インタビュー: 30歳から本当の人生が始まった気がする ~ みついゆみこさん
川沿いのカフェで待ち合わせ。いつものように赤い自転車で軽やかにやってきたみついさんです。ちょうど新旧のアルバイトの狭間の時期に、インタビューを申し込んでくださったとのこと。そのときのメッセージがユニークで・・・。
聞き手: イノウエ エミ
撮影 : 橘 ちひろ & みついゆみこ
(2019年9月下旬取材)
◆ 自分探しは他力本願
―――今回、インタビューのご依頼に際して「自分探しは他力本願」という言葉を思い出したとか。すごくおもしろいです(笑)
みうらじゅんが言ってたんです。自分探しでバックパッカーしたりインドでヨガしたり、髪とヒゲ伸ばして帰ってきたりするでしょ、その始まりが、ビートルズで一番目立たない人だったんですって。
―――ジョージ・ハリスンね(笑)。
そこから、個性がない人が外国に行ったり人に師事したりして自分を探すのが流行るようになったそうです。
私も、バイトをやめて、いま熱中できるものが何もないから自分探ししたいんだ、だから「エミさんにインタビューしてもらったら何か出てくるかな~」って。これってまさに他力本願ですよね(笑)
でも、みうらじゅんは、「そもそも自分らしさなんてなくていい」とも言ってるんですよ。
人間は、まったくない状態から生まれてきて、たった80年くらいで亡くなる幻みたいなもの。まるで存在してるかのように思い込んでるけど、無から生まれて無になるんだから、お金もうけしたいとか宇宙に行きたいとか、そんなの意味ないんじゃない?って。仏教の教えに近いものらしいんですけど。
―――なるほどね~。やっぱり、みうらじゅんはおもしろいことを言うなあ。
私も、最近は、ぼーっと生きて死んでいくのもいいかなって思って。「何かしなきゃ」と思ってたときはきつかったけど、今は楽です。
◆ セミナー通い、やめました
――― 一時期は、いろんな講座やスクールによく参加してましたよね。子育てセミナーとか…。
それもやっぱり自分探しをしてたから。人の話を聞いて参考にしたり生かしたいと思ってたけど、今思えば、セミナーに行くと「あれしなきゃ、こうしなきゃ」というプレッシャーを感じていたんですよね。
―――わざわざ時間とお金を使って行くから、「学んだことを役立てなきゃ」と思っちゃいますよね。
かえって自分を苦しめてたな~と思います。情報収集は好きだから、今でも人と話したり、テレビやyoutubeでいいなあと思うフレーズがあればメモしたり。私にはそれくらいがちょうどいいんだと気づきました。
―――お子さんがフリースクールに行くようになって、価値観が変わったそうですね。
子供が不登校になって悩んで調べて、結局フリースクールに通うという選択をしました。そういう経緯の中で、「子育ての悩み」みたいな漠然とした話じゃなくて「自分の子どものこと」がテーマになったんですよね。そうしたら、人の話を聞くより自分で考えて動いたほうがいい。
―――インタビューも、質問するのは私だけど答えはみついさん自身の中から出てくるから、そういう意味でとてもいいと思います(笑)。
人の言葉に頼るより、自分の中に眠っている何かを使いたいと思っています。でも私、すっごくしゃべりますけど大丈夫ですか? 夫にも「ちょっとは息継ぎしたら?」と言われるくらい。
―――全然だいじょうぶ(笑)。時間の許す限りいろいろ聞かせてください。
◆ スイッチは突然に
みついさん撮影。昔ハマってたLOMOカメラと、撮影した写真たち。レトロなものや同じものがいくつも整列していたりする景色が大好きだったそうです。
―――みついさんは、興味を持ったらすごく集中するイメージですね。
そうなんです。不登校のこともめちゃくちゃ調べて、途中から楽しくなっちゃうくらいでした(笑)。
今は家を建てることになったのがきっかけで、家計の見直しが熱いです。FPさんが書いた本を読んだり、いろいろ情報収集して、我が家の家計簿をじーっと見て検討して、自分なりにがんばってます。
急にスイッチが入るんです。でも、全部ゴールを切れてないんですよね…。コツコツ努力することができない。ブワーッとやって、スーッと終わっちゃう。
―――これまでの人生でいろんなスイッチが入ってきたのでしょうが、切れるときに共通点はあるんですか?
