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口は一つ、耳は二つ

最近、話すこと、見ること、聴くことについてよく考えます。
どれもできているようで、なかなかできていないと
この歳になっても思うのです。
それは、これらは三位一体になっているからではないかと。
その中でも、話すことと聴くことは相互に強く関係しあっています。
そのことを考えるとき、昔書いたコラムを思い出し
読み返すのです。
そこで、今、改めてここに記そうと思います。自戒を込めて。

昔読んだ本の中にこんなことが書いてあったのを時々思い出します。
「なぜ、人間には口は一つしかないのに耳は二つあるのか? 
 しかも耳は口より上についている。─── それは、
 話すことよりは聴くことの方が上位にあり、
 少なくとも二倍は大切ですよと神は決めているのだ。」

なるほど!と思ったことをよく覚えています。
つまり、「聴くこと」の方が「話すこと」より難しく、
能力としては上位に位置するのだそうです。
そのことは世の中に「話し上手」は多いが
「聴き上手」は少ないことでよく分かります。
話術のテクニックを教える書物や講座は多いけれども、
聴く術を教えるものが少ないことでも理解できるでしょう。

「聴く行為」は注意深く耳を傾けることで、
「聞く行為」より高度な行為です。
「聞く」は音や声を感じて知ることですから、
感覚として知ることをいいます。

極端にいえば、話すことは一方通行の行為でもよく、
相手が一人でも多数の聴衆でも構いません。
ただ聞いていてもよいのです。
しかしながら、「聴く」ことは特定の話し手がいて、
その話す内容を聞き入れなければなりません。
完全に理解しないまでも、
話し手が何を言おうとしているか、何について話して
いるのかが分からなければ聴いていることはできません。
また、話し手も聞き流されている状態では、
話を止めてしまうでしょう。

「聴き上手」といわれる人は話し手が気持ちよく、
思いが伝えられるように話せる状態をつくれる人のことです。
話をしている相手が、
一心になって聴いていると感じて嬉しくなり、
話す張り合いを感じさせてくれるような人のことをいいます。
これは並のことではできません。
こんな相手だったら、話す方は気持ちが高揚することでしょう。
人を動かすことの上手な経営者や成功者といわれる人たちに
「聴き上手」が多いともいわれます。
なぜかはもうおわかりでしょう。

身近なところでも同じことがいえます。
人の話を聴くことを仕事としている人たちは
カウンセラーであれ、相談員であれ、
「聴き上手」であることが能力要件の一つです。実は、
教育者は「聴き上手」でなければできない仕事なのです。
児童や生徒の話が聴ける人でなければ、指導し、
能力を引き出し伸ばすことも、悩みの原因を理解し、
心の成長を促すこともできません。
教科を教えるだけなら「教師」でよいのです。
 
聴き上手の上司に恵まれた人は、
そうでない人よりも早く能力を開花させることができる、
より良い成果をあげることができるといいます。
会社員の愚痴のトップは「上司が話を聴かない」
だそうです。
聴くことができれば問題点や本質に早く到達できます。

「上に立つ人は、部下を制限、制約してはならない」。
前例を引き合いに出さなければ判断ができない人や、
前例がないから決断できない人は、
その時点で相手だけでなく、
自らをも制限していることになります。
話すことは考えや思いを表現することですから、
それを制限した状態で、真意が伝わるわけはありません。

「聞く」から「聴く」へ、大事な場面によっては、
その心構えを変えるだけでも見えてくるものはあるはずです。
得られるものもあるはずです。

あなたは聴き耳を持っていますか?

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