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002 |インタビュー|ECやテイクアウトなどの選択肢を多くもとう

新型コロナウィルスの感染拡大を抑えるため東京都が都民に対して、週末の不要不急の外出の自粛などを求めたのが、3月25日のこと。「オーバーシュート」(感染者の爆発的拡大)や「ロックダウン」(都市封鎖)への不安に、日本は直面している。

飲食店への影響は、これまで以上に強くなっていくなか、営業にテイクアウトを導入したり、EC(electronic commerce、インターネット通販)を始めるなど、新しい収入のひとつとして始めている飲食店も多い。

#CookForJapanで飲食店を営むメンバーも 、それぞれの状況に応じてテイクアウトやECのサービスを始めている。今回インタビューに応じてくれた4人の料理人は、普段からテイクアウトやECサービスを積極的に展開していたわけではない。そのため、サービスを始めるにあたった管轄の保健所に許可をとり、衛生管理、安全性を担保しながら、新しい事業をスタートさせた。

インタビューでは、直接的な打撃を受けざるを得ないレストランが今後生き残っていくうえでのひとつの選択肢として、サービスを始めるにあたっての準備や課題点、その解決の方法などを聞いた。

現在、テイクアウトやECを検討している飲食店の参考になれば幸いだ。

ECやテイクアウトを始めた4人の料理人

まずは、#CookForJapanで飲食店を営む4人のメンバーの現状を整理しておこう(3/31現在)。

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小野田裕也(愛知県豊田市 / 車街酒場 WAO!)
ECサイト「クラシルストア」の「緊急企画! 食べて街のお店を応援しよう!」を利用し、「じっくり煮込んだスペアリブ」(3260円+送料800円、各税抜)を販売中。
https://store.kurashiru.com/products/91

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関口幸秀(東京都・神奈川県 / カステリーナグループ)
ECサイト「クラシルストア」の「緊急企画! 食べて街のお店を応援しよう!」を利用し、「フォアグラのフラン」(3519円+送料800円、各税抜)を販売中。
https://store.kurashiru.com/products/90
また、店頭受け取りのテイクアウト、Uber Eatsのサービスも実施中(カステリーナ茅場町、カステリーナ横浜、カリーナ・カリーナ、オステリア カステリーナ、カステリーナ神宮前)。

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表原 平(徳島県上勝町 / ペルトナーレ、写真左)
ECプラットホーム「BASE」を利用しネットショップを開設し、「ペルトナーレさん家のラザーニャ」(2365円、税込)、「ペルトナーレさん家のトルテリーニ」(1545円、税込)、「骨付き鶏もも肉のローマ風」(1525円、税込)などを販売中。
https://pertornare.base.shop/

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野田一寿(神奈川県横浜市 / Hitotsu)
店頭受け取りのテイクアウトサービス「Hitotsuお持ち帰りBOX」(3000円~、税別)を実施中。
http://www.restaurant-hitotsu.com/2020/03/3768

店舗では許可が下りず近くの精肉店で製造することに

小野田裕也さんが店長を務める「車街酒場 WAO!」では、以前からECサービスのプラットホーム「BASE」で、スペアリブの通信販売をしていた。小野田さんは、ECサービスを導入していた東京の製菓店に勤務していた当時から、営業時間外でも注文が取れて、事前に準備をしていどめるECサービスは、食材だけでなく時間をロスなく使える方法だと魅力を感じていた。

そのため小野田さんは、2018年に地元の豊田市で車街酒場 WAO!をオープンするにあたり、EC導入しスペアリブの販売を考えていた。しかし、豊田市を管轄する保健所に電話で確認したところ、ECサービスを行うなら、飲食店営業のほかに、そうざい製造業の許可が必要。しかし、1営業所に対して複数の営業許可を与えることはできないという回答だった。

「ECはどうしても必要だと思っていたので、電話のあと、厨房の図面を持参して保健所に向かいました。事前に、2015年の規制緩和(平成27年 規制改革実施計画)による他の地方での事例や、曜日によって営業を分けることで同時免許取得例を挙げさせてもらいながら、双方が納得して解決できる妥協点を探りました。さまざまな、話をさせていただくなかで、そうざい製造業の許可を受けている営業所であれば、販売していいという許可をもらいました」(小野田)