考えたことなかった! 急に冷めるんですよね…。飽きるのかなあ。
ある程度 話を聞いたり調べたりすると、「なんだ、そういうことか」と腑に落ちちゃう。「この人の世界観の中ではそれが正解なんだな、じゃあ私の中の正解は?」って。そうなると、もう調べる必要がなくなるんですよね。
―――腑に落ちて納得したら終わって、次に行く。すごく自然だし、全然いいじゃないですか?
◆ 親も子どもも、ゆるめながら
どこででも「多様性が大事だ」って謳われてるけど、価値観が違う人とつきあうのはハードルが高いなーとも思います。日本人は、考え方を批判されると自分自身を否定されたように思っちゃう傾向が強いんですって。私もそうでした。今は「そうじゃないんだ」とわかってるけど、それでも傷ついちゃったり。
―――ある程度、慣れの問題かもしれないですね。いろんな価値観があることを知っていたり、自分と全然違う人とつきあう経験があれば、気になりにくくなるような。
だからきっと、映画を見たり小説を読んだりするんですよね。
私は活字が苦手だし、せっかちだから映画も2時間見れなくて。でも、子どもができてから、映画ってすごくいいなと思うようになりました。金曜日には子どもも夜更かしOKにして、映画を流して一緒に見てます。
―――子どもの頃から見ていたら、人生でずっと楽しめる趣味になるかもしれないですよね。
フリースクールに行っている長男に、世界は広いんだよと知ってほしくて、映画やテレビ、youtubeも見せてます。
フリースクールは日本の公教育と教育方針が違っているけど、公立の学校で楽しんだり学んだりしてる人もいる。
この前は、V6の『学校へいこう』を見ました。屋上から告白したり、いろんな子がいて特技を披露したりする。生徒たちの様子に息子も興味を持つんですよね。
―――人間が経験できることは限られているから、別の環境を見聞きするのも大切ですよね。フリースクールか公立学校かにかかわらず。
親のほうが従来の考え方にとらわれて「学校に行かせきゃ」「宿題させなきゃ」と思っちゃうんですよね。だから、ちょっと学校に合わない子がいると、親も子どももどちらも苦しい。
子どものほうが頑として行かないか、親がゆるめるか、どちらかがあればいいんですけど…。でも、そんなふうに思えるのは、自分に余裕ができてきたからなんだろうな。
―――私のまわりでも、子どもが疲れているときは、大人の有給休暇みたいに気軽に休ませる保護者が増えてますよ~。
◆ "世の中" に対峙できるくらい強くなった
みついさん撮影。昔好きだったカヒミ・カリィとYUKIの本。
―――みついさん自身は、どんなお子さんでしたか?
おとなしい子だったと思います。だから、バービーちゃんのお人形ごっこなんかでも、誰もやりたくない男の子役を押し付けられたり。毎日ささいなことで泣いてましたね。
―――ちなみに、学校はイヤじゃなかった?
