インタビュー: 彩りの世界を広げて ~ 色彩設計士 久保田みき さん
◆ 「豆本」 10,000部突破しました!
―――かわいい! 手のひらサイズなんですね。手に取りやすいし、バッグの中にも入れやすい大きさ。そして、さすが、表紙の色がきれい!
ありがとうございます。書店にも置いていただいているんですよ。積み重なっていると、色のブロックのように見えてとても目立つんです。
―――昨年来、大変な飲食店の方々を応援しようという取り組みでもあるとか。
地域ぐるみの企画で、クラウドファンディングで制作費を補い、地元の高校生や大学生が取材・編集にも挑戦。アマチュア写真家のみなさんにも協力いただきました。実は、おかげさまで累計10,000部を突破してます!
―――わ~、すごい!! この豆本シリーズで、久保田さんはカラーだけでなくデザイン全般を担当されたそうですね。
はい、編集長にお声がけをいただいて。
最初は何もかもが初めてで、関係者のみなさまにお世話をかけながら、そりゃもう大騒ぎして入稿しました(笑)。
でも、だいぶ上手になりましたよ~。半年スパンで4冊やらせていただいたので。
―――4冊! 自分が作った本が書店に並んだり、多くの人の手にとってもらえるなんて感激ですね。
本当に感謝しています。今は5冊目、大学生編集長が山口県産の日本酒を取り上げる「酒豆本」の制作がスタートしています。引き続き、みなさまの応援をお願いいたします!
◆ 基礎からみっちり身につけました
―――もともと一般企業にお勤めだったとのこと。色のお仕事は、何がきっかけで?
女子アナウンサー志望の方が、面接用に似合う色(パーソナルカラー)診断を受けているのをテレビのニュースで見て、おもしろそうだなと思って。あ、20年以上前の話です(笑)。
―――それで、講座を受けて資格をとった、と。
はい。その講座では ” 似合う色 " についての講義は2コマしかなかったので、先生の事務所に丁稚奉公しながらカラーの資格をとりました。
―――以前のお勤め先を退職して?
というか、寿退社したあと、3ヶ月で専業主婦をギブアップしまして(笑)。
―――なるほど(笑)。なかなかの速さ(笑)。
一時期、大好きだったのはカラーセラピーです。ずらりと並べた色から選んでもらって、「その色はこういう意味ですよ」と解説すると、みなさんが喜んでいろいろな話をしてくださるんですね。それがとてもうれしくておもしろくて、色の世界に惹かれていきました。
―――ということは、すぐに色のお仕事に?
いえいえ、丁稚なので(笑)。引き続き、みっちり勉強もさせていただきました。たとえば色彩学。「色って光がないと見えないんだよ」とか「曇っていても太陽光はサイコー!」みたいな。
色の仕事をしていても、色彩学までやっている人は意外と少なかったりするんです。私は理屈好きなので、とてもおもしろかったんですが。
―――難しい話なのでしょうが、久保田さんから聞くと、おもしろく感じます(笑)。
そうですか?(笑) ありがとうございます。あのころの土台があるから、今いろいろな分野の仕事ができていると思いますね。
◆ 試行錯誤を続けた30代
―――独立はどのように?
先生の事務所での見習いから始まって、事務所スタッフ、講師と少しずつ仕事を任されるようになり、2人目出産を機に外注スタイルに。ここが独立のタイミングでした。36歳のころですね。
―――最初から順調でしたか?
いえ、30代は紆余曲折でした。パーソナルカラー診断をすると、その方にマッチするメイクをしてあげたくなってメイクを習い、メイクをするようになるとお肌のお手入れもしてあげたくなって、今度はお手入れの仕方を習って‥‥。
個性心理学を学んだ時期もありました。いわゆる動物占いですね。
―――それはまた、毛色が違うジャンルですね。
動物占いを知ってすごく納得いったんですよ、夫とわかり合えないことが(笑)。
―――(笑)
それまでは何とかしようとムキになっていたんですけど(笑)、「まったく違うタイプだから仕方ないんだ」とストンと腑に落ちて。
そのころから、夫に限らず、「相手を理解できなくても尊重しよう」と思えるようになった気がします。それで、他の人のことも知りたいなと思って、一生懸命勉強して人のタイプもみてさしあげたり‥‥。
―――本当にいろいろしてこられたんですね。
「色のお仕事をお願いします」という直球のご依頼はなかなかないんですよね。特に、駆け出しのころは色だけでは厳しかったので、試行錯誤していました。
◆ 人との出会いが経験につながる
2012年、デザイナーさんと一緒に、デザインとカラーを組み合わせたロゴマーク制作のプロジェクトを始めました。(※すでに終了しています)
―――久保田さんが色を決めて、デザイナーさんがデザインを?
