スカイダイビング、人生が変わる瞬間
十年以上前。
新年を迎えてしばらく経ち、その年の目標を決めたことがあり、色々決めた中に、スカイダイビングがありました。
そして、慌ただしく一年が終わろうとしている時、忘れていたスカイダイビングを思い出し、それ以外に何も成せていなかったこともあり、急遽、検索した勢いで年末にスカイダイビングの予約を取りました。
栃木の駅に夜行バスで降り立ち、餃子の看板の多さに栃木を実感。そのまま、スカイダイビングができる場所へ行きました。
その時、私は一人で、私より五歳くらい若いベリーショートのボーイッシュな女の子一人と、カップルと、男性グループがいた気がします。
私は女ソロの仲間意識もあり、なんとなくボーイッシュな女の子とお話しました。
ヘリがある場所にワゴンで行く時に隣の席だった気がします。
「なんでスカイダイビングやろうと思ったのか」という当然の話になり、私は人生で一度はやってみたかったし、今年の目標だったからと答えました。相手の女の子は「スカイダイビングしたら人生変わるかと思って」と言いました。その時、私がなんと反応したかはよく覚えていませんが、内心、空を飛んだぐらいじゃ人生は変わらないと思っていました。ただ、キラキラと話す彼女に思ったことは言いませんでした。
しばらくワゴンで走ると建物はなくなり、かなり田舎へ。あたりには何もない短い草が生えた平らな土地が見えて来てすぐ、ヘリが見えました。いよいよだー!とわくわくしながらワゴンを降りると極寒&強風。その日は風が強くスカイダイビングはできないと、ヘリが目と鼻の先にあるのに言われ、がっくりしました。
その後、運営の人達の小屋?みたいなところに行き、年末の寒空ですっかり冷えた身体を薪ストーブとインスタントコーヒーで暖め、運営の方から「もしかしたら明日なら飛べるかもしれない」と言われました。
私は日帰りの予定だったのですが、なんとかホテルを取ることができたので栃木に一泊。次の日にかけることにしました。
ガタガタ震えていた身体が震えるのすら忘れるほど冷え切ったあの日の夜、ビジネスホテルで浴びたシャワーは四十度でも沸騰してるぐらい、人生で一番熱かった。手と足が取れるかと思いました。
そして次の日は風もない晴天の大晦日。
私は無事、年内中に目標にしていたスカイダイビングをギリギリに達成することができました。
ヘリから空にダイブした直後、ものすごい強風で唇が捲れ上がり歯茎全開で空から落ちる時、恐怖はありましたが、楽しむことに振り切ると、ただただ愉快でした。先に落ちていった人達がパラシュートを開くのが見えると芸術的だし、インストラクター達の技術に惚れ惚れしました。
落ちていた時間は数秒でしたが、とんでもないスピードで落ちているのに周りに見える景色は何一つ変わらず、本当に落ちているのかわかりませんでした。
インストラクターの合図でグンっと後ろに引っ張られるとパラシュートが開き、後はのんびり空の旅。晴れた先に富士山が見えました。栃木からも富士山って見えるんですね。
降り立つ時は先に指導を受けていたように足は上にまっすぐあげます。後ろのインストラクターの着地を邪魔しないように。地面に降り立つとすぐにパラシュートと引き離され、ハーネスを外します。
足元がふらふらして、まっすぐ歩けませんでした。空を見ると抜けるような青空が広がっていて、名残惜しいような清々しい気持ちでした。
私はすっきりとした顔だったはずです。
椅子のある待機場所に向かうと、初日のワゴンでお話ししたボーイッシュな女の子がいました。彼女の顔は私とは真逆で、私は彼女に話しかけませんでした。
恐怖で青ざめた顔をしていただけかもしれませんが、私は彼女が、人生を変えられなかったから、沈んだ顔で放心していると感じました。
何か一つのことで、人生が変わることはありません。
空を飛んで人生が変わるなら全人類が飛んでるでしょう。
誰かや何かに、自分の人生を変えてもらおうと思っても意味はない。
後で振り返って、あの出来事に助けられたと思うことはあっても、実際はその経験を選んだのは自分で、自分の行動は全部が繋がっていて、いきなり雷にうたれて人格が変わることがない限り、結局は自分の小さな選択の繰り返しでしかない。
今、思い返しても、私はあの時、スカイダイビングしてよかったと思います。話のネタに何回も使ったし、十年以上前のことなのにこんなによく覚えているぐらい貴重な経験だったし、あの選択と経験をした自分なら大丈夫という自信にもなります。
あの時の女の子も、あの瞬間、人生は変わらなかったかもしれないけど、その後の糧に、人生の財産にはなっているはず。
何かを変えること、変わることは怖いけど、人生はめったに変わりません。だって、ずっと変わり続けているから。
空の上で見た雲は止まって見えて、ありきたりに見えたけど、雲が全く同じ形のことはない、つまり、全く同じ景色は二度と見られないと、インストラクターの方も言っていました。