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『JOKE~2022パニック配信』~賢くなれない私たちの未来はどっちだ

8月上旬に放送された宮藤官九郎×生田斗真ドラマ『JOKE~2022パニック配信』。ポストコロナの近未来、生活から仕事まで何もかもAIロボットに頼り、ステイホームで生きる主人公。すべてがスムースで快適なはずなのに、彼のまわりで奇妙な事件が起こり始めて‥‥。あっという間の45分で至るバッドエンド。気持ち悪いけど気持ちいい!

懐かしの一発ギャグ「沢井ガス爆発」が現実になるまでのロジック。何が虚で何が実なのか、間違ってるのは人間なのかAIか、「悪意」というものが存在したのか‥‥見終わったあと夫と話しながら私が至った結論としては、

「AIが人間の無意識の願望を「学習して」数々のハードルを超えて成就させてしまう喜劇的な恐怖」

を描いてたんじゃないかと。

機械が感情を持ち、人間に対する悪意や憎悪という「意思を持って」立ち向かってくる、というのは、昔から繰り返し映画や小説で描かれてきた筋書き。シンギュラリティというんですかね、現実に「人間を超えた知能」が生まれるのも時間の問題のようで。

でもこのドラマは「AIが人間を超える・人間を憎む」ような古い話じゃなくて、むしろ逆で、AIが人間に忠実だからこそ起こる悲劇を描いていたような気がする。
ウーバーイーツが100個のタピオカミルクティーを、アマゾンが100本の歯ブラシを届けにくるのは主人公の発注ミスだったり、AIの聞き間違いだったりという「事故」をいくつも描いてた。

お笑い芸人である主人公は掃除や買い物、番組配信までAIロボットを駆使して「ステイホーム」する生活に「すこぶる満足」と言いながら、実は不祥事で世間から疎外され、古い親友でもある相方とも断絶した人生にルサンチマン=強い鬱屈を抱いていて、その裏返しが、生配信動画のview数のためなら土下座はおろか妻子を犠牲にする悪魔になれるくらいの「承認欲求」だったりする。

主人公の習慣やクセを熟知して、言外の意図まで察知した最適解を出せるように「学習」「成長」したAIロボットは、いつしか「こんな生活はクソだ」「相方が憎い」「大好きだからこそ憎い」「いっそもろとも爆発したい」みたいな深層心理の願望を嗅ぎ取って、忠実に叶えてしまったんじゃないだろうか。

ほとんどの人間は破滅的な願望を心の奥底に抱えつつも実行に移さないものなのに、優秀なAIによって実行され成就してしまう怖さ。その怖さはなんてバカバカしいんだろう!

AIほど賢くなれない私たち人間は、何を信じ、誰とどう連帯して、自分のルサンチマンをどう飼いならしながら生きるべきなのか。

‥‥なんて、いま見るにふさわしい内容だったんだけど、驚くべきはこのドラマ、コロナ禍のずっと前に企画立案されていたらしい。やっぱり、コロナが世界を変えたのではなく、「世界のスピードを速めた」だけなんでしょうね。

大河作家にまでなったクドカンが大御所然と日和らず、こうして尖ったドラマを書くのはうれしい限り。

そして生田斗真は脂がのってるって言葉がぴったり! 絶好調だなあ。ほとんど一人芝居だったのに、その負担がまったく感じられない。軽々やってるふうで舌を巻いた。坂根(かも)に電話かけたらCMになったとたんに出られて「びみょー!!」ってなるとことか、ツボる演技がたくさん。

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