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【料理人の視点から見る】美味しさの根本を考えながら料理をつくる基礎を守りながら抜け道を探す料理

料理人の料理への向き合い方を知れば、きっと家庭料理ももっと楽しくなる。学び手と伴走するコーチである料理人のインタビュー連載。第2回目は、コーチ歴2年のイタリアンシェフ安藤曜磁コーチです。


安藤曜磁(Yoji Ando) コーチ。鳥取県出身。 大阪の調理師学校で学び、京都のリストランテ「イルギオットーネ」に9年間勤務。その後、都内数店で料理長としてキャリアを積む。2018年より、「Ristorante QUINDI(クインディ)」の料理長を務める。 そのほかレストランのレシピ提供や通販サイトでのパスタソースのプロデュースもするなど、素材を生かしたお料理には定評がある。 食育に関心が高く、一般社団法人Japan Food Frontierの理事も務め、こどもに向けての食イベントや料理教室も積極的に行っている。

ー料理人になったきっかけはなんですか?

小学校2年生の時、料理に目覚めました。家庭科の調理実習で初めて兄と一緒に炒り卵を作った時、まず火を入れたら固まるという変化に驚いて。その後、一人でオムライスを作ることに挑戦しましたが、ケチャップライスが全然美味しくならず、母に「炒めるんだよ」教えてもらった時は、お米を炒めることに戸惑いました。しかし、2度目に作ってみると、何とも言えない美味しさに感動し、「料理ってすごい!」と感動しました。それ以降、卵の中にマヨネーズを入れたり、塩の量を変えてみたりと、自分なりのアレンジを試みながら、料理への探求心が一気に芽生えました。この経験が僕の料理人への道を切り拓いたきっかけで、それ以来、常に新しい味や技術を模索し続けています。

ーなぜイタリアンの料理人になることを決めたのですか?

和食が大好きなんですよ。ただ、高校生の頃、野球部で坊主になったので、和食のシェフになるのは諦めました。

当時、イタリアンがブームで雑誌にイタリアン特集がたくさん載っていて、パスタも好きだったので、イタリアンの道に進むことにしました。そして、専門学校時代に京都のイルギオットーネという素晴らしいイタリアンレストランを知り、シェフの笹島さんのもとで働きたいと思って飛び込みで面接を受けました。最初は20人以上の人たちが採用面接を受けたそうですが、全員が落ちてしまったと聞かされました。僕も最初にお店に話しに行ったときには、すでに採用は終わっていたそうです。でも、ここで働きたいという気持ちが強くて、「サービスにも興味があるんです」と思わず言ってしまったんですよね。笑
それで、在学中から毎週日曜日にサービスのバイトに行くことになりました。

卒業後もイルギオットーネに入社し、2年間はその店で働きました。休日は和食の菊乃井さんなど、京都の他の和食屋さんにも働きに行っていたんです。最終的にはイルギオットーネで5年間勤めた後、2号店のスーシェフになるために東京に出ました。トータルで9年間イルギオットーネで働いていました。

ーどのようにしてご自身の料理を磨いてきましたか?

以前は、料理に関する知識が定食屋のレベルしかありませんでした。素材を生かすという考えはなくて、みりん、醤油、ソース味で味付けをすればなんでもうまいだろうと思っていたんです。その後、店の賄いで料理を作る機会を得たことで、素材を主役にした料理を作るという意識を持って練習しました。最初はシェフに怒られることもあったけれど、自分で作った料理を評価してもらったり、「今日は塩辛かった」「今回は目標に対して火を入れすぎた」など、毎日自分で振り返ったりしながら、改善してきました。

ーまかない料理で成長していったんですね。

自分の作る賄いのテーマが「料理名のない料理」だったんです。
料理名があったら味を想像できてつまらないでしょう。例えば親子丼という料理名があると、美味しい親子丼はイメージできる。しかし僕は、その「美味しい」までのゴールまでを自分で最初から構築したかったんです。

親子丼という料理名があると、もうゴールが親子丼の味じゃないですか。そこで、例えば親子丼から卵と醤油を抜いて、鶏と玉ねぎを水だけで煮込んだ時に、どうやったら美味しくできるか、どういう味付けをしたら新しい料理になるかを考えました。他にも自分の中でフルーツと合うスパイスの仮説を持って、フルーツカレーを作ったことも。煮込むと美味しいフルーツと、後から福神漬みたいにフルーツを別で煮込むときに使うフルーツと、そういうフルーツでそれをご飯とスパイスと合わせるにはどうすればいいのかをずっと考えて、自分でゴールまでを構築していくことが楽しかったですね。

ー美味しさの仮説はどのように考えるのですか?