先生のことはけっこう好きだったのでそれほどつらくはなかったし、そもそも「学校に行かない」という選択肢を持っていませんでした。でも、からかわれたりとかイヤなことはあったと思う。小学校のとき、たぶんストレスから円形脱毛症になったこともあります。
よく言えば私の許容範囲が広かったんでしょうけど、20代のころに働いていた職場でも「こいつには言ってもいい」みたいに思われがちで。「そこまで言わなくても」と思っても、言い返せなくて苦しいこともありました。
―――胸が痛い。同じ思いをしている人がたくさんいると思います。
狭い価値観の中で生きていて、優柔不断で一人では何も決められない、限られた世界で生きてました。だから、人にからかわれたり、アドバイスを押し付けられたりしがちだった。でも子どもができたら、自分がこの子を守らなきゃいけないから、人のアドバイスのとおりには選択できません。昔のままの私ではいられない。強くなったと思います。
子どもをフリースクールに通わせていることについても、人によってはいろいろな見方があります。「社会に出られなくなるんじゃないか」とか、「楽なほうに逃げている」と思っている人もいる。それが世の中の大多数なのかなとも思います。そういう考えを聞くと、急に“世の中” というものが迫ってくる感じがして息苦しくなる。私は、公立学校も、“世の中” も否定しません。うちは違う選択をしてるだけ。そんなふうに、違う人がいてもいいんじゃないかな。
―――多様性ってそういうことですよね。
◆ 子どもの人生は0歳から始まってほしい
飽きっぽくて何をやっても続かない。私ってほんとダメだと自分を否定してました。「やり始めたからには続けなきゃ」 「簡単にあきらめるな」って子どもの頃から言われますよね、どこででも。
―――「継続は力なり」って言葉も、考えようによっちゃ呪縛ですよね。
でも、誰かがyou tubeで「やらないよりはマシ」と言ってたんです。それからかな、自分を認められるようになってきました。いい意味であきらめたのかも(笑)。
―――「おもしろそうだな」と思ってやり始められること自体、強みじゃないですか? 新しいことを始める・新しい世界に飛び込むのはそれだけで力を使うから、なかなか踏み出せなかったりもします。
そうですよね、やった分だけ自分をほめればいいし、ほめるほどじゃなくても、少なくとも責めることじゃないですよね。自分が悪いわけじゃないんだと、やっと思えるようになった。
なんだか、本当のことは誰も教えてくれなかったなーって思う。子育てが始まる30歳までは親の価値観の中で生きてきたかなぁと。
29歳で結婚して30歳で子供を産んで、そこから自分の人生が始まった気がします。だからまだ10歳なんです、私。
―――めっちゃいい! 今、すごい成長期じゃないですか~
親のことは好きだし、30年が無駄だとは思ってません。やっぱり30年があって、今の私なんだろうし。でも、本当の人生を生きはじめたのは30歳。自分の子どもたちには、自分の人生は0歳から始まってほしいなと思います。
日本では、苦しいことをあるていど我慢して生きるのが当たり前だという考えが一般的な気がしますが、そんなこともない気がするんですよね。本当に毎日、100%の幸せを求めて生きていいんじゃないかなって。
◆ 「飛ぶノミになりたい」
この間、夫から「ノミの話」を聞いたんです。夫も研修で聞いた話の受け売りなんですけど(笑)。
ノミをたくさん瓶に入れて蓋をします。最初はみんなぴょんぴょん飛んでるけど、飛んでも出られないことを学習すると、だんだん飛ばなくなる。そのあと蓋を開けても、誰も飛び出していかないそうです。
―――ひゃー、怖い。
蓋がある生活に慣れちゃって、ノミなのにおとなしくなっちゃうっていう(笑)。でも、その中に1匹、外に飛び出していくノミがいたら、「あら? 今、飛んだよね? 飛んだら出られるんじゃない?」って雰囲気になって、だんだん飛ぶノミが増えるんですって。
―――なるほど~。
「私たちも飛ぶノミになりたいね」って夫と話してたんです。
―――なんか、ノミっていうのがいたいけな話ですよね~。すごく小さな存在だけど、それでも飛びたいですよね。
今後、やってみたいことはありますか?
実は、今、新しいバイトを始めたところなんですが、いつかUber Eatsのデリバリーをやってみたいと思ってます! 私の天職じゃないかと思って。
―――頼むほうじゃなくて、配達するほうなんですね!
チャリ歴も長いし、安全運転で届けます。最近、福岡でもよく見かけますよね。どんな自転車に乗ってるのかなとか、どんな人がやってるんだろう、何歳ぐらいかなとか、よく観察してます。あのバッグはね、最初に何千円かで買って、やめるときに戻ってくるデポジット方式らしいです。
―――さすがの情報収集力!(笑)
(おわり)
編集後記
たぶん、ひとつのことをずっと続けて「何者かになる人」って、そんなにいないと思うんです。私たちのほとんどはスターにも名人にもならず、飽きたりあきらめたりしながら凡々と生きてゆく。でもそれを中途半端だというのは違う気がする…みついさんへのインタビューを通じて、あらためてそう感じています。胸がいっぱいになるようなすてきなお話を聞かせてもらいました。
個人的には、みついさんって銀色夏生のような才能を持った人だと思ってるのです。 (イノウエエミ)
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