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インタビュー: 自分の人生の主役として生きる ~ 覚田由美さん

この数年、由美さんが経験したことを思うと胸が締めつけられます。移住先のハワイで、パートナーが脳出血に倒れたのです。しかも、コロナによるロックダウンが始まったばかりのころでした。家族のサポーター兼司令塔としてのご苦労は、並大抵のものではなかったはず。それなのに‥‥。
「以前より元気。人生に色がついてきた気がします」。由美さんの表情が明るいわけを、じっくりうかがいました。

聞き手: イノウエ エミ
撮影 : 橘 ちひろ
(2022年11月取材)

◆ ハワイ生活が軌道に乗り始めた矢先‥‥

―――家族でハワイに移住されたのは、2019年でしたよね。

はい、2019年の3月です。
私は闘病していた父を見送ったところでした。夫は経営した会社を頼りになる社員さんに任せて、グローバルビジネスの展開をすべく、家族で移住してハワイで新たなスタートを切りました。

―――それから一年、パートナーのご病気は、「まさか」という出来事だったかと思います。

本当に。息子は現地校にも慣れ楽しく通学、夫は新しいクライアントさんにも恵まれ、1年で生活基盤ができたので、車も買って引越もして「さぁこれからだ!」という矢先の出来事でした。

救急車を呼んで運ばれた大きな病院はコロナ禍の初期で緊迫していて、声の小さな外国人は気にもとめてもらえません。やっと先生と話すことができたのは倒れて3日目。それもオンラインです。通訳をしてくれた知人が言うには、「人工呼吸器が外せないかも」と言われて、私の顔が真っ青になったそうです。

―――ああ‥‥。

医療の仕組みも病院の仕組みもわからない、しかもロックダウンになって間もないハワイ。これまでは何でも夫に相談していたのに、何もかも自分で考えて判断しないといけない‥‥。ものすごいプレッシャーでした。

―――日本で経験したとしても大変な状況です。ちなみに由美さん、英語は‥‥?

全然。ロックダウン中だから携帯への連絡が多かったんだけど、英語が聞き取れなくて、誰と話しているのか、看護師さんなのか保険会社の人なのかすらわからなくて。
電話が鳴るのが怖かったですね。


◆ これはきっと神様からのギフト

急性期病院に10日、そのあとリハビリ病院で2週間。一ヶ月も経たないうちに帰ってきました。
口から食べられるようになって、予想より回復していましたが、「家族だけで介護するのは難しいですよ」と言われ‥‥。
「1日何時間くらいサポートに来てもらったらいいでしょうか?」と相談すると、「24時間必要かも」と。もうびっくりしちゃって。

―――そ、それは、退院できる状態だったのでしょうか。

日本なら、半年入院するくらいの状態だったみたいです。

―――国によってそんなに違うんですね。由美さんもどんなにか大変だったでしょう。

コロナ禍ですぐには移動もままならず、半年後になんとか帰国してからも、家族全員、それぞれに格闘が続きました。夫は思い通りに体が動かなくなり、自由を奪われたショック。小学生だった息子も不安や恐怖からか、急に反抗期のようになったり‥‥。私もいっぱいいっぱいで余裕がなく、いつも必死でした。
そんな中でも、「この経験は神様が与えてくれたギフトだ」とは思っていました。

―――そうなんですか?! 

最初はそう思おうとつとめていたのかもしれません。でも、だんだん心からそう思えるようになりました。
ハワイに「オハナ」という言葉があるんですよ。もともとは血縁でつながった生活共同体のようなコミュニティのことをいうんですが、血縁がなくても、困っている人がいたら「オハナだから」と助け合う精神が根づいているんですね。

―――ハワイの人々は、そうやって助け合いながら生きてきたんですね。

私もオハナの精神にどれだけ助けられたか! 退院した夫をサポートしてくださる方をご紹介いただき、その方に本当にお世話になりました。精神的にも寄り添ってもらったし、リハビリもどんどんさせてくれて、すごいサポートだったんです。
他にも、必要な情報をくださる方、親身になってくださる方、いろんな方に助けていただいて、ありがたくて‥‥。
帰国後も、模索する中でたくさんのご縁や学びの機会を得ました。私にはすべて必要な経験だったんだと思います。

―――由美さん、強いですね‥‥!

