語学好きの白杖使用者の日常―マイノリティ同士の支え合い補い合い

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私の居住区は観光地なので、外国の方の往来が非常に多い。
特に春節が終わったところだとかで、中国からの観光客で非常に混雑している。

先日、少々、冒険かな…と思いつつも、ここ最近の挑戦心もあり、週の半ばの平日を選べば何とか大丈夫かと思い(これは完全に誤算、甘かったが)、用事をふたつほど済ませたくて、観光客が押し寄せるど真ん中の場所に突入。

歩いていても、中国語と韓国語しか聞こえない。韓国からの観光客も増えているのだろうか。
ついこの前、韓国の方が道案内をしてくださったこともあり、別に話しかけてもらえることを期待していたわけでもないのだが、何となく頭の中で、目的地やそこに行くための次の目印の場所に行きたいというような韓国語の文章が構成されていた。

少し歩くと人に突っ込んでしまうので、なかなか頭の中の予想する地図通りに進むことはできず、少し広い場所で僅か勘が狂って方向を見失ってしまった。
まずい、と思った瞬間、なんと私の様子をしばらく前から見ていたのだろうか、女性が話しかけてくれた。
思い切り、英語で。

以前も、全く別の駅の構内などで英語で話しかけられ、手引きをしてくださったようなことは何度もある。
言葉がうまく通じないながら、道端で話しかけてくれて助けてくれた中国の方も、何度もあった。
もしかしたら言葉からして通じないかもしれない白杖使用者に、しかもご自身も土地勘などなかったりするにも拘わらず、助け合おうと話しかけてくださる。
本当にありがたい心の輪である。

さて、この方もそうだった。
英語で話しかけてくださったので、私も少々頭が韓国語になっていたのをぐいっと英語脳に引っ張り(この方のイントネーション、韓国人の英語ではなかった)、英語で、行きたい場所を伝えた。
……が、…ん?
何やら英語がうまく伝わっていない?
とりあえず何度か場所の名前にアクセントをかけながら伝えると、それが場所の名前だということはわかってくれたが、その場所をご存知ないようだった。
実は私は方向を失っただけで、しかも目的の場所(通り)はそこからくっついている通りであったので方角さえわかれば大丈夫だったのだが、言葉が何せお互い何かちぐはぐしているので…。
「Chinese?」と聞いてみると、やはりそうだった。中国からの観光客の方が、片言の英語で助けようとしてくれたのだった。
心が本当にあたたかく嬉しく、しかし中国アクセントの英語がなかなか曲者でどうにも聞き取れない。
何か、少し私を数歩連れて行って、私に何か説明してくる。
雑踏の中である上、中国英語が聞き取れず、何か「student」と言っている…
すると、何か前方の方で、何名かの女子たちが「あ、英語わからない…どうしよ」と言っているような声が。
すると、どうやらその団体の女子のひとりが翻訳アプリを出したらしい。
やはりどうやら私に話しかけてくれた中国の方と会話をしているのだと状況を予測し、やっとわかった!
ああわかった、そういうことか!ありがとうございます、本当にありがとうとその方に英語であいさつをし、伝わってくれたようでその方も快く挨拶をして去って行った。
その後、目の前の女子たち…恐らく修学旅行か何かだったのだろう…に、方角を……聞いたのだが、この子たちもやはり修学旅行に違いない、その通りの名を知らず。
その通りが繋がっている場所の特徴を教え、ここから見えるはずなんだがどちらの方角かという聞き方で尋ね、無事、教えていただくことができた。
重ねてお礼と、楽しんでくださいと挨拶をして別れた。

私自身がどちらの方向を向いているかを知りたかっただけのことに、かなり時間はかかったが…本当に心温まる出会いと時間だった。


そして、観光客ごった返すその通りに突入……
やはり私は地元観光地を甘く見た。
物凄い人だ。

僅かずつ進みながらもはや自分がどのあたりにいるのかわからず、とりあえず目的の店は近いはずだったので、ちょうどありがたいことに何かの店で呼び個をしている、声を上げている女性がいたため、そちらの方へ呼びかけてみる。
すぐに答えて下さり、やはり同じ通り沿いで見知っているのか、目的の店の名前も知っておられ、手引きして連れて行って下さった。
その店では店員さんが丁寧にどんな商品を探しているのか、忙しい中、付き合ってくれ…。

用を済ませ、では別の通りへ。
…といえど、この土産物通りをどうやって抜けるか。
裏通りがあるはずなので、店の切れ目を探ろうとしていたら、またも通りがかりの女性が助けてくれた。

そこでまた面白いことが…。

この方、話を聞くにどうやら手引きに慣れているようなわけでもないらしいのだが、何かの情報でクロックポジションの概念をご存知だったのだろう。
「あ、肩でいいですか?肘がいいですか?」と聞いてくれ、その後歩き出すとき、「はい、では3時の方向に曲がりますね。」「あ、ちょっと11時の方向に行きます…」などと、すらすらアナウンスしてくれる。
すごい、と思ってしまった私は……とにかくつかまらせていただいているので、ついていきながら、(…あ、3時ってこっちだったか!…え、11時?えーと11時というとちょっと右…いや左か??)などと思いながら、結局ただただ肘の動きに従ってついていく。

