秋の不倫バスツアー
不倫相手から温泉旅行に行こうと誘われた。
彼女と付き合いはじめて1年が経つが、温泉旅行とは、いよいよ不倫カップルらしくなってきた。
私たちの密会は、もはやルーティン化していて、いきつけの焼鳥屋で食事をし、近くのコンビニでビールやお菓子を買って、そのまま彼女の家で過ごし、終電に乗って帰る。
それが、月に2回。
そんな決まりきったデートに飽きが来たのか、二人ではじめての旅行に行きたいとねだられた。
しかも、驚いたことに彼女が提案してきたのは団体でのバスツアーだった。
二人きりでなくて良いのか、尋ねると彼女は得意げな顔でこのバスツアーについて語った。
なんでも、このツアーには不健全な参加条件があり、不倫カップルしか申し込むことが出来ないというのだ。
どこぞの新興旅行代理店が展開している胡散臭いシークレットツアーだ。
ところが、これが意外にも人気らしい。
不倫カップルから滲むやましい雰囲気は、いくら自然体を装ってもどうしても抑えきれないのだが、このツアーでは全員が同じ環境なので、参加者は周囲の目を気にすることなく堂々とイチャつけるというのが魅力なのだとか。
私は、乗り気ではなかったが、彼女の要望を甘んじて受け入れた。
翌々週末、妻が奈良の実家に帰省する土日を狙って、一泊二日のバスツアーへと向かった。
バス乗り場には着くと、たしかに後ろ暗いムードを放つ男女がウロついている。
ああ、私もこの哀しき背徳者の一員なのかと思うと、複雑な気持だったが、嬉しそうにはしゃぐ彼女に手を引かれ、足早にバスへ乗り込んだ。
妻がいた。
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