見出し画像

有賀薫さん、樋口直哉さん、美窪たえさんの読む料理本

noteで人気の3人の料理家による「読む料理本」を立て続けに購入して読みました。
有賀薫さんの『こうして私は料理が得意になった』(大和書房)、樋口直哉さんの『ぼくのおいしいは3でつくる』(辰巳出版)、そして美窪たえさんの『おとな料理制作室へようこそ』(ワニブックス)。
なので本稿ではこの順で紹介していきますが、発売日では、美窪さん、有賀さん、樋口さんの順。樋口さん本は2月14日に発売になったばかりです。
いずれもまったく違うタイプの料理本ですが、それぞれに味わい深くて、おもしろくて、料理好き魂がぴくんと刺激される良書。
何が?と思ったら、このまま読み進めてくださいな(長文覚悟)。
きっと台所に立ちたくなるから。

普通が尊い。と雑誌クロワッサンで書きました
『こうして私は料理が得意になった』

有賀薫さんといえば、ここnoteで大人気のスープ作家。もともとライター出身ということもあり、文章力が人気の一端ではないかと思うほどにnoteでの記述は読み応えがあり、スープレシピにもいちいち納得、絶対においしいはず!と思わず頷いてしまうこと多々ですね。

実は本書については、ありがたいことに、雑誌『クロワッサン』2月10日号No. 1062で書評を書かせていただきました。
なので、クロワッサンで読んでいただくと嬉しいのです。しかも電子版ならKindleunlimitedに入ってますし!

が、こちらでもさくっと紹介させていただくと…。

私ね、有賀さんの「ふつう」に感動したんです。
当たり前の日常をふつうにたんたんと、を重ねてきた強さ。特別なことをがっつりやるのではなくて、毎朝のスープ、毎晩のお味噌汁作りを重ねてきた結果、料理するための力が自然に蓄えられていた。
よく上質生活を表す言葉として「ていねいな暮らし」という表現が使われますが、本書を読むと、ことさら「ていねい」を強調するまでもなく、当たり前がこんなに力になることに勇気を得る。
そんな文章がとてもとても染み入りました。

毎日仕事と家のこととでてんてこ舞いなのに、「ちゃんとしなきゃ」と自分をつい責めてしまう人にこそ読んでいただきたいです。

新しい献立の手引きにワクワク
『ぼくのおいしいは3でつくる』

本書が届いたその日。
夜も夜、ベッドに入って深夜0時過ぎから読み出したら止まらなくなってしまった書。ミステリーならともかく、料理本を朝まで一気読みしちゃったなんて、久しぶりのことです。
そのくらいワクワクとへぇーが止まらなかったのです。しかも、冷蔵庫にある食材を思い浮かべながら読んでいたので、なんならそのまま台所にこもってやってみる? いますぐ確かめたい! と思ったくらいに。

正直、本書のタイトルになった「3」についての樋口さんの料理理論はどうでもいいくらいに、樋口式あたらしい調理法や食材の組み合わせ、献立が「おいしい洪水」となって押し寄せてきます。

樋口さんも次のように書いていらっしゃいます。

ぼくが尊敬するヘストン・ブルメンタールというシェフが…(中略)…料理は革新(レボリューション)ではなく、進化(エボリューション)すべきなんだ」と書いていますが、つくづく言い得て妙だと思います。…(中略)…なにが変わっていくもので、なにを変えてはいけないのか――いつもそれを考えてながら、レシピを考えています。

『ぼくのおいしいは3で作る 新しい献立の手引き』より

その言葉通り、当たり前を疑い、今の調理環境で、新鮮で状態のいい食材を使う新しいレシピを30も提案していますが、私達が注意深く読むべきは、その前提となる考え方です。
親切に「ポイントは、…」と書かれていたり、赤線が引っ張ってあったりしますので、そこだけを拾い読みしても十分ですが、でもでも作家・樋口直哉さんの文章、ぜひ全部読んでいただきたい。
テンポがよくて、さくっと頭に入ります。

さらにですね、ぜひお伝えしたいのが本書の編集について。
レシピを載せたページが読みやすいんです。

いつの頃からか、レシピというと「材料表+作り方1〜始まる箇条書きを横組みで」が当たり前になりましたが、本書は「作業が書かれた小見出し+説明文が縦書き」になっています。
だから文章を読む勢いのままレシピも読み進められるんです。

地味な部分ですが、読書好きに嬉しい構成だと思うんですよね。とくにここnoteの読者は諸手を挙げて賛成するのではないでしょうか。
著者である樋口さん、編集者・神吉佳奈子さんのおふたりの配慮に感謝。

自分にとってのおいしいとは。
『おとな料理制作室へようこそ』

異色の経歴を持ち、YouTubeチャンネルを持つ料理家・フードプロデューサーとして活躍中の美窪たえさんの初著書は、256ページもの分厚さ。
タイトルにもなった「おとな料理制作室」の「おとな」は、

「自分にとってのおいしさを、自分でまず感じて、ときに刊hが下、選び取ることができる」という思いが込められています。

『おとな料理制作室へようこそ』より

と巻頭にあります。
著者自身が好きでよく作るレシピを意識してまとめているとのことなので、いわばお墨付き特集として、春夏秋冬で12〜13レシピ。

本書も、作り方は丸数字付きの箇条書きタイプではなく、縦書きでぐぐっと読み進められる読書好き向け。
そう、材料表を横書きにするか、縦書きにするかで迷うんですよね。
数字や単位が多いだけに、縦書きにすると読みにくい上に一気に間抜けな字面になってしまいます。だからね、編集者は「読む料理本」であっても材料表だけは横書きにしたくなるんです。

あとね、A5判という判型は1行の文字数が多くなってしまう(1行が長い)ため、それを避けるために、上部または下部を広く空けるレイアウトにすることがあります。本書でもそうして出来上がった上部に、調理プロセス写真を並べる他に、ちょっとした料理用語の解説や注意点が写真付きで添えられているんですね。これがお得な感じ。

レシピを見ると、ラタトゥイユなど西洋の料理もありますが、全体に「ごはんに合う」おかずが中心ですから、おとなの一人暮らしにぴったり。
しかも著者はYouTuber。動画で確認もできますので、これまであまり料理してこなかった人でも本書を片手に動画でチェック、すぐ台所へ、が可能。
嬉しいじゃないですか。

ちなみに私、恥ずかしながら、きくらげは水に漬けて長時間かけて戻すといいとは知らなかったです。
「躍動感が違います」とまで言われたら、次からは一晩水に漬けるようにします、約束します!

文章で読ませる「おいしさ」を堪能
それが大人の特権

以上、3冊を一気に紹介しました。

いずれも料理家自身が仕事ではなく、いつも考えていること、ふだんの食事として作って食べているものが紹介されていますので、料理家の台所を覗き見ているような感じがいいのです。

動画流行りの昨今です。
動画は文字情報に比べて圧倒的情報量を誇るだけに、なんとなくできちゃうような気にさせる、おいしそうに見えるものですが、こうしてプロの料理家たちが食材を前にして何を考え、どう調理すれば最高においしい家ごはんになるかを追求した書はやはり手元に置きたくなりますね。
美窪さんのようにYou Tubeまであるとさらに嬉しいのは事実ですが、文章で読ませる「おいしさ」を堪能できるのは、人生経験を積んできたおとなの特権です。
あれこれ想像力を働かせながら、今日もおいしさを求めて台所へ。
そのかたわらにこの3冊。
ご一緒にいかがでしょうか。





ありがとうございます。新しい本の購入に使わせていただきます。夢の本屋さんに向けてGO! GO!