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時短でも節約でもない、知的遊戯にする料理本『ミニマル料理』

久しぶりの投稿になりました。
投稿していない間にも、料理本の積読は溜まりに溜まり、本棚から軽く溢れ出しています。今も、現在進行中の本の原稿を整理しながら机の上にある料理本のいくつかをパラパラとめくりながら仕事しています。
そういう私に、
「料理本なんて一冊でいいじゃないか」
「最近は料理本から学ぶことがない」
「似たような本ばかり」
という感想を寄せてくださる人も少なくありません。その人の価値観ですので、とくに反論はありません。

ただ、時々ですが、私が30年勤めた出版社を辞めて、フリーランスで商業出版の世界に関わるにあたり「編集するなら料理本」と決めて仕事していることを知って、こう聞いてくる人がいます。

「料理本を買ったことがありません。一冊を選ぶとしたらどれですか?」

本好きな人ならわかりますよね。
その問いに答えるのが大層難しいということを。
本に何を求めるかによって、答えは大きく変わります。いくつもの選択肢があるということをまずリストアップして、そこから抽出いただくような問答が必要になるものです。

けれど、最近、必要十分条件をぶっとばしてでも「これ」と勧めるならばこの本だ、と思ったのが稲田俊輔さんの『ミニマル料理』でした。
とくにもし読書好きな人ならばこの一冊で十分ですよ、なぜならね…と力説し始める私がいます。
昨年Instagramに投稿して以来、ずっと読んでいただいているようなので、こちらに転載してみようと思い立ちました。

あ、レシピ本大賞2023のプロの選んだレシピ本受賞作だからすすめたわけじゃないです。
どうかな、すでにこの本をお持ちの方の感想を伺いたいです。



ミニマルでいい。稲田さんの言う通りにしたら間違いない

一見ね、本の作りが「あ、昭和っぽ」と思うんですよ。今の料理本には珍しい、いえプロの料理本にはありますがあまり使われなくなってきたコート紙だし、こそっとタイトルが置いてあるだけの地味な感じの表紙だし、文字多いし。
だいたい前書きからして「絶対に読んでほしい前書き」って書いてあるの。
おお、この文章量を読め、と。

で、素直に読みますとね、稲田俊介さんの探索の源が語られます。

曰く、「簡単においしい料理が手に入れる方法は〜いくらでもある」のに「急速に失われつつある」「普通の家庭料理の味」へのオマージュであり、凛とした、ある意味そっけないとすら感じられる50年前の家庭料理を現代に進化させる研究を重ねた、結果生まれたのは「普通の食材と定番調味料」を使ったミニマル料理だった、と。

「最小限の要素で最大のおいしさを手に入れる」

家庭料理なら当たり前であろうことを大真面目に取り組み、材料の計量をマメに行い、理想の仕上がり量になったら出来上がり、としているからブレがない。
さらに必ずおいしくできる再現性を求めて、使用するフッ素樹脂加工のフライパンの大きさまで指定しています。

この時点で「ムリ」と思う人のほうが多いでしょう。
でも、信じてください。

「やわらかくなるまで加熱する」みたいな曖昧な表現じゃないのです。味がピタリと決まるはず。
「基本のミニマル麻婆豆腐」ときたら、いわゆる中華の調味料は使ってないのに本格的な味だし、「基本のミニマルポテトサラダ」の材料はパーセンテージで示してあるし。
「基本のしっとりサラダチキンと鶏スープ」では鶏肉が加熱不足になる条件が提示されていて、「条件を満たさない調理環境の場合は…」まであるわけで、これをしっかり読んで体得していったら料理上手になると思いました。

ミニマル料理のレシピ本だから、誌面も、構成もミニマルです。
盛り付けられた料理にはカザリのパセリのひとつもないしスタイリングも白い皿に白い背景という具合。カラフルで、お役立ちポイントが囲み記事で載っていたりしないし、盛り上げ上手な見出しも矢印もありません。
だからといって、おいしくなさそうかというと逆。むしろ食べたい、コレ作りたい、コレ今できる。
そんな気持ちになります。

ミニマルでいいのです。
稲田俊介さんの言う通りにしたら間違いない。

あ、稲田さん、鹿児島の出身の人だからか、調味料は西のものを愛用されている様子。関東以北の人はそこだけ注意。

『ミニマル料理
最小限の材料で最大のおいしさを手に入れる現代のレシピ85』
稲田俊介著
柴田書店
2023年2月5日版発行
1,760円


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