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料理本トレンド観察 〜味付け比率を覚えれば料理が上手くなる本〜

YouTuber料理家による活発な動きは、昨年から少しずつ始まっていたのですが、その裏でもうひとつ、とても静かな動きがありました。

料理の味付けを比率で覚えれば迷いなく、しっかり味が決まる、というジャンルの本がとても好調なのです。

言うまでもなく今年はコロナ禍のおかげで外出は減り、毎日の食事作りは問答無用のルーティーンになりました。
日常的に料理していなかった人にとっては、毎日の献立を考えるのは苦痛以外の何ものでもありません。
「今日何作ろう…」
きっとそんなことを考えて困りきっているのでしょう。
スーパーで、スマホを見つめたままフリーズしている人をとてもよく見かけます。

そういう人にとっては、誰もが知っているあの料理の味付けが、「黄金比率」で作れるとうたった料理本は救世主になるのでしょう。
書店の棚でとても目立ちます。

例えば、料理レシピ本大賞2020の1次予選を通過したオレンジページ編集のムック『味付け黄金比率で基本の料理100』

入賞は逃したものの、昨年11月に発売されてからたった半年、5月には6刷になるほどよく売れていました。

「何も考えずに『味付け黄金比率』のとおりに作ってみてください。まずは、それから。」

と、巻頭でうたっていますが、もともと掲載レシピは編集部のキッチンですべて試作するオレンジページです、その配合は間違いないものだという絶対的な安心感があります。
生姜焼き用豚肉を前にして、味付けはどうだったっけ? という時にさっと引ける便利さよ。
和食、洋食、中華とエスニック、副菜と、レシピはバランスのよいラインナップなので、一冊持っていれば安心です。

また、コロナ自粛解禁直後に発売されたこの本。
『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』(日経BP)は、さらに比率は簡単で、大さじ1が基本。


サラダや和食、スープ、スパイス料理、ホワイトソースの作り方、1本だけで味が決まる調味料、揚げ物といった7つのジャンルについて読み物として解説されていて、「これができれば料理が得意になる」というお墨付きがもらえるもの。
その「手を抜いてもおいしくなる」のぎりぎりを攻めたという、著者の調理に対する考え方が読み物になってシンプルにまとまっています。
これが非常に受けている。
蛍光ピンクのカバーが独特で、「外食レベル」「ちょっとの丸暗記」といったキラーワードが女性誌のファッション特集ページのような編集だな、と。

さらにこの秋には、2018年に発売されて話題になった『誰でも1回で味が決まるロジカル調理』(主婦の友社)のシリーズ3冊目として、『お家で一流レストランの味になるロジカル洋食』が発売になりました。

こちらはタイトルに「ロジカル」と入っていることからもわかる通り、調理のロジックを前提に、味付けは比率と水分量で示し、ワンパン(ひとつのフライパン)で作るなど、出来る限り手間を省く工夫が紹介されています。
巻末には調味料類の塩分量の目安や重量換算表、調理科学をわかりやすく解説したページがあることから、食品成分表と家庭科の教科書を家庭料理向けに編集し直したような本に仕上がってます。
昔から家庭料理に受け継がれてきた、「塩梅」や「さじ加減」のような作り手の感覚に任せるのではなく、調理科学に基づいて作れば誰でもこうなる、と示しているのが潔いのです。
ロジックで説明されたほうがわかりやすい、という人がいるのは確かだし。

2017年に、有元葉子さんが『レシピを見ないで作れるようになりましょう。』(SBクリエイティブ)著して料理本業界に一石を投じましたが、現実的にレシピを見ないで作れるのはある程度料理をやってきた人だけでしょう。
該当する人を選んでしまうのは致し方がないこと。

でも、その時から進化は始まっていたのですね。

2020年は、料理をロジカルにとらえてより簡単に賢く手を抜き、おいしく食べることができるようになった年ということになりそうです。


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