いえいえ、逃げ出したいときもたくさんあったんですよ。でも、根がポジティブなのかもしれません(笑)。


◆ 人生の真ん中へ

―――大変な状況の中、学ぼうという気持ちになれたことに驚きます。

逆に、学びの機会があったから今こうしていられるのかも。
家族間の関係のこと、心理学、気学‥‥。たくさんのことを学びました。

―――そういう講座とか、プログラムのような?

はい。とってもいい仲間たちと一緒に学びました。それぞれ傷を抱えていて、泣きながら話したり、聞きながら泣いたり、すべての話が他人事に思えなくて。みなさんと話せる時間がすごく大事でした。
そして、あるとき気づいたんです。「人生の主役は自分なんだ」って。

―――わあ、どうやって気づいたんでしょう?

あるワークをしたときです。丸い円の中に自分を置くとしたら、ふつうは真ん中なんです。その周りに、パートナーや子どもや親、親戚や友人たちがいる。でも、そうじゃない人もいます。自分は円の周辺部にいて、真ん中にいる夫や子どものために生きている‥‥。
これまでの私は後者だったなと思ったの。

―――パートナーが倒れてからですか?

いいえ、それよりずっと前から。私がやってきたのは、父が経営する会社で働いたり、夫の会社を手伝ったりで‥‥。

―――サポートする立場が多かったんですね。

母の世代を見ていると、男性を立てて、尽くす女性が多かったし、自分もそういう役割なんだと思っていました。家族のサポートに徹してきて、ちゃんとキャリアを積んできていないという気持ちもあって、自分に自信がなかったんです。

そのワークで、「これまでは自分の人生の主役になれていなかったんだ」と合点がいきました。私は自分の人生の真ん中にいないといけない。同じように、夫の人生は夫の人生、息子の人生は息子の人生なんだ、って。私が背負ってもどうしようもないんですよね。

―――由美さんにとって、大きな気づきだったんですね。


◆ 子どもは自分の道を歩んでいるから

帰国後、紆余曲折あり、息子は今、インターナショナルデモクラティックスクールに通っています。
いろいろ調べていて見つけた学校なんですが、見学に行ってびっくり! 運営しているイギリス人の男性が夫を見て声をかけてきて。なんと、夫が30年前に一緒に仕事をしたことがある人だったんです。

―――すごい! ご縁ですね。
デモクラティックスクールというと、子どもたちが何でも自分たちで話し合って決めるイメージがあります。

子どもが自分たちで作っていく学校です。この間、イベントがあったので見に行ったら、3年生くらいの子に「あそぼ」と声をかけられてて。息子は中1なんですよ。まるで対等なんです(笑)。

―――年齢に関係なく、仲良しなんですね。

どうやら、息子は年下の子たちに優しいらしく、よく面倒を見ているようです。というか、一緒に遊んでいるのかな(笑)。今のところ、勉強はそれほどしていないみたい。勉強は子どもがやりたい勉強はサポートしてくれますが、大人のほうから課題を出したりはしない学校なの。自発的な学びが大事だから。

――― 一般的な学校は受け身の学習が多いからずいぶん違いますね。

以前の私なら不安になっていたでしょうね。でも、今は「だいじょうぶ」と思えます。将来、社会に出て苦労するかもしれないけど、息子はもう自分で選んでる。これがこの子の人生で、私は100%応援するだけ。

―――そうなんですよね。なかなかそんなふうに思いきれないものですが‥‥。

「いいお母さんでいなきゃ」というプレッシャーがありますよね。私の場合、「私の人生の主役は私なんだ」と気づいたから、自分と子どもを切り離せたんです。夫には夫の、子どもには子どもの人生があって、私が彼らを「何とかしなきゃ」と思うのは違うんだ、って。そう理解できたことで、とても楽になりました。


◆ 「いいね」を1000回言ってみる

―――由美さんもかつてそうだったように、「家庭でも職場でもサポート役で、自分に自信が持てない」という女性は少なくないですよね。

ええ。おもしろいワークがありましたよ。カウンター片手に、1000回「いいね」と言うの。これを毎日やるんですよ。

―――えー、1,000回!

「いいね」じゃなくても、自分がポジティブになれそうな言葉なら何でもいいんですって。意味がわからないでしょ(笑)。

―――それで自己肯定感が上がるんですか? 口に出すと、脳がそれを真に受けるのかな。

自分へのメッセージなんだよね。「いいね」「それでいいんだよ」というメッセージ。ちょっと恥ずかしくて人には言えないようなバカみたいなワーク(笑)。
でも、人間って、実は簡単な習慣で変化していくような気もするの。
「ダメだ」「できない」と否定し続けていたら、本当にそうなってしまう。
逆に、自分に可能性がある、力があると信じることができたら、目線がプラスのほうに向いていくんです。

―――「いいね」を1000回。やってみる価値ありますね!

