見出し画像

インタビュー: フツーの私たちが楽しく作っています ~ 「パリテ・ウェーブ」編集長 山川みゆきさん

「パリテ・ウェーブ」というフリーペーパーをご存じですか? 
「パリテ」とは「同等、同一」を意味するフランス語です。
「議員の男女同数をめざそう」「福岡から女性が変える波を!」
という思いをこめて、2019年2月に創刊されました。
編集長の山川さんは博多っ子。大博通りを見はらせる屋上でも撮影しましたよ。

聞き手: イノウエ エミ
撮影 : 橘 ちひろ
(2020年3月上旬取材)

画像1

◆ 「パリテ・ウェーブ」はこうして生まれた

画像2

―――「パリテ・ウェーブ・フロム福岡」(以下「パリテ・ウェーブ」)の制作メンバーは「女性のための政治スクール」の一期生が中心ですね。このスクールからは、11人が2019年の統一地方選挙に立候補しました。

はい。編集部は、立候補しなかったメンバーが中心です。

―――ご自分では、立候補は考えなかった?

ないです、ないです。向き不向きというものがありますから(笑)。

―――立候補は考えていないけれど、みずから政治スクールに参加する。その動機って何なのでしょう?

うーん、日本では「政治の仕事」というと議員や秘書くらいしかイメージがないかもしれませんね。
でも、それ以外のかかわり方もあっていい。もっといろんなかかわり方が増えていけばと思います。昔アメリカにいたころ、ロビイストやシンクタンクで働く人を見てきましたから。

―――なんかかっこいい。

‥‥といっても、今の自分にできることって何だろう?と考えると、なかなか難しい。その中で、刊行物を出すというのは手をつけやすい気がしたんです。
党派を超えて女性議員の知恵や経験を集約し、応援する人を増やしていくお手伝いができるのではないかと。

―――ご自分の発案で始まったから、編集長になったんですね。

そうですね、言い出しっぺですからね(笑)。

―――そもそも、なぜ女性議員を増やしたいのか教えてもらえますか?

女性の経験や生活者の視点を政治に反映させるためです。人口の約半分は女性ですが、女性議員が1~2割しかいない現状で、私たち女性の声は十分に届いているでしょうか? 

―――育児や教育、介護、非正規労働、性暴力などなど、もっと大きく扱ってほしい問題がいろいろあります! 予算もつけてほしい!

そうですよね。女性議員を増やすことは、私たち女性が抱える様々な問題を議会に届ける人たちを増やすことにつながるんですよ。

―――創刊にあたって、資金はクラウドファンディングで集められました。

友人の案です。フリーペーパーを作るといっても、お金もないし、印刷所も知らない、文章を書いたり編集したりも未経験です。本当に何もないところからのスタート(笑)。

クラウドファンディングを立ち上げ、印刷所を紹介いただき、編集は元新聞記者の方にお世話になり、知り合いに広告をお願いして‥‥たくさんの方のご協力で創刊することができました。

―――ちなみに、私もクラウドファンディングに参加しました!

そうでした! ありがとうございます。78人もの方に支援していただき、40日で目標を超える額が集まりました。本当に有難かったです。

画像3


◆ 「ひな壇に呼ばれ続けなきゃ(笑)」

画像4


―――冊子は、どこに配布しているのですか?

まず、福岡県内、いろんな市や町の男女共同参画センターに置かせてもらっています。それから、クラウドファンディングに協力してくださった方、応援してくださった方やお店。女性を中心に活動している市民グループからお問い合わせをいただいて発送したりもしましたよ。

―――創刊号は、統一地方選挙の直前というタイミングもあり、メディアにも取り上げられましたね。

おかげさまで、想像を超える反響がありました。
正直なところ、自己満足で終わるかなという思いもあったんです。創刊号を作っているときはとても楽しかった。取材に行って、編集して、印刷所とやりとりをして‥‥すべて初めての経験だからワクワクですよね。できあがって、メンバーで「楽しかったね~!」と言い合って終わりかな、と。
「続けてください」「2号を楽しみにしています」という声をたくさんいただいて、びっくりでした。

―――たくさんの人の手にわたって、よかったです。

そうなんですが、2号を作るときはひそかにプレッシャーも感じていて‥‥「期待していたのにつまらなかった」と言われるんじゃないか、とか。いきなりブレークした芸人さんのように‥‥。

――― 一発で終わる恐怖が(笑)。

あの人たちのプレッシャーってすごいでしょうね。バズったネタを超えるって相当難しい。それができなくても、何とかバラエティ番組のひな壇に呼ばれ続けなきゃいけない。

―――ほんとですね‥‥って、なんの話だ(笑)。ひな壇芸人に思いを馳せるインタビューになるとは(笑)。


◆ 政治と映画を学んだ留学

画像5


―――政治に興味を持ったきっかけは何ですか?

