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インタビュー: 「好き」を活かして健康づくりのお役に立ちたい ~おやつ好きの薬膳アドバイザー 甲木 環さん

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うれしいご依頼をいただきました。「これからもっと自分を活かしてイキイキ生きたい! お話しながら自分を再発見できれば」 わー、ぜひぜひお手伝いさせてください!
それはまだまだ残暑が厳しい日。撮影とインタビューのためお宅におじゃますると、「まず冷たいおやつをどうぞ」とぶどうの手作りアイスが! 甲木さんは薬膳の知識も豊富なのです。

聞き手: イノウエ エミ
撮影 : 橘 ちひろ
(2021年8月取材)

◆ 日々養生。身近な食材で始める薬膳

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―――薬膳との出会いはいつごろ?

五年ほど前ですね。衝撃的でした! 今まで点と点だった事柄がどんどんつながっていく感じ。

―――おお~! 

体調って、すべてが関連し合っているんですよ。たとえば私は、生理前にチョコレートを無性に食べたくなるんですが、カカオには血を巡らせたり増やしたりする作用があるんですって。体が求めていたんだな、と腑に落ちました。

―――薬膳って難しいんじゃないかな?というイメージがありますが‥‥。

そうでもないんですよ。薬膳の食養生は、身近な食材でも十分に取り入れることができます。先日もくしゃみや鼻水が出だしたときに、乾燥させておいた紫蘇で薬膳茶を作って飲んだら、すぐに体が温まって症状が治まりました。
学ぶにつれ、ほとんどの体の不調は予防できる気がしています。

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こんな美味しいおやつも! レシピをかんたんにご紹介しますね。

おやつ好きの薬膳アドバイザーがつくる
グルテンフリーで体によいおやつ「おからボール」

①生おから100g、バナナ1/2本またはカボチャ等、生地がしっとりすれば大丈夫です。はちみつ大さじ1、オイル大さじ1、好みでココアパウダー大さじ1をよくこね合わせる。
②好みの大きさに丸めてカシューナッツを上にのせる。今回は3センチ程度
③大きさにより6-8分ほど蒸す。
 ココア味には桑の実ジャム、プレーンやきな粉味には柚子ジャムやマーマレードなど柑橘系のジャムを添えるとおいしいですよ♪

夏の暑さや湿気でダメージを受けやすい胃腸を健やかにするおやつです。
ココア味にはクコの実をのせたり、粉チーズを混ぜて塩味に‥‥など、バリエーションは自由自在! おからはパウダーの場合、水分(豆乳でも水でも可)を加えてしっとりさせればOK♪

◆ 庭の草花と虫、算数と憲法

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―――小さいころはどんな子でしたか?

活発だったと思います。6歳の冬、年子で弟が生まれるまで一人っ子だったんですが、社宅の子どもたちとどろんこになって遊んでいましたね。

古い社宅で、前庭に代々の住人が植えた草木があって。いろんな虫もいて、ハンミョウの黒く輝く背中は夏の思い出として刻まれています。雑草みたいな草花が気になるのは、子ども時代に原点があるのかもしれません。

体を動かすのが大好きで、朝早く登校して缶蹴りに熱中したり、バドミントンや卓球、スケートなど、学校のクラブや市民センターでいろいろ経験しました。友だちの家でマンガを読んだり、辞書を読むのも好きでしたね。知らない言葉を知ること、漢字が書けることが楽しくて。

―――かなり充実した子ども時代ですね。

それが、高学年になって算数につまづいて、とても傷ついて‥‥「こんな点数、とったことない」って。
そんなとき、社会で憲法を習いました。辞書が好きな少女は、前文の崇高さに感動! そして思ったんです。「憲法には、“一人ひとりが大切にされる権利がある”と書いてある。でも私、点数で評価されて、大事にされてない!」

―――小学生が憲法の文章に感動するのもすごいし、内容を自分の生活とつなげて考えられるのもすごい。

当時は平和学習もさかんだったし、初めて挫折を知った時期だったからというのもあるでしょうね。


◆ 東京へ、また熊本へ‥‥身も心も忙しく

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―――中学校は東京に?