そのため小野田さんは、店舗近くで、そうざい製造業の許可をもつ精肉店を見つけて交渉。ECの注文が入れば、その分を精肉店内でスペアリブを製造していた。

新型コロナウィルスの感染の拡大の可能性がおびてくると、2月の後半にはすぐにスペアリブの製造強化の必要性を感じ、「BASE」を再稼働して、ECサービスを始めると、3月にはレシピ動画サイト「クラシル」のECサイト「クラシルストア」が企画し、掲載から1カ月は店側が負担する掲載料金・出品料・販売手数料が無料になる「食べて街のお店を応援しよう」に応募して審査を通過。現在は、「クラシルストア」でスペアリブを販売している。

スペアリブDO1070600

「今は1日十数個の受注ですが、おかげさまでご注文をいただいています。これから数が増えていったら、その分仕込む時間もかかるようになります。場所を使わせていいただている精肉店に、これ以上ご負担をかけれませんので、そうざい製造業の免許をWAO!で取得しようと保健所の方に再度相談をしました。すると、厨房に扉をつけることで、同時取得の許可をもらえることになり安心しています。いろいろな事例を調べて、『これならできませんでしょうか?』という案を出すことができたのが良かったのだと思います」(小野田)

自粛要請の3日後に動き一気にECへ

東京都内と神奈川県にイタリアンレストランを展開するカステリーナグループの統括料理長の関口幸秀さんは、新型コロナウィルスの感染拡大への兆候を感じると、すぐに店舗メニューのテイクアウトのサービスを2月29日から、カステリーナ神宮前でスタートさせた。

「店舗メニューのテイクアウトは、グループ内の横浜店でしたことがあったので飲食店営業の許可があれば始められることを知っていました。だけど、管轄によって異なることもあるので、まず管轄の保健所に連絡をしました。すると神宮前店でも店舗メニューのテイクアウトも飲食店営業の許可で問題ないということでしたのでテイクアウトも始められたんです」(関口)

カステリーナグループでは、フォアグラのフランとティラミスを5月からECサービスを使って通販する予定だった。そのため、神宮前店でそうざい製造業と菓子製造業の免許を申請しており、2月末にその許可も下りていた。

政府による自粛要請が2月26日に出されてすぐに始めたテイクアウトのサービスが、SNSを通じて反響がかなり多くあった。関口さんは、この先も新型コロナウィルスによる影響を見越し、収入の分散化を目指してECサービスについても、早く進めようと考えた。

「小野田さんの豊田市では、1店舗に複数の営業許可は認められた前例がないということでしたが、東京都内では、作業場所の確保が難しかったりするので、複数の許可を受けられることもあります。カステリーナ神宮前では、そうざい製造業の免許をタイミングよく得られていたので、すぐに通販を始めようと考えました。そのタイミングで、クラシルさんから声をかけていただき、すぐに決断しましたね」(関口)

フランDO1070600

フォアグラのフランの製造にあたり管轄する渋谷の保健所からは、現状以上にフォアグラを使用すると、そうざい製造業の免許ではなく、食肉製品製造業が必要になるなど、保健所の安全面の指導で改めて知ることも多かったという。

「SNSで多くのお客さまに知っていただいた反面、きちんとした許可がない中でサービスをしていたり、食中毒などの事故が起こしたりしたことがSNSで広まると、信頼の回復が難しくなります。自信をもってテイクアウトもECもおすすめできるような体制を整えるのは、現代のレストランに当たり前に求められることではないでしょうか」(関口)

ローカルレストランの苦悩を交渉力で突破

表原平さんが、徳島県上勝町山奥の一軒家で営むイタリアンレストラン「ペルトナーレ」は、県外からの利用者が多い。なかでも3月の年度末は、予算消費のため来県数も増え、県外からの利用者の割合が高くなっていた。しかし、新型コロナウィルスの感染者が関西で出始めると予約が目に見えて減ってきた。

「1年後を目安に移転を考えているため、それに合わせてそうざい、製造、製菓、営業の4つの免許を取るつもりでした。そのため、徳島の保健所の方と、昨年から新しい店でテイクアウトのサービスをするために、図面も見ていただいて何度かやり取りはしていたので、徳島県の場合、原則一施設一許可、各許可を日にちで割ることもできないと言われたていたので、そうざい製造業の許可がおりなければ、ECサービスはできないと思っていました」(表原)

