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りんどうの花言葉…あなたの悲しみに愛をもって寄り添う

2021/9/28 読書記録no.54「生きてさえいれば」小坂流加

先日の「余命10年」に引き続き、同じ作家さんの本をまとめていきたいと思います。小坂さんは、「余命10年」を書き終わった後すぐに亡くなられたと説明書きがありましたが、今日ご紹介する「生きてさえいれば」は、小坂さんが亡くなられた後にご両親が見つけた作品だそうです。

「余命10年」も涙なしでは読めない素晴らしい作品でしたが、この作品は涙というより、心がギュッとなるような作品でした。この作品は“恋愛小説”となっていますが、トキメキとかキュンとかそういう上辺のものじゃなくて、誰かを想うとか、愛するとか、それがどういうことを意味しているのか、言葉では難しいけど、そういう大きなモノを表現している気がしました。

今日は、「生きてさえいれば」について感想をまとめていきます。


作品について

あらすじ

生きていれば。恋だって始められる。生きてさえいれば…。
大好きな叔母・春桜(はるか)が宛名も書かず大切に手元に置いている手紙を見つけた甥の千景(ちかげ)。病室を出られない春桜に代わり、千景がひとり届けることで春桜の青春の日々を知る。学内のアイドル的存在だった読者モデルの春桜。父の形見を持ち続ける秋葉。ふたりを襲う過酷な運命とは――。魅力的なキャラクター、息もつかせぬ展開。純粋な思いを貫こうとするふたりを描いた奇跡のラブストーリー。『余命10年』の著者が本当に伝えたかった想いの詰まった感動の遺作。


印象的な言葉

何もなければいい。ずっとずっと。こうやって僕の傍で彼女が笑っている今日があって、明日を超えて、季節を巡って、生活を重ねていければいい。
人はね、どんなに悲しいことがあっても、どれほど絶望しても、ひとつの感動や、ひとつの喜びや、ひとつの恋で生きられるの。
生きていなくちゃ、悲しみや絶望は克服できないのよ。生きて、時間を前に進めないことには、感度や喜びや恋には出会えないからね。
思いの枝葉を伸ばしていくと気がかりがありすぎて、死ぬ日を決めかねた。
生きていれば、人から感謝されることがある。生きていれば、お腹もすく。生きていれば、新しい友達ができる。生きていれば、恋だって始められる。
生きていれば、“ほんとうの幸”を見つける旅が続けられる。季節も明日を巡りながら、春、夏、秋、冬、絶え間なく流れる幾千の景色の中で。


読み終わって

序盤にも軽く書きましたが、前回読んだ「余命10年」よりも、涙はなかったです。涙はなかったけど、その分心がギュッとなるシーンが多かったように感じます。

甥っ子・千景の行動で、長年動かなかった時計が動き出します。小説の中では、誰か主人公か分からないくらい、それぞれの心情が細かく記されています。

物語の終盤で、秋葉に襲いかかる悲劇を読んだ時は少し苦しくなりました。愛する人と一緒にいることに喜びを感じられるようになった途端、崖から突き落とされるような状況に。帰りたくても帰れないその気持ちが、歯痒くて、ある意味ここでも心がギュッとなりました。

でも、クライマックスの終わり方がとても素敵でしたね。春桜の病室の前でなかなか扉を開けられない秋葉に対して背中を強く押した、千景と夏芽は立派だと思いました。

生きていれば、生きてさえいれば。

このタイトルに込められた想いを、作者である小坂さんの想いを、痛いくらいに感じることができました。

春、夏、秋、冬、春桜は春と冬を繋がる存在をずっと探していました。季節の中でそれぞれにうつろいの景色があるように、それぞれの人生を歩んだ道のりの中で、彼らにはきっと何か見えたものがあったのだと思います。

生きることに対して考えさせられた、素晴らしい作品でした。


おりょう☺︎

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