はい。当初は創業を予定している女性へのサービスでしたが、だんだん既に仕事をしている個人事業主さんや会社さんなど幅広くご依頼をいただくようになりました。
お仕事の内容や理念など、お話をうかがって色を決めていくことがビジネスになるんだと実感して、ワクワクした時期ですね。
やがて、他業種の担当者さんと一緒に事業全体を考えながら進めるお仕事も徐々に増えていきました。
―――建物の外壁や内装、法人のホームページ、イベントの広告など、いろいろな色彩デザインをされていますね。多様なお仕事の実績に驚きます。その秘訣を少し教えてほしいです!
どこに需要があるか自分でもわからないので、あちこちに顔を出すようにはしていましたね。たとえば、県が女性の人材育成を目的に行っていた講座や、筑後地域を応援するプロジェクトなど‥‥。
思いがけない仕事につながることがけっこうあるんですよ。
建物の外壁についても「色がわかるなら、(法人所有の)壁のアドバイスをしてほしい」と声をかけていただいたのが最初の経験でした。
いろいろな人と出会うことで「この人のお役に立てるんだ」という発見があり、うれしいですね。
―――初めての分野や規模の大きなお仕事のとき、緊張や不安はありませんでしたか?
もちろんありました。でも、経験してみなければ実績は作れませんから、そこはチャレンジ! 先方にしたら、おどおどしている人が来たら困るでしょうから、一生懸命調べて準備して、キリッとして行きます(笑)。
―――そうですよね! でないと、クライアントさんにも失礼ですもんね。
もしかしたら、もしかしたらですよ、ご期待に添えないこともあったかもしれません。でも! 経験は経験(笑)。そのあたりは割とポジティブにやってきました。
建物、不動産、食品、イベント‥‥色の仕事には本当にたくさんのジャンルがあるので、経験するごとにその業界について詳しくなれたのは財産だと思います。
―――すごい! 見習います!
ちなみに、調子に乗ると、いかにも「調子乗ってるな~」みたいなミスをするタイプなので、そこは本当に気を付けています。私には緊張感が必要(笑)。
◆ 子どもが教えてくれた「赤」
―――色彩に関する講師のお仕事もされていますね。
はい。今は週にひとコマ、専門学校で「POP カラー」の授業を受け持っています。
講座や講演にもたくさん呼んでいただいてきました。
現在は、「福岡県よろず支援拠点」といって、国の予算で運営されている中小企業の相談窓口でコンサルタントもしています。
―――講師もデザインも、となると、お一人ではとても大変なのでは?
大変なときもありますが、私にとってはどちらも大事な柱なんですよね。
授業や講座でも、ただテキスト通りの話だけではなく、ビジネスの現場でのリアルな情報を「色はこんなふうに活かせるんだよ」とお伝えしたくて。
―――学生さんや大人の方だけでなく、子どもたちへの講座もしているとか?
そうなんです! 実は、昔は小学校の先生になりたいと思っていたくらい。やっぱり子どもはかわいいし、驚かされることも多いです!
以前、「自然の中に色を探しに行く “いちじく畑でピクニック ” 」という親子イベントを催したときのこと‥‥。
「 ” 赤い ” といっても、明るい赤や くすんだ赤、薄い赤などいろいろあるよね。いちじくの赤はどの赤? 草や葉っぱの緑は?」
と、色のトーン表と見比べながらイベントをすすめていると、途中で鼻血が出ちゃった子がいて。
―――あー、子どもはよく鼻血を出しますよね。
そうしたら、「鼻血は、出たときはビビッドの2番(鮮やかな赤)だけど、固まるとダークの2番(暗い赤)になるね」ですって。
―――鼻血の赤まで分析!(笑)
ね、すごくおもしろいでしょ?(笑) そんな発見があるから、子ども向けの講座では、できるだけ自由度を高く作るようにしています。
―――そのほうがクリエイティブになるんですね。
それに、子どもたちの素朴なリアクションや質問に触れていると、対応力が鍛えられるんです。話の聞き方や説明の仕方など、仕事にも応用できる部分がたくさん。
―――何でも役に立てているんですね~。
転んでもただでは起きない(笑)。いろんなことにトライしてきて、中にはもう卒業してしまった仕事もありますが、これまでの経験はすべて活かしているといえますね。
◆ 無理はせず、あきらめは早く(笑)
―――いつもエネルギッシュな印象の久保田さんですが、疲れることはないんですか?
私、あまり無理しないんですよ(笑)。
たとえばPTAの仕事。どうせやるなら裁量をもったほうがいいと思って広報委員長に立候補しました。「その代わり、平日の集まりには出られないことがありますがいいですか?」と。出られないというか「出たくない」も含んでいるんですが‥‥(笑)。
―――(笑)。なるほど、最初から全部やろうとしないんですね!