完全に感性です。そこには理論がないから面白いんです。鰹節を嗅いだときに、おばあちゃん家で昔嗅いだ炭火焼の記憶が蘇って、肉を炭火焼きしてその上に鰹をかけたら美味しいんじゃないかとか、居酒屋で出てくるいぶりがっことクリームチーズと合わせた料理から連想して燻製と乳製品が合うと仮説を立てて、焼いたお肉にクリームチーズのソースと鰹節をかけてみたりとか。自分の感性の中で思いついた仮説を試すという実験をずっとやり続けながら、周りからアドバイスをもらっていました。多分、この実験は小学2年生の時の炒り卵から始まっていたんだと思います。

ー味覚や感性はどうやって磨いていくのでしょうか?

美味しいものを食べるしかないです。小学生の頃はジャンクフード=美味しいだし、親子丼の素のだしパックをいれればなんでも美味しくなる、くらいの満足感でした。
でも、プロの料理人と飲食店で働き始めると、素材にフォーカスし始めて、そもそも美味しい素材は何かというのを考え始めるようになりました。美味しいものを知らないと「美味しい」はわからないので、お金をはたいて、本当に美味しいレストランに行くようになりました。

ー安藤さんの料理のエッセンスは?

トリッキーさかな。僕は、料理に絶対に必要なものはないと思っていて、そこにあるから使ってるぐらいなんです。料理の基本をギリギリ守りつつ、ルールを破ったり、抜け道を見つけたりする料理が好きです。ただの基本料理は僕にとっては面白くなくて。この工程では、材料が本当に必要かどうか疑問に思ったときに、別のものを取り入れたり、必要な部分だけを残したりします。執着心がないから、そうしたことをしてしまうのだと思います。

ー学び手さんにはどんなことを伝えたいですか?

料理はすべて正解だということを伝えたいかな。ただし、最初に基礎を学ぶことは必要です。例えば、ピカソも奇抜な作品を生み出しましたが、根本的には絵が上手かったですよね。自分の定義を作るために、基礎を学ぶことは大切ですが、基礎ばかりで面白くありません。ただ、基礎が大切だと言われて、「そうですね、基礎だけやります」と言う人は少ないですよね。だから自分でまずは好きなように遊びながらやってみて大失敗して初めて、基礎って大切なんだとわかる

基礎とは何かを知るために枠から外れて好きなことをやってみる。そして、成功も失敗も経験として受け止め、その経験をもとに、「これは良かったね、これはダメだったね」と自己評価を行うことが大切です。学び手の失敗に寄り添って学び手自身が「料理ってこういうのが大切だよね」と学びての中から思ってもらえるよう良い方向に導いてあげる。それが僕流のコーチングです。


安藤コーチのコーチングおすすめ料理例

🍽ポモドーロ
一番大切なのはトマトの甘さを引き出せているかです。トマトの酸味、甘み、トマトの濃い味わいをまるごと引き出したソースをモチモチのパスタにたくさん絡みついてくるパスタを目指しましょう。見た目はオレンジ色のツヤツヤで、香りはトマトの濃い香りにバジル風味が乗っかってくるのが最高です。甘さと酸味のコントロールをできるようになります。
▼安藤コーチによるポモドーロは何を楽しむ料理か?▼

🍽チキンソテー
★皮はパリパリ、味はジューシーはもう当たり前。身はジューシーを通り越して、マシュマロみたいになります!鳥もも肉がもつふわっふわの柔らかさを生かすために、身に負荷をかけないような火入れを学んでいきましょう。
▼安藤コーチによるチキンソテーは何を楽しむ料理か?▼

🍽ほうれん草のおひたし
★ついつい出汁の味付けに行きがちですが、ほうれん草を主役にすることが大事。ほうれん草の「香り」を感じ、ナッツみたいな濃い味わいのほうれん草。噛めば噛むほど甘味が出てきてほうれん草ってこんなに美味しかったの?と驚くくらいのほうれん草のおひたしを目指しましょう。その上で、「寄り添う出汁」「まとめる鰹節」も大事な要素です。
野菜を主役にする茹で加減を学び、何を茹でても美味しくなるスキルを身につけていきましょう。

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