同じ店舗の厨房で作るなら冷蔵庫は別にできるか、菓子で使う粉はそうざいに絶対入らないと言い切れるのか、などハードルも多かった。食品衛生法が改正され、2021年の6月に施行される営業許可制度の見直しによって、原則、一施設一許可となるよう、一つの許可業種で取り扱える食品の範囲を拡大されるが、原則現状では複数許可は無理といわれていた。

しかし、表原さんは、以前許可を得られなかったことを知りながらも、ECサービスを認めてもらえるように、保健所に向かったという。まずは「トルテリーニ」(詰め物を包んだパスタ)を販売したいと考えたからだ。

トルテリーニDO1070600

「やっぱり動かないとダメだと思ったんです。ダメ元なんだから、まずは交渉してみようと保健所に行ったんです。『お店の経営が厳しくなりそう。通販を始めたいから、ダメなことを教えてくれ』と(笑)」(表原)

新店舗の営業許可を得るために通っていたこともあり、顔見知りになっていた保健所の担当者に事情を説明した。

「保健所の担当者からは、『何を作りたいのか』ということを、詳しく聞かれました。どのように届けて、お客さんは届いた後どう調理するの? お客さんの調理工程があるとそうざい製造業の許可が必要になってしまうなど、色々問題点を指摘されました」(表原)

なかでも、もっとも議論になったのは、トルテリーニの生地に、めん類製造業が必要になるか、という点だったという。徳島県の保健所の指導では、飲食店営業の許可でそうざいの販売は可能(第三者に販売を委託する卸販売の場合は、そうざい製造業の許可が必要)だが、トルテリーニの生地がめん類であれば、めん類製造業の許可が必要になる、というのだ。

「パスタが、めん類か、ということは担当の方と1時間くらい話しをしました。『パスタ』といっても、スパゲティのようなロングパスタではなく、めんの中に具が入っていているラビオリのようなものですとか、グラムをはかると割合は半々であることなど説明すると、保健所の方も『麺類っていうとラビオリよりもロングパスタを想像しますね』と、理解してくれるようになり、お客さんに説明する商品名も『パスタ』ではなく『トルテリーニ』だときちんと伝えているようにするなどを確認して、販売の許可をもらうことができたんです」(表原)

その後、トルテリーニ以外にも、鶏とトマトの煮込みでイタリアの伝統料理「カチャトーラ」を販売する際にも、鶏もも肉とソースを別々にせず、そうざいとして扱えるように販売することで飲食店営業の許可の範囲内で販売できるような工夫をしている。

「今回の通販も、ネットショップに在庫を抱えてもらって販売するならそうざい製造業の許可が必要ですが、自分の店から発送する分には飲食営業許可でOKということで、安心してECを始めることができました」(表原)

電話で話しただけでは「トルテリーニはパスタですよね」って受け入れられなかったのではないかと、表原さんはいう。ECサービスを始めたいという熱意をしっかりと正確に伝えることで、保健所との間で問題点を解決して、販売にこぎつけた。「保健所に行って、画像見せたりして説明することは、有効だと思います」と、表原さんは今回の件を通じて実感した。

スタッフへの負担を考えて悩むECへの一歩

横浜市戸塚区でフレンチレストランのオーナーシェフの野田一寿さんは、現在、テイクアウトサービスを行っている。

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「新型コロナウィルスの影響でキャンセルが増えたことで、売り上げ確保のために始めようと思っていたのはありますが、それとともに自分たちの将来を考えると、一店舗しかない中で売り上げを上げるためには、新しいことに取り組んでいかないといけないと考えていたことも、始める大きなきっかけでした」(野田)

以前から、菓子製造業の営業許可を取得しているレンタルキッチンを使い、野田さんの妻の悠子さんが菓子を作って郵送販売もしていた。現在、悠子さんは、子育て中ということもあり、製造が不定期になっているが、「収益の多角化」は、以前から考えていたこと。テイクアウトのサービスについても、動揺に考えており、管轄の保健所に問い合わせをしたことがあった。

「そのときに、保健所の方から『テイクアウトもダメ』といわれたんですね。飲食店営業の許可があれば店の商品のテイクアウトは、問題ないはずなのですが、管轄の保健所の方からダメだといわれると、テイクアウトのサービスを始めるのに躊躇してしまいました」(野田)