はい、父の転勤で、熊本の小学生が急に東京へ。最初は大変でした。まず、言葉のことでいつもドキドキ。たとえば、自分は普通に教科書を読んでいるつもりでも、イントネーションが違ってからかわれたりするんですよね。そちらに気を取られて授業どころじゃなくて‥‥。

中学生ってまだまだ幼いから「熊本って熊がいるんだろ」なんて言う子がいたり。ジェラシーだったのかなぁ、何だかいじめみたいなこともありました。「昨日まで仲良くしてたのに、何で?」みたいな。

―――遠くに引っ越すだけでも心細いのに、つらい経験をされたんですね。

何であんなふうにしなきゃいけなかったんだろう? と、大人になってその子の心持ちを考えました。いろいろなことについて「なんで?」と理由を考えるほうかもしれません。

―――いじめる子のほうにあるんですよね、みたされなさというか。

そんなこんなで自己肯定感が下がる中学時代だったんだけど、とても楽しい記憶もあります。それは文化祭! 映画を撮ったんですよ。脚本も自分たちで作って、遅くまで準備したり、思いをたくさん語り合って、友だちとぐっと仲良くなれるチャンスでした。

中3で熊本に戻ったんですが、高校でも相変わらず勉強はそこそこ。街をぶらぶらして、映画を見たり、美術館に行ったり、裏道のショップまで制覇して‥‥。

―――むしろ「リア充」ですね(笑) 

原田知世の「時をかける少女」の映画が流行ったころで、「袴をはきたい! 剣道部に入るしかない!」と思って入部したり。途中でやめちゃったけど(笑)。

―――あら、意外とミーハーなところも‥‥?(笑)


◆「心をひらいて、人の中に入っていくしかない」

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短大時代‥‥せっせと遊んでました。大学のバスケ部のマネージャーになって、仲間たちと時間さえあれば車で遠出して。温泉、シュノーケリング、スキー、キャンプ。

―――アウトドア派ですね! 人と一緒に行動したり、遊んだりするのが好きなタイプ?

そうですね。子どものころから引越しが多くて何度も転校した経験から、自分をオープンにして人の中に入っていくしかないと学んだのかな。今じゃ、「最初からなれなれしくてごめんなさい」って感じです(笑)。

―――その後、就職して営業事務を11年。夫さんともその頃に?

はい。彼がうちの会社に営業で来ていたのがきっかけですね(照)。

結婚出産後、ちょっとだけパイオニアの気持ちもあったんです。地方の拠点事務所で産休、育休を取得したのは私が初めてだったんですよ。
でもね、あのころは、” 2000年問題 ” というのがあって‥‥

―――ありましたね。懐かしい。

それがひと段落したころに復職したら、職場の環境ががらっと変わっていてびっくり。端末だけで仕事をしていたのがパソコンが導入され、派遣雇用の時代になっていました。上司とは隣の席なのに会話もなく、些細な指示までパソコンのメッセージを通じて出されるように‥‥。居づらさを感じましたね。夫の転勤もあったし、これは辞めどきだな、と思いました。

◆「子育てはみんなにしてもらいました」

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子育てはね、一人っ子の息子が、根っこの部分で人を信頼している子に育ったから、大成功だと思っています。

去年の春に就職して、息子の友人が必死に集めてくれたマスクを餞別に東京に送り出したんだけど、大学生になり寮生活を始めるときも、すごく大きな炊飯ジャーを買ったり。「人と一緒に食べる」という前提なのね。

―――いいですね。そんな子に育ったのはなぜだと思われますか?

それはね、いろんな大人からいっぱいいっぱい愛と優しさを注いでもらったからかなと思います。小さいころから「子ども劇場」に入っていたんですね。

―――子ども劇場って、親子で演劇や舞台を見るんですよね?

