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#20 友情エッセンス

そういえば、男性って30年ぶりくらいにばったり同級生と会ったとしても「あ、どうしたの?」「出張」「あそう」「じゃあな」「うん、じゃあな」みたいな会話で終わるんですよね。女性だと「えー、今度お茶しよー」とか「この後時間あるー?」みたいな展開になるのですが。

フェニックスにいる私に、退職した会社の同期が会いに来てくれました。さて、どういう展開になるのでしょうか。


久しぶりの再会だというのに、空港で抱き合うこともなく、感涙ということもなかった。気持ち的には「おー、来たかー」「おー、来たよー」という感じだ。というよりも、二人は長旅に疲れ切っていた。私はといえば、表面上はまったく盛り上がったそぶりはなかったが、心の中はいつもの100倍くらいテンションが高くなっていた。

ミクちゃんとチーは私が勤めていた会社の同期だ。チーは私よりもずっと前に退職していて、現在は某カッコイイ会社でバリバリと働いている。3人の中では、唯一ミクちゃんが現在の会社を辞めずにコツコツと働いている。みんな入社当初からの付き合いだ。

ミクちゃんは豊満な体つきにおっとりとした性格で、おまけに美人ときているから男は放っておかない。チーはショートカットの似合う美人で、元気溌剌娘に見えるけど、実は意外に寂しがり屋というこれまた男が放っておかないタイプである。なぜか私は、昔から友人になる人は美人が多かった。一緒に遊んでくれるお友達はみんな美人だ。私はいわば、美人でカッコイイ集団の中のキレンジャーのような存在だ。カレーも大好物だし。

チーは来て早々にロストバゲージに見舞われていた。発見次第荷物をホテルまで届けてもらえることを確認して、一路ホテルへ向かうことにした。

ふふふ、今回のホテルはすごいんだよ。Phoenixの最高級ホテル、Pointe Hilton(ポインテ ヒルトン)に宿泊なのだっ! 一人旅では絶対に宿泊することなど許されない高級ホテル。それもスウィートルーム! チーが友人を介して予約してくれたらしい。ああ、チーが友達でよかった。生きててよかった。

トロピカルな王国風に造られたこのホテル。高い天井のロビーには、ハンサムなスタッフが勢揃い。カートで部屋まで案内される。部屋の目の前は大人のプール。そして、シンクの取り付けられた一角には、ミニバーと高級ワインが置かれていた。彼女たちは寝室で、私は居間のエキストラベッドで眠ることにした。彼女たちが支払ってくれている部屋なので、一緒に泊まらせてもらえるだけでもありがたい気持ちだ。

今夜は眠らせないよ。だって、今夜はおしゃべりで夜明かしするんだ。でも、まずは腹ごしらえをしよう。メキシカンはどうかな。トルティーヤなんかつまみにしながら、ビールでも飲もうよ。せっかく暑いところに来たんだからさ、日の暮れる空の下で気持ちよく酔っ払おうよ。オレンジ色の空に紫の雲が横たえる。東からだんだん藍色の夜がやってくる。オープンテラスには、徐々にランプがそのあかりが点りとも始めていた。耳を澄ませば虫の声すら聞こえてくる。

「かんぱーいっ!」

ビールの瓶を持ち上げて、乾杯に音を鳴らした。ぷはーっ、こんなにおいしいビールは久しぶりだよ。で、最近の日本はどうなってるの? ウタダヒカルってすごいんだって? 仕事は楽しい? あの男とは別れたの? え?アリゾナなのにサボテンがない? 砂漠がない? さすがに街には砂漠はないよ。いやー、楽しいねぇ。もっと飲みたいよ。

とりとめもない話題に花を咲かせて、メキシコ料理に舌鼓を打った。
いつの間にか、日はどっぷりと暮れていた。そろそろ部屋に戻ろうか。部屋に戻って冷蔵庫のビールを飲んじゃおう。お金なんてかかったっていいじゃん。楽しけりゃいいんだよね。貧乏の苦しみはいつも後からやってくるもんなんだけど、こんな特別なときはそんなことに頭を抱えないで楽しくやりたいよね。

