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メロスは捻挫した

メロスは捻挫した。

自分の身代わりに暴君ディオニスの元に置いてきた無二の友人セリヌンティウスが囚われている形場へ戻っている最中の出来事だった。

メロスは思索した。

自分の命なんて全く惜しくないし、セリヌンティウスを身代わりにするつもりなんて毛頭なかったが、捻挫した足は下手したら骨までいってる感じもするし、この足でいくら走っても現実的に間に合わないし、やる気だけでは乗り越えられないことはある。

自分可愛さにわざと捻挫したわけではないし、これはもう運命なのだ。と自分に言い聞かせ、友人セリヌンティウスを偲び、号泣した。

そして、もう間に合わないことは決定したので、落ち込んでいてもしょうがないと気持ちを切り替え、酒場で一杯やることにした。

チキン南蛮をつまみにハイボールをやっていると、隣にいた小太りの中年男性が話しかけてきた。

話の流れでメロスが事情を説明するとその中年男性は酔ってテンションがあがっているのか、友人の命を救う為ならと、乗ってきた馬車で形場まで送り届けてくれるという。

メロスは酒を飲んだ後に馬車に乗るのは飲酒運転にならないかと一応確認したが、そんなことを気にしている場合ではないと諭され、結局送ってもらうことになった。

中年男性は馬に鞭を叩き、形場へと急ぐ。

その様子をみたメロスは、中年男性のこの必死ぶりだと多分間に合うだろうと、ここまでの疲労と飲酒による眠気もあったので馬車の中で仮眠した。

メロスは目を覚ました。友人セリヌンティウスが囚われている形場が眼前に広がる。

夜通し馬車を飛ばした中年男性はヘトヘトにへたり込みながらも、刑場の方を指差してメロスを急かす。

メロスは中年男性に軽く会釈をして、大げさに足をヒョコヒョコとひきづらせ、形場に突入した。間に合った。

形場の群衆はメロスに気付き、歓声をあげた。

メロスは、はにかんで、群衆に両手を挙げ応える。

そして、メロスは友人セリヌンティウスが囚われている磔台に上った。

セリヌンティウスは涙をため、メロスに語りかける。

「メロス、私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」

メロスは寝起きで機嫌が良くないこともあり、渾身のボディブローをセリヌンティウスにお見舞いした。

頬に平手打ちが来ると想定していたセリヌンティウスは一瞬、驚き、苦悶の表情を見せたが、無理矢理に笑顔を作った。

暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。

「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」

どっと群衆の間に、歓声が起こった。


その後、メロスは勇敢な国の英雄として、生涯、尊敬されつづけた。


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