はい。お餅つきとか、キャンプ、参加型の劇など、楽しい行事や自分たちで企画した会もたくさん経験します。しかも、とても幅広い年齢の人たちが参加しているんです。「青年」といわれる高校生や大学生、社会人の人もいます。青年は子どもたちの憧れなんです。
それで、集まりの場に行くと、息子がいつのまにか青年のあぐらの上に座ったりしているの。おサルさんのように彼の体にのぼったり(笑)。お父さん以外の大人にもじゃれついて遊んでもらって‥‥。

そういう中で育ったのが、あの子にとってすごく大きかったと思います。
私の子育てが成功したわけじゃないですね(笑)。みんなに子育てしてもらったの。

◆ 親も子も育ち合う「子ども劇場」

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―――子ども劇場は、単に舞台鑑賞をするだけではなくて、子育てを共に見守り、分かち合う場なんですね。

そう。しかもそれだけじゃなくて、私自身も少しずつ、結果的に大きく変わりました。舞台を見たあと、みんなで感想を言い合うのが恒例なんだけど、最初の頃は「息子がとても楽しんでました」とか「食い入って見ていました」とか言ってたんですね。

そしたら「甲木さんはどうだった?」と聞かれて、「え?」と思わず固まっちゃって。考えたあげくに、「‥‥よかったです」なんてことしか言えなかった。自分が何を感じたのか、わからなかったの。学生時代から「〇(マル)」をもらえる答えを出す訓練ばかりで、それがしみついていたんですね。

―――教育ってすごいですよね‥‥。

怖いよね(笑)。あの語り合いの場で、感じ方は自由だし、正解を言うだけが会話じゃないんだと知りました。
みんなが自分で感じたことを自分の言葉で話して、ほかの人はそれを聞く‥‥大げさに言えば、あれは民主主義の練習だったと思います。
「こう感じた」と自分の言葉で言えるようになるまで、十年くらいかかったかもしれません。

――― 十年!

もちろん、楽しみながらの十年ですよ(笑)。心地よい場で、受け止められている、この人たちとつながっているという安心感があるから、ちょっとずつ自分をオープンにできるようになっていくんですよね。素直なところが出てくるというか、開花していくというか。

手作り上手な人が何か作って持ってきたり、はたから見ると主婦のお茶会みたいに見えるかもしれないけど‥‥。

―――同じものをつまんだり、あたたかいものを飲みながら、心をほどいていくんですよね。

そういう場が大事なんですよね。実は今、みんなそういうことに飢えてるんじゃないかな。

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◆ 夫と子育ての同志になりたくて

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―――子ども劇場での活動には、夫さんも加わったそうですね。

そうそう、参加型のお芝居で、「ブラックシャドー」という男たちの役の一人になって。テレビ番組の「逃走中」に出ているハンターみたいな感じで黒づくめの恰好で、子どもたちにとって大事な「三つの間」を奪おうとするんですね。

―――「三つの間」を奪う‥‥?

時間、空間、仲間の三つ。「豊かな子ども時代を過ごさせないぞ」って。
子どもって、父親の遊ぶ姿を見る機会はなかなかないでしょ。だから、息子はすごくうれしかったみたい。大人も遊んで遊び心を鍛えました。

でもね、子育て中は、夫とぶつかることも多かったです。夫は毎日終電で帰ってきて、週末は疲れてテレビをつけてボーっとしてる。私は今でいう “家事・育児のワンオペ ” でへとへとだから、夫に対してトゲトゲした気持ちになっちゃって。

―――ケンカしたり?

もちろん! 夫が「それを言っちゃおしまいよ」みたいな一言を口にして、私がプチ家出したりね(笑)。

―――子育て中のあるあるですよね~!

私の中に「稼いでいないんだから主体者じゃない」という引け目が知らず根強くあったんだと思います。稼いでいなくても家庭を構成して運営している一員なんだ、と気づくのにすごく時間がかかりました。

―――ああ、そこ。どうしてもぶつかる壁ですよね。

私もうまくしゃべれなくて、たくさん夫を責めて、ただただケンカするしかなくて。子育ての同志になりたかったんですよね、夫と。だから、避けられない過程だったんでしょうね。あきらめそうにもなったけど、あのころ向き合うことをあきらめなくてよかったと思ってます。

―――これからやっていきたいことはありますか?

