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【note小説】キャッチコピーが書きたくて 第4話

― 第4話 ―

翌日、いつものように朝からデスクに向かって仕事をしていた。すると、デジャブのようにドタバタと荒木さんが駆け込んできた。
「天野!いるか!?」
これも昨日と同じだ。また誤植だろうか。しかし、実際はそれ以上に良くない話だったようだ。
「誤植なんてやらかすから、競合になっちまったじゃないか」
「競合?」
奥の方から海原さんが気の抜けた声で言った。
「そうです。次の除雪機の原稿が競合になってしまいました。今までこんなことなかったのに」
「あらら。まあ、もう少し詳しく話してよ」

荒木さんが言うには、今朝電話があったらしい。どうやら新機種を出すことになり、今回は競合で依頼先を決めたいので参加してほしいという内容だったようだ。広告媒体は新聞15段。新聞1ページまるまる使う原稿だ。近年、他社メーカーにシェアを取られはじめていることが原因だろうか。今まで15段なんて使ったことがない。しかし、これはチャンスだ。新聞5段で喜んでいたが、今度は15段広告をやれるかもしれない。
「それで近々、ヨネテック本社でオリエンテーションがあります」
「なるほどね」と海原さんが言うとボクの方を見た。だが、それを遮るように荒木さんが視線の間に入ってきた。
「今回は大事な案件です。それなりのスタッフィングをしたいと思っています」
それは二年目の新人に任せたりするなよという意味だ。
「はいはい。わかってますよ~」
そういうと荒木さんを避けて、改めてボクを見た。
「天野ちゃん、空いてるよね」
「は、はい」
「海原さん、今回は大事な案件なんですよ」
「それと、伊佐ちゃんも余力あるよね」と海原さんが続けた。

伊佐ちゃんと呼ばれたのは、澤田さんと同期のコピーライター、伊佐誠さんだ。部のエースと言われていて社内でも注目されている存在。そんな伊佐さんと一緒に仕事ができるのは、嬉しい。が、クールなタイプで部内でもモクモクと仕事をしていて、あまり話したことがない。澤田さんには緊張しないが、伊佐さんと話すのは緊張してしまう。上手くいくだろうか。

「はい、大丈夫です」伊佐さんが海原さんの問いに端的に答えた。それを聞いて海原さんがニヤニヤしながら、荒木さんの方を向く。
「荒木ちゃん、いいよね?」
「伊佐くんが立つなら安心です。さっそくオリエン日の調整させてください」
そういうと伊佐さんとボクの参加可能な日程を確認して部署を後にした。

「天野ちゃん、初競合だね。よろしくね」海原さんがまたニヤニヤして言った。

(つづく)

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