中学生くらいですね。いわゆる55年体制が崩れて連立政権が発足して‥‥

―――細川護熙さんが総理大臣に(1993年)。

そう。なんか、えらくキャラの立った人たちが出てきていろんなことを言って、日々状況が変わって、「なんておもしろい世界なんだ」と思いながら毎日ニュースを見ていましたね。

―――なかなかアグレッシブな中学生ですね(笑)。高校卒業後、アメリカに留学されていますが、そこでも政治の勉強を?

はい。政治学と社会学を学びました。ほかに、映画史の勉強もしました。映画が好きなので。

―――そうなんですね。たとえばどんな作品?

やっぱり一番は『風と共に去りぬ』ですね。初めて見たのは小学3年生のときでしたが、見るたびに違う印象を持ちます。『十戒』や『ベンハー』『アラビアのロレンス』なんかも好きでした。

―――渋いな~!

大学の授業で学んだのは、個々の作品ではなく映画の歴史についてです。エジソンがフイルムを発明したところから始まり、ヨーロッパで盛んだった映画がアメリカの東海岸に届き、やがて気候の良いハリウッドに移る‥‥というような。

それからは、映画を見る時も違う視点を持てるようになりましたね。製作された時期の歴史的背景など、芸術は社会の影響をモロに受けますから。

◆ 日米の議員事務所で

画像6

―――アメリカの大学の卒業後は?

一年間、上院議員の事務所で働きました。ざっくり言うと、アメリカでは、学校で学んだことを生かす仕事であれば、一年間だけ学生ビザのままで働くことができるので。

―――議員事務所。それはまた、どういう経緯で?

インターンを探そうと思って、いろんなところに履歴書をポストしていたんです。その中で、インターン生がほしい事務所の方が拾ってくれて、面接に受かって。

―――行動的! アメリカの議員事務所はどうでしたか?

最初にもお話したように、議員や秘書だけでなくいろんな立場、たくさんの人が政治にかかわっているのを感じました。難しい話は割愛しますが、日本とはシステムがずいぶん違って、おもしろかったですね。

―――帰国のきっかけは‥‥。

学生ビザが切れるタイミングです。
とりあえず東京に出て仕事をしなきゃということで、派遣社員として働いていました。

その中で、当時葛飾区の区議会議員をしている大学の先輩と知り合いまして。ちょうど2期目の選挙の前だったので、休みの日にボランティアでお手伝いをするようになりました。駅前に立ったり、ビラ配りをしたり‥‥。

それがとても楽しかったんですよね。いろんな人と出会えて。
ちなみに、先輩は女性です。私より10歳年上で、当時34歳。

―――今から15年以上も前に、34歳の女性が2期目に挑戦!

そのあたり、やっぱり東京は進んでいますよね。そんなこんなでいろんな人と知り合って、気がつけば国会議員の秘書をしていました。記念受験のつもりが合格して‥‥。

―――えーっ。

もちろん、何人もいる秘書の中の一人ですよ。


◆ ばりばりの20代から静かな30代へ

画像7

思えば20代は怖いもの知らずでした(笑)。楽しいこともたくさんあったけど、すごく忙しくてストレスもあって、体を壊して福岡に戻ってきました。

―――いろんな女性にインタビューしてきましたが、若いころ、多忙で体を壊した経験のある人は本当に多いですね‥‥。

私も心身共に不調になって、なんだかんだ5年くらい療養していましたね。

―――若いころの5年間は、決して短くはないですよね。しかも、アメリカに行って、英語で勉強して仕事して、東京で国会議員の秘書をして‥‥いわゆる「イケイケ」だったころの山川さんとは大きなギャップがあって‥‥。

すごく焦ってました。家から5分のコンビニにすら一人で行けない時期もありましたから‥‥。
なんとか焦りを抜けた後は、「もういいや」という境地。

20代の間がんがん動いて、体を壊したのが28、9歳。治っても、前みたいにばりばりやるのはもう無理だろう、私の30代は静かに過ごそうと思っていました。
35歳くらいからちょっと風向きが変わってくるのですが(笑)。

