英語学習に推せるコメディ・ドラマ 5選とは?
ママと恋に落ちるまで(How I Met Your Mother)
海外ドラマのジャンルのなかでも特に面白く、一話が短いため続けやすいのがシチュエーション・コメディ(シットコム)と呼ばれるジャンルです。そしてその最高峰と筆者が考えるのがこのHow I Met Your Mother。
シットコムの王道として有名なのはFRIENDSという作品でしたが、さすがに古過ぎることと行き当たりばったり的な展開が多いことが視聴を続ける上で問題になります。その点本作は、FRIENDSの後継作品であり、また一話一話の展開が予想できず飽きない作品です。
本作では登場人物がみな自分なりの夢や美学を持っており、彼らが理想に向かって積極的に行動したり思い悩んだりするさまが丁寧に描かれるため、見ているこちらも感情移入してしまいます。そして「ロマンチストのテッドが将来の妻に出会う」までが回想形式で語られるため、一本の長い映画を観ているかのように伏線回収や人間関係の変化を楽しむことができるのです。
また、注目したいのが各エピソードの冒頭と終わりに2030年のテッド(声の出演:Full Houseでダニーを演じたボブ・サゲット)が、その出来事を総括するような一言を子供たちに語るシーンです。Kids, ...という呼びかけから始まる含蓄ある言葉は印象深く、特にイチ押しフレーズに挙げたものは海外ドラマ史上屈指の名言だと思います。
まさにスーラやシニャック(2人とも新印象派の画家)の点描画のように、このドラマを彩るエピソードは全て、少し遠くから振り返ってみて初めて意味を持ちひとつの絵を完成させます。報われずとも運命の愛を追い求めるテッドらの姿に共感し、その激動のラストに感動してしまう、シットコム随一の傑作です。
フルハウス(Full House)
温かな家族を描くホームコメディでありながら、一家の母親が亡くなったことからストーリーが始まるのは異色です。喪失感を抱えた家族が新たなメンバーを迎え入れ、歌、ダンス、スポーツなど体を張った笑いを展開してくれます。家族の様子をコミカルに描くだけではなく、3人の娘たちが育つのと同様に3人の父親たちも育児に悩み、家族としてともに成長していくさまを感動的につづった名作です。
長く続いたドラマは登場人物の変化も見所の1つですが、本作は特に3人の子供がいるため、彼らの成長が楽しくてついつい続きを見てしまいます。特に初登場時はまだ首も据わっていなかった末っ子のミシェルがだんだん言葉を覚えて舌足らずな英語を喋っていくさまは愛らしく、私たち英語学習者としても見ていて興味深いです。
英語表現としては、小さい子供がいる家庭のことなので極端なスラングがなく、発音もゆっくりなのがうれしいところ。逆に子供を叱ったりしつけたりするシーンからは、アメリカの家庭の雰囲気やものの考え方を垣間見ることができます。
一方、お調子者のジョーイはアメリカのアニメキャラクターの物真似などをして子供たちを笑わせますが、現代日本人の私たちには全くわからないのが悲しい点ではあります。つまり、キャラクターやシチュエーションに応じて注目する点を取捨選択することが大事になってくるということでしょう。
モダン・ファミリー(Modern Family)
レギュラーの登場人物が10人ほどと多く、家族を主とした様々な人間関係にまつわる日常的なフレーズを聞くことができます。
1エピソードにつき3家族のメンバーが何人かずつに分かれ、2〜3の場面が入れかわり立ちかわり展開していきます。自宅のプールに落ちるなど体を張った笑いと皮肉やシャレを多用したスピーディーな会話が魅力ですが、本作の最大の特徴は、モキュメンタリー(ドキュメンタリーを模したフィクション)の技法が使われていること。通常のキャラ同士の絡みの合間に、彼らが自宅のソファーに座ってその内心を吐露する独白シーンが挟まれるのです。
会話シーンのあとにすかさずI lied.(あれは嘘だったんだけどね)といった暴露が挟まれるなど、彼らの内面を端的に示すことで一歩進んだ性格描写を可能にしています。
