最近聴いているアルバム2023.02
Travis 『12 Memories』(2003)
純朴なFran青年を怒りの淵に追い込み、落胆の底に突き落としたのは、イラク侵攻だった。初めての荒ぶる感情を筆圧の濃いペンに込め、灰色のメロディに託した。Andyのギターはかつてなく乱暴なプレイでFranに見事に応えた。怒りと祈りに溢れた素晴らしい力作。
ここでの目覚めがバンドを一皮剥けさせ一段上のステージに向かわせるかと思いきや、次の4年後のアルバムでは子供が産まれた喜びを素直に表現していた。あのアルバムでのFranは心から喜び、心から楽しんでいた。全てのロックバンドがU2になれるわけではないし、なる必要も無いんだな、と感じた瞬間だった。
Damon Albarn 『Everyday Robots』(2015)
「どこに行くかは知らない、でもどこにいたかは分かってる。」アルバム一曲目、冒頭のセリフに、本作のDamonの心境が全て表されているように思う。ブリットポップのトラウマと反省がこの人のソロキャリアの根底にあり続ける。灰色の空の下、無数の人々が各々の日常を送っている。Damonもその中の無名の一人として、浮ついたところのない、生活の音楽を演奏している。
Bill Ryder-Jones 『West Kirby Country Primary』(2015)
ロウティーンの時に弟を亡くしたことが相当ショックだったため、それ以前の記憶は曖昧にしか覚えていないらしい。幼少期のことが恋しくてたまらない彼は、失われた灰色の記憶を、音楽の中で探し続けている。ノスタルジーの海に漂う心地良さと焦燥感が彼の音楽に有るのは、それが理由だ。私もそんなノスタルジアに浸りがちな人間なので、彼の音楽は芯から胸に響く。"Daniel"と"Wild Roses"はビックリするくらいの名曲。
Radiohead 『A Moon Shaped Pool』(2016)
Radioheadの歴史は、ドラマーの技量不足をどう解決するかの歴史であったと言い換えても良い。唯一にして最大の弱点はドラムの弱さであり、それを打ち込みにしたり、ドラマーを2人にしたり、Jonnyがパーカッションを叩いたり、本作ではドラムの比重を減らしたりして、その工夫がバンドの能力を常に拡張し続けてきた。まさしく必要は発明の母であった。しかし2022年、ThomとJonnyは遂に「Phil Selwayを使わない」という禁じ手をThe Smileで解禁した。それがバンドの今後にどのような影響を与えるか気になる。
The Japanese House 『Good At Feeling』(2019)
失恋のアルバムが好きだ。失恋した時にこそ、普段は見えないその人の本質が自然に滲み出てくるからだ。本作はMarika Hackmanとの失恋の失意の中作られた。自暴自棄な歌詞とそれを歌うハスキーボイスが物悲しいメロディと洗練されたサウンドに乗って迫る様は圧巻。青空を仰ぐ平原の中で、Amber Bainだけが真っ赤に燃えている。
この人はいきなり失恋アルバムでデビューしたが、今年出るであろう新作がどうなっているか楽しみ。個人的には、No Romeにも同じことを思うが、The 1975からは離れて独自の音を作っていってほしい。(Mattew Healyの例の騒動とは関係無く、もっと独自の固有の音を聴きたいという意味)
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