紫ばかり減るクレヨン
娘は絵を描くことに、熱を上げている。
スマホゲームもやらず、タブレットで動画を観ることもなく、ひたすらに絵を描いている。
もっぱら、私の母、つまり娘にとっては祖母の似顔絵を描いている。
私の母は、白髪が生えだしてから、髪を紫に染めた。
常々、紫髪のおばあさんを見かける度に、なぜあえてそんな髪色にしてるのか、疑問を抱いていたのだが、まさか実母がそうなるとは。
そうして、いつも母の似顔絵を描いている娘のクレヨンは、紫ばかりが減っていくのだ。
それにしても、ここまで極端に減っているのには、さらにわけがある。
私の母は、三つ子で、娘はそれを四歳の時に、親戚の集まりで知った。
その時、娘は、同じ顔をした紫髪の老婆が三人並んでいる光景に、目を丸くしていた。
それ以来、娘は、母を細胞分裂する生物、ミドリムシかなにかと、勘違いをしているらしく、日々、母が増殖を繰り返しているものだと思い込んでいる。
その思い込みは飛躍し、いまでは、画用紙いっぱいに大量の紫髪老婆を描いている。
それは、もはや似顔絵とは程遠く、ぱっと見、しなびたデラウェアのようだ。
これが、クレヨンが一色だけ減っていく理由である。
いつか紫のクレヨンを使い切る前までには、娘が、母を、有性生殖だと認識してくれると良いのだが、きょうもまた紫だけがすり減っていく。
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