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国際機関で各国の宇宙政策のサポートをするスペシャリスト

仲間悠衣

【プロフィール】 
2022年4月東京大学公共政策大学院(GraSPP) 国際公共政策コースに入学。
2022年8月~12月に交換留学プログラムにてSciencesPo(パリ政治学院)にて学ぶ。
2023年1月から、欧州宇宙政策研究所(ESPI:European Space Policy. Institute)で、シニアコンサルタントとしての勤務をスタート。
学生として研究を続けながら、国際機関でのコンサルタントとして活躍している。

【仕事について】宇宙政策のリサーチや国際会議の企画・運営を通じて、最先端の情報を発信する

ー仲間さんのお仕事内容を教えてください。

欧州宇宙政策機関(European Space Policy Institute,以下 ESPIと表記)で、シニアコンサルタントとして勤務しています。ESPIは、欧州の宇宙政策を専門とする非営利のシンクタンクです。ESA(欧州宇宙機関)やオーストリア研究推進機構などが出資し、 欧州の各国の宇宙政策への立案や提言をするために2003年にウィーンに設立されました。

私の仕事は、大きく分けると2つあります。

1つ目は、リサーチ(調査)です。
私の専門である、宇宙デブリ・安全保障・国際協力などの分野に関する各国の政策や動向に関してリサーチを行い、記事や本にまとめて発信しています。
リサーチは、ニュースや研究資料など一般に公開されている資料や、国際会議での情報収集、インタビューなどを元に行っています。この仕事が7~8割です。

2つ目は、国際会議の企画・運営です。
国連の国際会議が開催される際、政策意見交換会や勉強会などサイドイベントも同時に開催されることが多いのですが、そのイベントの企画・運営をしています。
スケジュールや議題の準備、参加される方々への連絡、当日の資料の準備など運営に関わる業務全般を行っています。

国連宇宙空間平和利用委員会(UNCOPUOS)に参加した時の写真

ーシンクタンクの役割を教えてください。

1つ目は、ブレインとしての役割です。
政策を立案、実行する人に対して、的確な助言を与えることです。
国際ルールをつくる際、各国とのバランスをとりながら専門的なアドバイスをすることが大きな役割です。
今までは、政府系機関に対して仕事をすることが多かったですが、
これからは、民間企業に対しての役割も大きくなってくると思います。
宇宙開発を進める上での、必要な知識やデータを与えていくことも求められています。
2つ目は、繋ぐ役割です。
国と国をつなぐこと、国や産業をつなぐことです。
ESPIは利益を求めない団体なので、中立的な立場として動くことができます。

ー仕事でやりがいを感じるところは?

多国籍な環境で、世界の政策の最先端に関われることにやりがいを感じます。ESAは、NASAやJAXAと違い、22か国が集まってできている多国籍の機関です。
ESPIは、ESA加盟国が中心でできている機関なので、いろんな国の方が在籍しています。国連の会議に参加する機会もあり、将来的に世界を動かしていく場に参加できることは他では経験できない事だと思います。

また、ESPIの中では、私は唯一のアジア人です。
今までは、ヨーロッパ出身以外の方を採用したことはありませんでした。
ヨーロッパの宇宙関係機関に日本人がいることによって、ヨーロッパとアジアの交渉が進みやすくなったり、協力しやすくなることがあると思います。

宇宙政策は特に、各国が協力して進めることの多い分野ですが、
私がヨーロッパとアジアのかけはしになれたらと思っています。

ー仕事で大変なところは?

