正しい座席の譲り方
まあ乗ってきたら譲れば良いだろうと高を括って座った優先席。次の駅ですぐおじいさんが乗ってきた。
席を譲ろうとした、おじいさんの服装を見ると、どうみても登山帰りだった。
こんなハツラツとした足と腰に覚えありのご老台に席を譲るのは逆に失礼なんじゃないかと自問をしている間に、隣に座っていた中年女性が、そのおじいさんに席を譲った。
笑顔でお礼をするおじいさんに笑顔で応える中年女性。
前に立っていた若い男性が、私を一瞬睨んだような気がした。
どうも、配慮は速度が大事らしい。いつも私の長考型の配慮は伝わらずに飛散していく。
優しさについて考え込むより、脊髄反射で優しさを実践することの方が、優しい人だ。
などと哲学決め込んでいても、依然として優先席を包む軽蔑の空気は淀んだまま停滞していた。
私は耐えられず、最寄りの一つ前の駅で降りた。
帰り道、落ちていた空き缶を拾ってゴミ箱に捨てたが、誰も見てくれていない。
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