、求めている形の在り方を一緒に探す作業をします。 そして、今回の紙ジャケットも、1枚1枚、手作業でしっかりと、まるで刻印するように紙を圧して空押し加工させていただきました。
そこにある、存在する 『 モノ感 』 をぜひ、お手元で感じていただけると嬉しいです!
加工立ち会い時にいただいた、蓮沼さまのサイン
右上にうっすらと空押し加工したトンボが見える
篠原紙工の小原さま、この度はお声がけいただき、本当にありがとうございました。 蓮沼さま、本田さま、加工立ち会いのお時間を作って、コスモテックの加工現場に駆けつけて下さり、たくさんの刺激をいただきました! ありがとうございました。
※ 金属版の写真・蓮沼さまのサイン以外の写真は、フォトグラファー 伊丹豪さまによるものです。
◉ Spotify で視聴することも可能
このCDに収録されている楽曲は Spotify でも視聴可能だそうです。
CDジャケットを見て触って楽しみ、Spotify でどこでも音楽を楽しめる。
とても便利な時代になりました。
【 箔押し加工 】
有限会社コスモテック 現場リーダー 前田瑠璃
〒174-0041 東京都板橋区舟渡2-3-9
TEL:03-5916-8360 / FAX:03-5916-8362
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