薬膳の知識も生かしつつ、食に関する仕事をしたいです。今日のおやつも、ああいう準備をするのは苦にならないどころか、すごく楽しくて。
そしてね、おもしろいことに、夫があと6年ほどで会社を卒業する年齢になったら、自分も食に関する仕事を始めたい、と言い出して。

―――ええっ!

子どもの頃の夢がコックさんだったんですって。今ならシェフっていうのかな(笑)。
決めたことを継続する力がある人なんです。単身赴任をしていたころから少しずつ料理を始めて、もう魚もさばけるし、私が何もしなくても立派な食卓ができます。
まだまだ夢は漠然としてるんだけど、「何か一緒にやれるかもね」って。少し心強いし、楽しみになってきました。


◆ 中医薬膳と子ども劇場‥‥すべてがつながり腑に落ちました

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子ども劇場への深いコミットのほか、産後に保育士の資格を取得(!)、実際に勤務したことも。ほかにも産前産後サービスなど、いろいろな仕事や活動をしてきた甲木さん。インタビュー後、今も学びを続けている中医薬膳について、文章を寄せてくださいました。

中医薬膳を学び始めて5年目です。

きっかけは産前産後サポーターの仲間から「産後ママに特化した食事を薬膳の先生に聞いてみようと思うけどどう?」とさそわれて。講座1回目からピン!ときましたね。「薬食同源」という考え方は、子どものアレルギー克服のため毎日の食を大切にしてきた私にとっては自然なものでした。

一生続ける食事を体質に合わせて食材をいかした、おいしい健康料理にするのが薬膳料理。食べるのが大好きな私にぴったり。ちょっとひ弱な私、もっと元気になるならこんなにいいことない♪ と、佐賀から福岡へ、鹿児島から福岡へと4年講座に通い続けました。

国際中医薬膳管理師に合格、そして講師活動を経て今はもっと体のことを知りたくて「中医学」と「子ども薬膳」を学んでいます。

中医学は、数千年という長い歴史に裏付けられた中医薬学の理論と臨床経験に基づく中国の伝統医学(いわゆる中国漢方)です。中医学には、病気というほどではないけれど健康とは思えないという「未病」という考え方があります。未病のうちに体のバランスを整えたり、自然治癒力を高めるために、薬膳は効果的に働きかけるというわけです。

学び始めは、どこまでもどこまでも、宇宙にまでも広がり続ける陰陽五行や整体観など中国哲学の世界が難しく感じましたが、やはり東洋思想なので自分の感覚として少しずつつかんでいきました。

そして、子ども薬膳について。
「生命の誕生から人間への歩み」 この人間へのというところがミソなのですが、薬膳でできるのは体の完成だけです。自分で丈夫な体をつくりだす体を育て、次に心を育てる。どれだけ夢をもって心豊かに育てられるか‥‥。

子どもはエネルギーの塊ですよね。もともと自分で育っていく力を持っています。同時に、子どもは常に受け身の存在であり、大人の目線、一挙手一投足すべて感じていることも肝に銘じなければなりません。愛ある環境がどれだけ子どもの心身を育てるかということも改めて学びなおしました。

子ども劇場で活動して自分の中に落としてきた子育てと薬膳で育てるものが重なったとき、本当に震えて、確信を得たと思いました。
これまでの経験をこれからの仕事に活かして、多くの方の健康作りのお役にたちたいと考えています。

(おわり)

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◆ 編集後記

そのときどきの環境や時代背景の中で、時に格闘しながら、せいいっぱいに生きてきた何十年。特に女性は結婚や出産で人生のフェーズが大きく変わることもあるけれど、あるときふとすべてがつながっていることに気づく‥‥。

インタビューを始めたころの気持ちを思い出すような、胸がいっぱいになる取材でした。体に優しい美味しいおやつや、西公園から見る景色も。心づくしの準備をしていただき、おやつとお庭のシソの葉のおみやげまで。甲木さんの「好き」がたくさん伝わってくる半日でした。ありがとうございました! 
(イノウエ エミ)


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