1000回言っても、10分もかからないくらいですよ。案外、そんな小さなことで、人間の穴ぼこって埋まっていったりするんです。


◆ 私にも仲間ができた!

―――今、「マミースマイル保育園」が手がけるプロジェクト「マミスマテーブル」に参加されていますね。

はい。保育園の子どもたちが降園したあとに、会員制の小さな家族食堂を開くべく、がんばっています。

―――プロジェクトのどんなところに魅力を感じたんでしょう?

「みんなで子どもを育てよう」というコンセプトです! 孤立した核家族でママに負担をかけるのではなく、縦やら斜めやら、いろんな関係の大人たちで子どもたちを見ていけばいいよね、と思うんです。ハワイの「オハナ」の考え方にもつながりますね。

―――由美さんがもっている理想につながるプロジェクトなんですね。どんなきっかけで参加されたんですか?

代表の雁瀬さんに連絡してランチをご一緒したのがきっかけです。今の住まいに引っ越してきて、マミースマイル保育園のそばを通り、久しぶりにお会いしたいなと思って。
おしゃべりの中でプロジェクトの話を聞いたんですが、そのころちょうどいろいろなハードルがあって、計画が行き詰まっていたそうで‥‥。
私はほんとにすばらしいプロジェクトだと思ったから、思わず「一緒にやりたい! お手伝いさせてください!」と手を挙げました(笑)。

―――そうだったんですね。雁瀬さん、「仲間がいたからスタートラインに立てました」とおっしゃってました。

私のほうこそ、仲間ができて本当にうれしいんです。夫や父の仕事を手伝っていたときとは違う感覚。私が自分でやりたいと思ったプロジェクトであり、私の仲間だと思えます。

(2022年12月、「マミスマテーブル」はクラウドファンディングを行い、多くのサポーターの応援で、見事にゴールを達成しました!)

◆ 大丈夫! 道はひらけていく

―――ご自分の人生の主役として、これから新しい展開がありそうですね。

まだはっきり言えるほど具体的な予定はないけれど、動いていくつもりです! 
最近ちょっと思うのは、「自分が感じたことや、自分の姿を人に伝えていくのは大事だな」って。
ネルソン・マンデラが南アフリカ共和国の大統領に就任したときのスピーチがとても好きなんです。
「どんな人の中にも光がある。その光を外に向けて輝かせることが、ほかの人の力にもなるんだ」というような話。

おうちの壁に貼っているそうです

―――いい話~! 

自分が一生懸命生きていることで、ほかの人にも何か影響があるんじゃないかなと思うんです。私もほかの人ががんばっている姿に励まされるから。

―――すごく共感します。

何をするにも、仲間がいると思えることって大事ですよね。一人だと、モチベーションをもつのも保つのも難しくて、ふわふわしたり、落ち込んだりしてしまう。女性は孤立しがちだから、励まし合っていきたい! これから、いろんな人に会いに行けたらと思っています。

―――最後に、由美さんが今感じていることを、みなさんに伝えたいです!

「ちゃんとなるようになっているから、大丈夫」ということかな。

以前は、人生は苦しいもので、苦しくてもがんばるものだと思い込んでました。仕事もきついのが当たり前で、その対価として報酬があるんだと。
でも、ほんとは、そんなふうに思う必要ないんじゃないかな。
目の前のことを一生懸命やっていたら、助けてくれる人がいるし、道はひらけていく。
人生っていろんなことが起きます。でも、いろんな経験をしながら魂が磨かれていって、この魂で学ぶべきことをすべて学んだら卒業のときがくる‥‥。マイナスなことはないんです、きっと。不安になる必要はない。どんなときも楽しんでいい! 
お天気がいいだけでも幸せだと思えたら最高ですよね。

(おわり)

◆編集後記

由美さんはもともと「伝える力」や「励ます力」が強い人! 私自身、由美さんの話を聞いたり、文章を読んだりすることで刺激を受けたり、励まされたことが何度もあります。今回もそうでした! 自分の人生を生きよう、自分の中の光を輝かせようと素直に思えました。 
恐れずまっすぐに自分と向き合う由美さんは、明るく、そしてとても強い人だと思います。どこに行っても由美さんが親しまれ愛される、その理由が見えてくるインタビュー記事ができて、幸せです。
(イノウエ エミ)


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