1つ目は、個人の力が問われる点です。
出社初日も、突然上司に、「何か提案書ある?」と聞かれたことがありました。誰かが教えてくれる環境ではなく、自分で考え、行動して仕事を進めていく必要があります。

2つ目には、コミュニケーションです。
先ほどもお伝えしたように、多国籍の機関のため文化や常識は同じではありません。暗黙の了解ではなく、言葉にしてコミュニケーションを取る必要があります。

また、働き方も人によって異なるため、周囲への配慮が必要です。
私自身も半分は日本で過ごしているように、全員が毎日同じ時間にオフィスに出社しているわけではありません。ただ、こういった点がいい面でもあると思います。自分で考えて動く必要があるからこそ、力がつきます。

年齢が若くても力があれば評価されるし、トップの方に対しても意見が言える対等な環境です。厳しさもありますが、宇宙業界で今後活躍していくために必要な力を付けることができるいい環境だと感じています。

ー1ヵ月のスケジュールを教えてください。

1か月のうち、日本と海外に滞在する期間が半々になることが多いです。
海外は、ESPIの本部があるウィーンだけではなく、国際会議等でアジアに行く場合もあります。国際会議に関しては、主催側で参加することもありますし、情報収集のために参加することもあります。日本にいるときは、宇宙関連のカンファレンスに参加していることが多いです。

カンファレンスがないときは、午前中は学校の論文、午後からミーティングという流れが多いです。ヨーロッパとの時差の関係もあり、ESPIとのやり取りは午後が中心です。時間ではなくプロジェクト制なので、プライベートの時間はしっかり確保できます。土日は仕事が休みなので、大学の論文を書いたり、リフレッシュに散歩したりすることが多いです。

ー職場には、どんな人がいますか?

ESPIで勤務しているのは30人ほどです。平均年齢も30歳くらいで若手が多い環境だと思います。男女比は、6:4で、少し男性が多いです。 
お昼休憩はみんなでテーブルを囲んでランチをします。
ランチの時は、仕事の話はせず、和気あいあいと過ごすことが多いです。

ESPIの同僚との写真国連宇宙空間平和利用委員会(UNCOPUOS)に参加した時の写真

【きっかけ】直接交渉をしてつかんだ国際機関での仕事

ーこの仕事についたきっかけを教えてください。

私は沖縄出身ですが、星がきれいな環境で育ちました。
高校の時に、3週間にアメリカのモンタナ州に短期留学をした際に、大自然の山の上から見た星空が本当にきれいでした。また、その留学の際に、運よくNASAの方にお会いする機会がありました。
そうした経験から宇宙に興味はありましたが、まだ宇宙分野を仕事にするイメージはついていませんでした。

大学を選ぶ際に将来のことを考えてみて、「宇宙」というよりも、「国際舞台」で働きたいという想いがありました。
経済は国際舞台で働くために必要な勉強だということと、数学と英語が得意だったのもあり、大学は経済学部を選びました。

就職活動の際には、やりたいことは明確にあったのですが、
どのように仕事に結び付けたらよいかが分からずに、とても悩みました。
その時にきっかけになったのは大学の恩師です。
東京大学大学院に科学技術政策を学べるところがあると教えていただき、そこで宇宙政策を専門にすることを勧めていただきました。

国際舞台で働くためには、ナンバーワンではなく、オンリーワンであることが求められます。この人にしかできない仕事があるかどうかが問われます。
宇宙分野では、経済政策を専門にしている方は日本でもわずかです。
そういう意味でも、宇宙政策の専門家としての道は自分に合っていると思いました。

2022年8月~12月、大学の交換留学でパリ政治学院に行ったのですが、パリに行くことを何か将来のキャリアのチャンスにしようということは決めていました。ちょうど、留学の1か月前に日本の宇宙関連の会議でESAの方が登壇され、「こんなチャンスはない!」と思い、舞台の下で待ち伏せして思い切って直談判しに行きました。

「来月パリに行くので、ESAで政策に関わる仕事がしたいです」

という趣旨のことを伝えると、5分後にメールをくださりESPIの長官を繋いでくださいました。それが、きっかけで面接をしていただけることになりました。宇宙の経済政策の専門家として、日本であまり仕事がないのは分かっていました。宇宙政策を専門とするシンクタンクは世界でもESPIしかないので、このチャンスをなんとか掴むことが大事でした。勇気はいりましたが、行動して良かったと思います。

留学後、面接に無事合格し、最初は客員研究員として関わらせていただきました。その後、客員研究員としての実績を評価いただき、フルタイムでの勤務に昇格することができました。

ー宇宙業界で働くにはどういう適性が必要だと思われますか?