このこと以外にも、新しい事業を始めるにあたって、店舗スタッフへの負担がかかることも不安にあった。

店が忙しい時間帯にテイクアウトのオーダーが入ったとしてスムーズに対応できるのか。野田さんの店は28席、キッチンは野田さんを含め2人から3人体制。女性スタッフが多く、時間通り帰りたいという意見もある。通常の営業だけでギリギリの人数ななか、新しいことをして利益が出なかった時のことを考えると、慎重に考えざるを得なかった。

それでも、#CookForJapanでテイクアウトやECのサービスを始めるメンバーからの情報を得て、テイクアウトだけでも始めようと考えた。

予約制で数を決めて販売すれば、自分が朝早く出てやればいい」。そう考えて、一度は許可を得られなかったテイクアウトについて保健所に確認をした。すると、今度は店頭の販売であれば可能という許可を得ることができた。しかし、一方で商品を発送することはできない、という答えだった。

「テイクアウトを始めるためでしたが、動いて、調べたことでデメリットになることは何もないって思います。テイクアウトは、はじめの一歩。今後、コロナのような事態や災害は起こりうる可能性があるし、僕ら個人事業主は年齢が上がるにつれて収入が増えるわけでもない。収入を増やしていくには店舗の28席以上に色々な新しいことに挑戦しないといけないと思います。僕は、テイクアウトを実際にやって手ごたえを感じました。ECサービスも販売個数を決めてしまえば、自分たちのペースでやることもできるのではと思うようになりました。保健所ともう少し話を詰めなくてはいけないですが、少しずつでも始めて徐々に慣らしていくのも良いのではないかと思っています」(野田)

交渉のカードを持つことが事業化への近道

テイクアウトやECのサービスを始めたり、続けていくうえで、野田さんのように、店の運用のなかにしっかりとその業務を組み込んでいけるか、という不安は多くの経営者にあることだろう。

関口さんも同様に、導入への不安があった。

「日々の業務に追われている中で新しいことをやるのは不安の方が大きかったです。しかし、グループ全体を見ていく立場になって、心境の変化が生まれたことで、まずやってから考えようと思うようになった。まずは動き出すことは大事だと思っています」(関口)

だからこそ交渉が大事です」と、関口さんは断言する。

実際、コロナ騒動以前にも、フォアグラのフランをECを使って販売したことがある。その際は、グループ内の茅場町店で製造販売をしていた。茅場町の管轄の保健所では、飲食店営業の許可のみで製造・販売が可能だったが、神宮前店では、そうざい製造業の免許が必要という判断をされた。

カステリーナ神宮前で、1店舗複数営業の許可を得られたのも、保健所との交渉がうまくまとまったからだ。そもそも、レストランは飲食営業の経営がメインであるという認識が一般的にも、また保健所の担当者のなかにもある。実際、関口さんが保健所に相談に行くと「なぜレストランなのに、ECをやろうとしているんですか」と不思議がられ、通販をやる意味を確認された。

従業員を多く抱え、会社も大きくなってきた。今後何があるかわからない。スタッフの幸福度を上げるためにも生産性の高いものをやらないと飲食業は生き残れないんです。生産性を上げるためには、いつもやっていることをより多くの人に届けることが大事。今の時代に合わせてレストランも変わっていかなければ生き残れません。大変だとは思うがやってみたいんです」と、関口さんは、未来のレストラン像を話し、理解を求めたという。

「食品衛生のプロである保健所の方に意見を聞いて、事業を成立できるように一緒に考えてもらう。表原さんがやられたように、一つひとつ、『できること』と『できないこと』を明確にさせて、そのうえで改善したり、事業の内容を微調整していったりする。そういうスタンスで、窓口に行くことが大事だと思います」(関口)

現状は、フォアグラのフランの製造は、レストラン営業のピークを外して、朝仕込むようにし、普段の営業の仕込みと並行してやらないことにしている。そもそも保健所の指導によるものだが、そうすることで、頭の中を整理して、製造に集中することができるという。

「何かほかのことで頭を埋めてしまうと大きな事故につながるので、それだけに集中する環境が必要です。今回は僕が言い出しっぺなので朝早く行って、フォアグラのフランを作っています。その代わり、夜の営業は誰かに任せて帰るなどしています。時間帯を分けるようなオペレーションを一度作ってしまえば、あとは当て込むだけですから、製造の仕組みづくりは、カステリーナのようにたくさんの従業員を抱える店舗では、考えるべきことだと思います」(関口)