―――良いお相手と結婚もされて。

自分でも意外でした(笑)。もともと結婚願望もなかったし‥‥。親も親戚も、みんな驚いてました。なかなか信じてもらえなかったくらい(笑)。

画像8


◆ やりたいことをやっているフツーの人です

画像9

やっと体調が回復してきて「仕事をしようか」となったのですが、そこで雇用の問題に突き当たりました。もう30才を過ぎていて若手としては採用されない。かといって確たるキャリアもない。何か資格を取ろうかと思っても、お金もない‥‥。

そんなとき、某国会議員さんの福岡事務所に声をかけてもらって、パートで働くように。療養中、体調がいいときに知り合いの関係で選挙のお手伝いをしたこともあり、ご縁がつながったんです。自分でも「また政治の世界か」と思ったのですが(笑)。

―――山川さんの経験を活かせる、いいご縁でしたね。

いや~、拾ってもらっただけです。私はラッキーだったと思います。病み上がりということで、いろいろ便宜もはかっていただきましたし。
「キャリアの断絶」は多くの女性が経験する問題で、こういったことにも政治はかかわっています。

―――いろいろな経験が「女性のための政治スクール」そして「パリテ・ウェーブ」につながっているのですね。

はい。やっぱり政治はおもしろいと思う!
熱いハートを持って社会を変えようとがんばっている人たちに魅了されます。

「パリテ・ウェーブ」では「パリテひろば」という意見交換会も行っています。議員さんにも参加のお声がけをしていますので、みなさんにもぜひ政治や議員を身近に感じる機会にしてほしいですね。

―――フリーペーパー「パリテ・ウェーブ」は営利目的ではないとはいえ、広義の起業というか。今また大変なのでは?

確かに大変なこともありますが、負荷のかかり方が違うんです。やりたいことをやっているので、病みそうという感じはないですね。楽しいです。

―――それを聞いてとてもうれしい。その楽しさを伝えたいですね。「パリテ・ウェーブ」って、つまり「女性議員を増やそう」という活動。なんとなく固いイメージを持たれがちでしょう。

「すごいね、えらいね」と言われますよね。そんなことない! フツーの人です、私 (笑)。

―――苦手なこととかありますか?

家事全般。特に料理! 苦手です~。「ごはんは炊いとくから自分で食べて」みたいな。

―――それでいいと思う!
 

◆ 私のような女性たちにも届けたい

画像10

―――最近のマイブームはありますか?

ブームというか、実は、学校に通っています。クリティカルシンキングを学びたくて。クラスメートにはMBA(経営学修士)をめざしている人もいて、刺激的です。‥‥これはあんまり書いてほしくないんですが(笑)。

―――すごくいいと思う! どうして書いてほしくないんでしょう?

私はビジネスをやっているわけじゃないし、そもそも社会経験も豊富ではないし。

―――そんなの関係ない!(←小島よしお?) 意欲をもって行動している、そのプロセス自体がすばらしいじゃないですか。
今後、「パリテ・ウェーブ」をもっと届けたい層はありますか?

子どもがいなかったり、非正規だったり、正社員でも昇進の機会がなかったり、そういう女性に興味を持ってほしいですね。私もそんな一人ですから。

子どもを持つと、復職や保育園、学校のことなど「生活と政治はつながっているんだ」と気づく機会が多いし、お母さん同士のコミュニティで問題意識を共有できたりしますが‥‥。

―――確かに、私も独身のころは政治なんて自分とほとんど関係ないと思っていましたね。

本当は、いろんな問題があるはずなんですよね。たとえば法律に違反した働き方をさせられているとか、不当に低い賃金や地位に甘んじさせられているとか。でも、それが問題だと気づく機会がなかったり、どこに訴えていいかわからなかったり‥‥。
そんな人たちにも広げていきたいですね。「声を上げていいんだよ」と。

―――ほんとですね。これからも応援しています!

(おわり)

画像11

◆◆ Contact Us !! ◆◆ 
● パリテ・ウェーブ https://www.quotafukuoka.com/フリーペーパー-パリテウェーブ/
● 福岡・女性議員を増やす会 https://www.quotafukuoka.com/

◆編集後記

創刊号から「パリテ・ウェーブ」を愛読し、応援しています! このようなマガジンがあるのは福岡の希望です。山川さんが言うように、もっともっとフツーの人に届けたい、そのためにも「フツーの人が作ってる」ことを知ってほしい。編集長の素顔から、より親しみを感じてもらえるとうれしいです。
さばけたビッグスマイルと、久留米絣のスカートが似合うエレガント。イケイケのアメリカ時代や、体調不良やキャリアの断絶‥‥。「政治参画マガジンの編集長」も一人の女性で、いろいろな顔を持ち、winding roadの途上にあるのです。 (イノウエエミ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?