コミュニケーションが好きであること、行動力、自分で考える力の3つが大事だと思います。

コミュニケーションに関してですが、リサーチも、ネット上の情報だけでは不十分です。いろんな人とコミュニケーションを取り、情報を集めていくことも必要になります。国際会議に行くと、各国の宇宙関係の方にたくさんお会いできますが、人から教えていただくことの方が多いと感じます。特に、私のように国と国のかけはしになりたいという方は、行動力も重要だと思います。必要な場があれば足を運ぶ、人に会いに行くなど、積極的に行動することが大事です。

最後に、自分で考える力も必要です。
国際会議などで集めた多くの情報の中から、現在の宇宙政策の傾向や課題の分析などをする必要があります。
仮説を立てて根拠をもって考え、言葉にして発信をしていくことが求められます。

ー英語は仕事や学業でどのくらい使われますか?

普段の会話はすべて英語で行っています。
仕事や学業でもほぼすべてが英語ですね。
会議などの会話はすべて英語ですし、英語で記事を書く必要もありました。

ただ、私は帰国子女ではなく、留学も短期間のみなので国際機関で仕事をしたり、大学の授業を理解するためには、再度英語を勉強をする必要がありました。。
元々英語が好きで、学部時代の親友がイタリア人というのはありますが、慣れるのには時間がかかりましたね。

【目標】将来は宇宙の政策を作る側になりたい

ー今後の目標を教えてください。

将来的には、政策を考え立案する側になりたいと思っています。
政府なのか、専門家としてなのかはまだ決めていませんが、国際交渉をし政策を決めていく側になりたいと思います。また、今の経験も活かして、国と国、国と産業など違うセクターを繋ぐ懸け橋になっていきたいです。世界の宇宙政策をリサーチしていて、課題に感じることがいくつかあります。
日本の政策は政治的に決まっていることも多く、政策としてよいのかどうかという視点が少ないように感じています。データを活用し、事実に基づいて決めていくことが必要だと思います。

また、世界的に見ると、先進国中心でルールを決めている点も課題です。
現在も、次々と宇宙産業に参入してきている新興国も一緒に、ルールを決めていく必要があると思います。政策は規制だと思われがちですが、長期的に発展をするために必要なものです。
宇宙が持続可能な発展をしていくために力をつけて、国際舞台で活躍していきたいと思います。

国連宇宙空間平和利用委員会(UNCOPUOS)に参加した時の写真

ー宇宙業界を目指す方へのメッセージをお願いします。

ぜひ、やりたいことがあるなら、突き詰める努力を惜しまないでほしいと思います。

好きなことをやっている方がいいと思うのです。悩んだときは、楽しい方がどっちかなと考えるようにしています。仮に失敗したとしても、その方が自分の糧になると思います。コンフォートゾーンを超えることも意識しています。やりたいことがあるなら、できるかどうか?今まで取り組んだことがあるかないか?は関係なくチャレンジするようにしています。

ぜひ、一緒にチャレンジして行きましょう。

ーありがとうございました。

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〇宇宙のお仕事図鑑とは?

このプロジェクトのきっかけは、「宇宙関係の仕事につきたかったけど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった。」という声がコスモ女子のメンバーからたくさんあがったことでした。
宇宙のお仕事図鑑では、宇宙関連のお仕事をされている方々に取材をした記事を発信していきます。
文系の職種も理系の職種も(文理で区分する必要もないかもしれません)、大きな組織の中でのお仕事から、宇宙ベンチャーや個人でのお仕事まで、「宇宙のお仕事」をこのnoteで発信していきます。

〇コスモ女子とは?

「コスモ女子」は、宇宙業界で活躍したい女性中心のコミュニティです。

宇宙に関する知識を身につける「宇宙の基礎講座」や、宇宙に詳しくなくても楽しめる交流会などのイベントを毎月開催!

コスモ女子から発足した、コスモ女子アマチュア無線クラブが人工衛星を2024年に打ち上げる予定です。

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