料理を店舗外で食べて評価されることへの不安

そうした、製造側の仕組みづくりの問題のほかに、ECサービスを行う上で、4人の料理人が揃えて不安にあげていたのが「レストランの料理を店外で食べられる」という、未知の体験に対してだった。関口さんも、レストラン人としては、ECサービスを始めることは、当初は否定的だった。

「レストランは、今まで対面で売るのが常識でした。それに、レストランはスタッフ、お客さまと一緒につくる総合エンターテインメントだと思っているし、そこに喜びを感じていました。だから、レストラン人としては、通販はやる必要ないんじゃないかとずっと思っていたんです」(関口)

表原さんも、同じ意見を続ける。

「今までレストランをしてきて、解釈ひとつで料理の評価が決まるような仕事はしていなかった。そうざいの販売とはいえ、加熱のタイミングや保存の方法など、自分の手から離れてしまった料理を、お客さまに食べて評価していただくということに、ものすごく抵抗があったんです。さらに、商品の品質以外のことへの批判が、味が悪いなどの品質にまで及び、お店にも影響がでるのではないかという不安もありました。極端な話ですが、お店に食べに来たお客さまが文句を言って帰るのなら納得ができるのですが、来ても食べてもいないのに、見ただけで批判される可能性がある環境に身を置くのが初めての経験なので、実際、ECサービスをしていますが、まだそわそわしています」(表原)

そうした不安を払拭するためにも、衛生管理については徹底して、先に紹介したように、保健所の担当者と面談して、問題点を洗い出して、販売をする方法を表原さんは選んだ。

スペアリブを販売している小野田さんは、商品が届いたあとのことを考えて、加熱方法や小分けして保存する方法をまとめた説明書を同封している。また、自身が発信するnoteでも、丁寧にその方法をまとめて、できるだけ作り手が考える「おいしさ」が届くような努力をおしまない。

野田さんは、「テイクアウトをするなら自分の考え方を変えることが必要だ」という。同じメニューを提供するにしても、家庭で食べやすい量に調整したりすることや、包装や梱包を工夫して、利用者が自宅で広げたときに「やっぱりフレンチのレストランだな、嬉しいな」と思ってもらえるような商品を作りもしていく必要があると、考えている。

営業している地域や客層、店の規模がそれぞれ違う4店が進めるECサービスの導入方法、そこにいたるまでの準備を見てきた。新型コロナウィルスの感染拡大の抑え込みがこれからも続く中で、レストラン以外の収入を考えるオーナーや料理人もいるだろう。そうした人たちに対して、最後に4人が口をそろえたのは、ECを必ず始めなければいけないという前提で「自分のレストランで続けていくことを前提に事業を考えること」だという。

「新型コロナウィルスの感染が収まったことも考えて、通信販売は、あくまで選択肢の一つをもつということだと思います。今は、ECやテイクアウトをたくさんのお店がやられているので、需要が満たされてきているわけですから、それをやればこの状況を乗り越えられるというわけではないと思うんです」(表原)

と、表原さんは現状を冷静にとらえている。

たしかに、食事券の前売り販売や、有料のオンライン料理教室など、収益をたてる方法は他にもある。さまざまな可能性を導入し、探りながら、自分たちにできることを続けていくことが、アフターコロナの世界でも活きてくるはずだ。実際に、5月から自社でECを本格展開していこうとする関口さんは、すでにアフターコロナを見据えて動き出している。

「今回のテイクアウトからECの流れの始まりはTwitterのDMで受け付けたのですが、結果、お客さまお一人おひとりと密に連絡を取ることができました。お客さまの顔や人となりを見て商品を売る、ということができたので、実際にECが本格的に動いても、他の人とは違うアプローチができるのではないかと。実際にお客さまが喜んでくれるアイデアも出てきたのですごく良かったと思っています」(関口)

現状を打破しながら、アフターコロナの時代にむけて、より強くなったレストランを作り出す。困難な時期だからこそ、希望と信念をもって生き残る手段をいくつももっていくことが、今レストランが発信できる最大の存在意義なのではないだろうか。

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取材・文/江六前一郎(#CookForJapan)
編集協力/田窪 綾
撮影/山原聖子

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