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#06 最初の出会いPart 2

実は、私はNZでの旅での最中もアメリカでの旅でも、出会った人にはとにかく同じ質問をしていました。それは「あなたの夢はなんですか?」というものです。案外、みんなすぐに答えられないですよ。中には「働かないでお金にも困らずボケーっと生きるのが夢」という人もいました。


テリーのスタジオは、鮨萬から10分ほどドライブしたサンフランシスコの街中にあった。古いビルの入り口から暗くて急な階段を上がって行く。

テリーとダンが室内の電気をつけた。するとどうだろう。撮影機材や小道具、そしてスタジオの全体が顕れた。すごい!スタジオだ!撮影現場は、異質の世界だ。小さな撮影台の上には、切り取られたワンシーンがぽんと置いてあるように見えた。カメラの前だけが、違う世界。スタジオの横には、こぎれいなキッチンもついていた。キッチンの奥には、仕上がり前のスライドが蛍光灯の台の上に陳列されている。テリーはそのスライドを一つ一つ見せてくれた。そこに置いてあったものは、家電メーカーのパンフレットに使用されるもので、ホームビデオカメラとかテレビなどが無機質に映し出されていた。仕事だな、と思った。生活をするためにやっている仕事だ。その他にも、釣具メーカーのパンフレットの撮影もしているらしく、フライフィッシング用のつり竿とフライが写されたスライドもあった。パンフレットに有りがちなショットを蛍光灯を通して見るということが、一般には見ることの出来ない、特別なものを見ている気にさせた。見惚れている私に、テリーが中央のスタジオへ行こうと促した。

キッチンからスタジオへ行こうとする途中に、大きな写真が壁に飾られているのが目に入った。それは、古い野球シューズを正面からクローズアップした写真だった。左の靴は無造作に置かれ、右側の靴は裏返されている。他には何も写っていない。シンプルな構図のものだ。古びて所々皮が禿ている野球シューズ、裏返された靴底は擦り切れていて、スパイクには赤い土がこびりついている。

私は思わずその写真の前で足が止まってしまった。

ある男が履いていた野球シューズ。その男の野球への情熱や青春、思い出が、汗と一緒にこの靴へ染み付いている。靴を見ているだけで、野球場での歓声や審判の声が聞こえてきそうだ。シンプルなこの写真は、ある男の無言のメモリアルで、私にはそれが多くのことを語っているように思えた。

「私、この写真、好き」

野球が好きなのかい? と聞かれた。うううん。野球には興味がないけど。私はこの写真についての感想を感じたままに述べた。すると、テリーは心底嬉しそうに頷いた。

「実は、僕もこの写真が大好きなんだ。僕の撮った中でのベストだよ。君はわかってくれた」

なんでも、このシューズはメジャーリーグの有名な選手の靴だったらしい。残念ながら、名前を言われても私にはわからなかった。実は、このテリー、メジャーリーグの公式カレンダーの撮影者なのだ。毎年、メジャーリーグのカレンダー撮影を手掛けている。テリーは他にもカレンダーに使用された写真を見せてくれた。バッドを握る手、きちんとたたまれたユニフォーム、サイン入りの土のついたボール、どれも魅力的な写真であったが、あの靴の写真が一番素敵に思えた。メジャーリーグファンの人がその名を聞けば、興奮してしまうような有名選手達。そんな彼らが、かつて所有していた物を撮影に使用していたようだが、あいにく私にはその貴重さがわからない。それでも、野球に人生を賭けた男達の情熱は、二次元のフィルムを通して熱く語られているのであった。
一枚一枚、写真をめくっていくうちに、ふと気がついたことがあった。

「わかった。あなた、野球が大好きなのね」

ニヤリと笑うテリー。そして、自分の作品を見つめながら「そのとおり。これが僕の人生だ」と言った。

「あなたの夢はなんですか?」

思わずこう聞いた後、愚かな質問だったと後悔した。テリーの答えは明快だった。

「これが僕の夢だ。僕は夢を成し遂げた。今もそれを続けている。そして、これからもずっとそれをやり続ける」

成功した男の横顔がそこにあった。
私も今、夢を追いかけてる。いつか手に入れようと、そこに向かって走っている。夢は夢では終わらない。夢は必ず手に入る。それを明示してくれたのが、テリーだった。テリーの存在に、私のやっていることは無駄ではないのだ、と励まされた。

何年かかったって、絶対諦めない。
私は夢に向かって、走り始めたばかりなのだ。

(つづく)


この時のテリーの言葉は力強く、とてもカッコよく見えました。「自分は今、夢の中にいる。それをやり続けている。この先もやり続ける」これを聞いた私は、こんなカッコイイ言葉が素で言える大人になりたい!と思いました。

今では私の中で「夢」というものは、ただの計画にすぎないという気持ちです。でも、改めてテリーの言葉を読み直すと、もしかしたら私はテリーと同じく、夢の中にいるのかも知れません。人から見たら、けっして大成功を収めているわけではありませんが、好きなことをして好きなように生きているわけですから。

パンデミックが残した新しい流れが、今の私に変化の風をもたらしています。今までにないスタイルで、新しいことを計画したり、思いついたり。風通しのよくなった時代に相応しいアイデアが次々と浮かびます。

私はいつも短期、中期、長期の計画を年に一度見直します。中期、長期の計画はこの三年はあまり具体的には考えられなかったのですが、ここへ来てやりたいことが増えてきて、長期の展望も具体的に描けるようになってきました。まだまだ吸収することがあって、チャレンジしてみたいことがあるって、人生は100年なんかじゃ足りないですね。

さて、次回は私の中で人生初の”でぶスイッチ”が入った日の記録です。このスイッチがオフになる方法を誰か教えてください。

#あなたの夢はなんですか

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