そう。そうしたら「私、集まりには出られるので副委員長やります」という人がいました。それぞれ得意不得意があるので、できる人ができることをやればいいんですよね。
取材も、たとえば「公民館の講演会に撮影に行ける人いますか? スマホで大丈夫です。150文字で記事もお願いします」とLINEグループに振るだけ。
―――それで誰か手を挙げてくれますか?
誰もいなければ「じゃ私が行きます」。あきらめが早いんですよ(笑)。
でも、それが2回くらい続くと、さすがに誰かが「私が行きます」と言ってくれます。
「〇〇さん、今度は行ってもらっていいですか?」とか「△△さんは一度も行っていませんよね?」みたいなことは言いません。
―――敢えて平等は求めないんですね。
言うほうも言われるほうもイヤでしょ。だから気づかないふり(笑)。
―――気づかないふり、いい!
本当に誰もいなくて自分も行けないときは、「じゃあ学校に頼みます」とか「PTA役員さんに頼みます」でいいし。けっこう割り切るタイプです(笑)。
でもね、私の場合はありがたいことに協力してくれる人が多くて、最後は「打ち上げしよう」という声まで出て。私の仕事でお世話になっているお店で行いました。
―――委員長のもとで、みなさん気持ちよく仕事ができたからですよね。それにしても、店選びまでしっかりしてる!(笑)
◆ 娘たちは頼もしいアシスタント
―――おうちでは、ふたりの娘さんのお母さんですね。
はい。でも正直なところ、お母さん業はあまり向いていないですね。申し訳ない気持ちもありますが、家事も私だけがやる必要はないし‥‥。
―――そのとおり! 大事なことですよね。
夫もごはんを作るし、子どもたちのお小遣いも家事と連動させてきました。
家事だけじゃなく、私の仕事もばりばり手伝ってもらっています!
―――わあ! たとえばどんなことを?
たとえば色のサンプルづくりや、夏休みの子ども教室でのアシスタントなど。
現場に連れて行くこと、母親が働く背中を見せることはいつも意識してきましたね。
長女はもう高校生で、領収証の仕分けと入力までやってくれます。
―――すごい! もはや仕事ですね(笑)。
有難いですね。その仕事については、しっかり報酬を渡しました(笑)。
◆ 「色遣いが得意なデザイナー」として
―――お仕事において、久保田さんの強みは何でしょうか?
色については、「なぜこの色なのか」をすべて説明できることですね。事業や商品のコンセプト等、ていねいなヒヤリングをもとに、目的をはたせる正しい色を選んでご提案できるのが私の強みです。
―――久保田さんご自身の強みはどうでしょう。いろいろな人と仕事ができるのは、お人柄による部分も大きいのでは?
うーん、どうでしょう。間口が広いところ?(笑) 人の良いところやおもしろいところを見つけるのは得意かもしれません。あまり先入観ももたないし。
―――本当に、初対面のときからとても気さくに話してくれますよね。
短大のころは合コンにも力を入れていましたからね(笑)。知らない人と話すのが好きで、合コンで初めて顔を合わせた女の子と仲良くなることもありました。
―――今後、力を入れていきたいお仕事はありますか?
デザインです。
これまで、デザインをすることはあっても「デザイナーです」とはなかなか名乗れなかったんですよ。でも、このところずっと、集中して勉強を続けています! 今はとてもクオリティが高い講座もオンラインで受けられますしね。
何より、デザインを担当した本が4冊発行されて、次が5冊目。そろそろいいかな?と。
―――実質、デザイナーですよね!
「色遣いが得意なデザイナー」としてお役に立ちたいですね。
―――ますますお仕事の幅が広がりますね。すごいなあ~!
私の場合、すごい信念とかビジョンがあったわけではなく、やめなかったことが結果的に今につながった感じです(笑)。
自分で選んだ道ですから。自営業やフリーランスのみなさん、お互いがんばりましょう! 楽しくいきましょう!
(おわり)
編集後記
仕事を自分でつくりだすこと、それを続けることの難しさは、私も日々感じているところ。お話をうかがって本当に勉強になりました。
まず、久保田さんがとても明るくて、お話しするだけで元気が出てくる!
それから「やってみる」「行ってみる」「おもしろがる」というたくさんのトライ。そして、いつも “ よりよく ” をめざして学び続けていること‥‥。物事のさばき方、割り切り方なども見習います!
みなさん、色やデザインのこと、ぜひ相談されてくださいね。それ以上の学びもあるはず♡
(イノウエ エミ)
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