クロックポジションは、わかりやすい人とわかりにくい人がいる。
まあ、慣れの問題ではあろうが。
私は、文字盤を見慣れていないかイメージしにくく、しかも右左を良く混乱するため、実はクロックポジションはよくわからない。
しかし、せっかく使ってくれるので、この機会に慣れようという気分もあり、他に少し行きがかりの会話をしてくださった気さくな方であったこともあり、そのまま案内していただいた。

目当ての通りまで抜けてその方と別れると、次の目的の店の前辺りでまた迷ってしまい、今度は男性が声をかけてくださった。恐らくその辺りの土産物屋か飲食店の呼び子で表に出ている人のようで。
この辺りに〇〇という店がありますか?と聞くと、

何とこの方も面白い。
「あ、ではそこから3時の方向にちょっと進んで下さい」

この方は、性別の配慮もあってか、私に声で指示してくれた。
そして店に入る前に、店の中の様子も、「このまま真っ直ぐ行くと店のレジがあるので、9時の方向に曲がると商品棚のエリアがあります」などと説明してくださったため、
「…あ、9時…9時…というと…あ、こっち?こっちですよね?」と確かめる会話があり、「すみません、左右に疎くてクロックポジションが実はよくわからなくて…」
「あ、そうかすみません!じゃ、ええっと、左側って言った方が良いですね。(私が指さすのを見て)あ、そうそう、そっちです」
などと笑いながら会話をして、伝えさせていただいた。

観光地はもしや、視覚障害者にクロックポジションを使うというような案内法の教育が広がってきているのだろうか。

もしかしたら、浅草はクロックポジション案内をして下さる方に出会いやすいかもしれない。


せっかくなので、その後のもうひとつ…。
その後、隣町までまっすぐの道路を歩いて行ったのだが、この時、一度横断歩道で「渡れますよ」と声をかけてくださった方が、その後もしばらく私の様子を見ながら一緒に歩いていてくださり、その次の横断歩道なども「あ、今赤です。…はい、青になりました」などとアナウンスしてくださった。
ありがたいなと思って歩いていると、
「どこまで行かれるんですか?」と聞いて下さったので、
「〇〇通りとの交差点まで行きます」と答えると、
「ああ、じゃあよければ一緒にいきましょう」と。

その後、私は誘導ブロックに沿って歩いていたので(この時は人通りももうあまりなかった)、肘を持つでも持たせるでもなく、私に合わせて隣を歩いてくださった。下町人らしく、ちょくちょく会話をしながら。
その後、交差点まで来ると、そこから交差点を曲がって良く目立つ店のある建物の2階へ用があったのだが、なんとそこから「どこ?すぐなんですか?私も時間あるし良ければそこまで行きますよ、探しますよ」と言って下さり、肘を捕まらせてくださった。
そして…今まで2回程行ったところでは、その目立つ店を目当てに行くことができたのだが…
今回、なぜか。
しばらく歩いても、その店が見つからない。

明らかにこれは行き過ぎたなと思って、その辺りの店に聞くと(実は前回も迷った時この店の同じ店員さんに聞いていた)、やはり行き過ぎ。
おかしいなと思って、もしかしたら店が閉まっていて気付かなかったのかも…と思っていると、やはりどうやらシャッターが下りていてその店とは気付かなかったらしい。
ここはまだ慣れておらず、この店しか目印を知らなかった。
そうか。閉まっていると目印にならない場合があるのか。
他にも目印をしっかりと調べて覚えておこうと学んだ。

しかしこの方も最後まで付き合ってくださり、その上
「いや、私が気付けなかったから、ずいぶん歩かせちゃってごめんなさいね。いやほんとに。私も近くなんだけど、この店知らなかった。時間かかっちゃってごめんね」などと何度もお互いにぺこりぺこり。
こちらこそ、歩かせてしまい、時間もいただいてしまい、それでいて、本当に助かりました。


帰宅時も、ある程度慣れた道であるし誘導ブロックがある歩道だが、短い横断歩道を渡ったあとで(横断歩道はブロックが切れている、そしてその間まっすぐ歩いているつもりでも思わず曲がっていることがよくある)、歩道についたとき1,2秒、ブロックを探していると即座に若い女性の声、「あ、よかったらお手伝いしましょうか。あ、ここです」とブロックを教えてくれ、そのまま肘を貸してくださった。ご家族(親御様)が片目の視力を失われていて、白杖を使っておられるらしい。
「やっぱり、真っ直ぐ歩くのって難しいですか?」というような会話や、私も「これくらい人が多くなると音響信号なども聞き取りにくくなるので、地元で帰り道ではあるのですが、本当に助かりました。」
などという会話をしながら、無事、居住ブロックの曲がり角まで付き添ってくださり安心して歩くことができ、帰宅した。

その上、この方、私との別れ際、「もしまたお見掛けすることありましたら。」とお声がけくださった。
お近くにお住まいなのだろう。見守っていただいている、また会ったら声かけますね、という、一期一会だけれども地域の輪である、温かさを感じた。

本当に、この、心の輪のおかげさまで、私も冒険範囲や量をどんどん広げることができている。

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