基本的には1話完結のストーリーですが、他のファミリードラマと同様に子供たちの成長や大人を含めた人間関係が緻密に描かれ、見ごたえがあります。特に他作品に比べ、年齢やジェンダーを含めた「モダンな」立場が様々あり、キャラクターに幅があるのが特徴的です。ぜひ自分の推しキャラを見つけ、注目してみてください。
このように本作は、3つの家族の交錯する目線を通して、悩みを抱えつつ理想と現実の間でもがく彼らの姿を見せてくれます。現代的な家族のありようを受け容れる難しさと喜びの両面を描き切った名作だと言えるでしょう。
ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則(The Big Bang Theory)
IQは異様に高いけれど、恋愛偏差値は絶望的に低い。そんな若き科学者たちが研究や恋愛に没頭する様子を笑えるネタで彩った長寿ドラマ。
アクションシーンは多くなく、科学者の彼らがアパートや大学、ときにはアメコミの店で集まって話をするシーンが主となっています。なにしろ頭が良いため、彼らの会話はテンポが速く語彙が高度なことが多く、くだらない会話でも英語学習の上では興味深く聞くことができます。
その最たる例が人気キャラクターのシェルドンで、天才肌だが高慢で自己中心的、しかしどこか憎めない性格がセリフの端々にあらわれています。また、彼らの専門である物理学・エンジニアリングの話は、文系の筆者では日本語でも全くわからない難解さです。こうした専門用語の出てくる作品は、やはり意地を張らずに日本語字幕で見ることをおすすめします。
作品全体の傾向として興味深いのは、アメリカ社会における無意識の思い込みです。例えば「ブロンド美女は頭が良くない」、「ユダヤ系の母親は束縛が強い」といった偏見に真っ向からネタをぶつけていきます。そもそも「SF映画やアメコミ・オタクでコミュニケーションが下手な理系男子」が主人公のグループですが、それらのいじり方の解像度が大変高く、キャラクターの性格付けになじむほどに面白さが増してきます。良し悪しは別として、間違いなく現実に存在するアメリカ的価値観を自然に知ることができるのも本作の良いところの1つでしょう。
理系男子の仲良し4人組があり余る知恵を絞って未知の分野・恋愛に挑んでいくさまがかわいらしい、唯一無二の友情ドラマです。
ブルックリン・ナイン-ナイン(Brooklyn Nine-Nine)
架空の警察署を舞台に、個性豊かな刑事たちが暴れまわる暴走特急ポリスコメディ。とにかく面白い作品が見たいときにおすすめです。
99分署のオフィス内で刑事たちが軽妙な会話を展開するパートと、街中で実際に捜査に当たるアクション・パートとの緩急があるため、全く飽きずに観ることができます。銃などを使ったアクションやナンセンス・不条理なネタもありますが、全てのエピソードが猟奇的なまでに笑えるので癖になってしまうこと請け合いです。
一方でシーズンを重ねるにつれ、アメリカの警察を扱った作品であることが大きな意味を持ってきます。特に、ホルトがアフリカンアメリカンでありゲイで既婚者で、更に警察署の署長であり続けることは大変な困難を伴うことが明らかにされます。そのように仲間がピンチに陥った際は、普段は軽口を叩きあう99分署の面々も一致団結し、根拠のない自信と不思議な運の強さで、みなで難局を乗り越えていきます。
英語表現の上で特に注目したいのは、お堅い敏腕署長ホルトと優秀だがお調子者過ぎる刑事のジェイクとの掛け合いです。彼らは趣味から英語の語彙まで両極端であり、例えばジェイクが単純にtired(疲れた)と言うような場面でホルトはfatigue(倦怠感がある)というような、フランス語由来で硬い言葉遣いをしがちなのです。その落差が見どころともなっているため、まず注目していただきたいのが2人のやりとりです。
→次は中級編、「英語学習に推せる恋愛ドラマ 5選とは?」へと続く。
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