部屋に戻って、軽くビールを飲む。しかし、飲めないチーは、さっさと水着に着替えてプールで泳ぎに行ってしまった。ミクちゃんは、私の最新の日記を熟読している。私は一人、ソファに寝そべりながらぼんやりと、こういう勝手な集団だから、安心できるんだなーと実感していた。

私はべったりとどこへ行くのも一緒といった関係は好きじゃない。安全は確保するが、それなりに自分の思い思いの場所へ勝手に行くことを許したいし、私も許されたい。誰かが何かを提案しないとどこにも行かないような集団とどこかへ行くのはごめんだ。いつまでも「何食べるー?」とか言いながら、だらだら無駄に歩き回るのも嫌いだ。

その点、ミクちゃんやチーはそんなことを心配しなくてもいい。まぁ、そろそろ三十路という女達なのだから、それが当たり前なのだけど。

真剣トークはそれほどせずに、エキストラベッドを広げて寝そべりながら、いろんな話をした。ああ、久しぶりだな、誰かとこんなふうにたくさん話すのは。長いこと連絡を取り合っていなくても、こうして会えば前と同じようになんのこだわりもなく話し合える。そんな息の長い仲間達。あの子もあの人達も、ミクちゃんやチーと同じように息の長い友達だ。今更ながら、自分の人選に満足する。だって、やっぱり私の仲間の中に間違った人はいない。

友達は財産だ。どんなお金を積んだって、いい友達を手に入れることなんて出来ない。例えるなら、自分自身の価値っていうのがあって、その価値に見合った人間が回りにやってくるものなんだ。いい友達って、みんながみんな自分にとって都合のいい友達ってわけじゃない。中には都合の悪い友達もいるし、なんだか煮え切らない態度に葉っぱをかけたくなるような友達もいる。でも、それにはきっと意味があるはずなんだ。お互い、ハッピーになる鍵を持っているはずなんだ。そのとき出会ったこと、そして今も続いていることには、必ず意味がある。与えたり与えられたり、刺激しあったり。澄んだ水に水滴が落ちたときに広がる波紋のように、お互いの関係が影響しあってる。たくさんの数の水滴が落ちれば、水面の波紋はそれだけ複雑になる。私は出来れば、自分の水面にたくさんの水滴を落とし、綾なす波紋をもっと巧妙な美しさで仕上げたい。相手の心の水面にも、自分という水滴を落とし、何か軌跡を残したい。

テキトーに付き合う関係っていうのも楽しいのかもしれないけれど、たぶん私にはそれが出来ない。魂が触れ合うまで交流を重ねてしまうし、触れ合うことで噛み付かれたり傷ついたりすることもあるし、その人の一部が私の心の水に溶け込むこともある。どちらの場合でも、私は心を進化することが出来る。心の進化なしには、私の友情はあり得ない。

旅で疲れた彼女達は寝室へ行ってしまった。私は、パリパリに糊のきいたシーツの上で、暗くなった天井を仰ぎながら、まだちょっと興奮していて眠れない自分に気がついた。

明日は、彼女達をPhoenixの街中まで連れて行くつもりだった。そして私は、自分にはガイドの才能がないことをつくづく思い知ることとなる。

(つづく)


当時の私はとにかく正直だったしまっすぐだったので、いい意味でいろんな人とぶつかりがちでした。今でも、たくさんの人達と交流を重ねていますが、昔のようにぶつかり合うことはありません。噛みつかれたとしても「怖くない、怖くないよ」と諭すナウシカ状態です。私はもはやほぼ脳内ガンジーなのです。でも、もうぶつかったり噛みつかれたりなんてことはなくなりました。時々古典的で無礼なおじいさんに噛みついたりはしますけど。

さて、次回は私のポンコツガイドぶりがそこはかとなくわかるお話となっております。次回もよろしくお願い致します!

#頭の悪いおじいさんが #変なこと言ってきたら
#頭のてっぺんから #噛みついて放しません #楳図かずおの世界

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