見出し画像

アイドルの存在意義とエンターテインメントの本質

ニューヨークに住んでいた時のルームメイトの一人は、マンハッタンにある「Fashion Institute of Technology(FIT)」
というファッション関係の学校に進学を希望している20代の女の子。
僅かに英語のテストの点数が足りない為に入学出来ず、コミュニティーカレッジに通って英語の猛勉強をしていた。
毎日家と学校の往復、大量の宿題をこなすだけの日々。
20代と言えばまだまだ遊びたい盛りなのに友達と遊ぶ時間すら殆ど無く、ましてやボーイフレンドを作る暇などないわけで。
憧れの街でただ一人、無味乾燥とした生活を送っていたそんな彼女の唯一の癒しはKinki kidsの堂本剛君だった。

日本に住むお友達が時折剛君の出演しているTV番組やステージのビデオを送ってくれる。
やるべき事を全部済ませてそのビデオを休暇にまとめて一人で見る、そのひと時が彼女にとっての至福の時。
それがあるから頑張れるんだと言っていた。
私はジャニ通でもなくKinki Kidsは「ガラスの少年」くらいしか知らない、その程度のレベル。
それでも何か話し相手になれないかとその少ないデータの中から必死で探して剛君の髪型について誉めた。
彼は髪型に強いこだわりがあるのか、いつ見てもとても斬新でカッコイイ髪型をしていたので私も真似してみたいと言ったら
まるで自分の彼氏を誉められた時のように本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
そして剛君がどれほど素晴らしいかを、もううっとりとキラキラした表情で語る彼女を見ていて、
ジャニーズを嫌うのはもうやめようとその時に誓ったのだった。
そうか、「アイドル」っていうのはきっとこういう娘達の為に存在するのだな。。。と
その時にやっと気づいたのだ。

「アイドル」とはその人の中の聖域に存在するもの。
他人は決してその領域を侵すようなことは出来ないのだと思う。
この悪魔的な世の中で、不条理や理不尽な現実と闘っている人や
自分を見失ってしまいそうな程単調だけど忙しい日々を送らざるを得ない現実の中にいる人、
大切な人はいるけれど心の隙間を埋められないでいる人、
恵まれ過ぎて退屈している人や
この世が善と美で溢れている世界しか知らない若者
この世界が偽物で溢れていると見透かしている純粋で早熟な若者達
皆それぞれ絶対的に美しくて正しくて裏切らない何か、誰かを求めている。
日常の人間関係ではそうもいかない事があるけれど
劇場へと足を運べば、ビデオを巻き戻せば
大好きな人達がいつも美しくて明るい笑顔で歌って踊って元気な姿を見せてくれる。
たったそれだけでいったいどれほどの人達が救われている事だろう。
私もニューヨークに住んでいた時に少年隊のパフォーマンスの映像を見てどれほど心の渇きを潤してもらっただろうか。
もう何もしたくないほど疲れてしまった時や、日本へ帰りたいけど帰れない時に
彼らの映像を夜更けにそっと見ては郷愁に浸って気持ちをまぎらわせていた。
きっと今も海外に居て日本へ帰りたくても帰れない人達がたくさんいると思う。
以前ならば帰りたくなったらいつでも帰る事が出来た。
飛行機は毎日飛んでいるし、入国制限などもなく
会いたいと思えばいつでも会いに行けたのに今はそれが叶えられないでいるという現実がある。
だから例え動画であったとしても、世界中からいつでも映像を見られるツールがあることは見えない多くの人達の心を救っているかも知れない事実を、
表舞台に立つアーティストには心に留めて置いて欲しいと願う。

以前、劇作家・演出家の森泉氏について触れた記事を書いたけれど
https://note.com/cosmic_blues/n/n6971b0aba5de
森泉氏が更に踏み込んで語っていたのは、
「エンターテインメントを求めることは最も人間的な営みであり、
人間が人間の為に作るものである。
でも人間にはいつか死が訪れるから、エンターテインメントは有限であるのだ。
もしも人間の命が永遠だったならば、この世にエンターテインメントは存在しないのではないか。
限りがあるからこそ生まれるもの。」

限りがあるからこそ、その一瞬が「かけがえのない瞬間」なのだなと感じます。
いつしかその時間が過ぎ去ってひとりになった時に
ふと、その瞬間を思い出して、密かに心を熱くジーンとさせるものがあるとしたら
それこそが本物のエンターテインメントと言えるのではないでしょうか。

お読み頂き、どうもありがとうございます! もしよろしければサポートをよろしくお願いします。 とっても励みになります♪ 嬉しくてもっと書いちゃいます!