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Swim Deep 『There's A Big Star Outside』(2024)

7/10
★★★★★★★☆☆☆


バーミンガムのインディポップバンド、5年ぶりとなる4thアルバム。

まずこのバンドの経歴と、私のこのバンドへのを思い入れを書いておきたい。

デビュー作『Where The Heaven Are We』がリリースされた2013年は、バーミンガムでFelt, Primal Screamの1st, The Stone Rosesの1st, Blurの1stに影響を受けたようなインディロックバンドが盛り上がりを見せており、Swim DeepはPeace, Jaws, Superfoodらと共にB-Townと呼ばれていたそのシーンの中核を担っていた。

そのデビュー作は何というか、、淡く薄く軽いパステルカラーのアルバム。ナヨナヨした肉体的/精神的な弱さを「これが普通なんですけど…何か?」みたいな顔で当然のように演奏しているのが新しかった。絶賛モラトリアム中の大学生にとって、明確な態度を求める世のしがらみを飄々と軽く飛び越える本作の虜になるのに、時間はそうかからなかった。曲もポップだしルックスも良かったので、圧倒的な存在感を持つPeaceに次ぐポップな二番手として活躍していた。

2nd『Mothers』は2015年にリリースされた。これまた驚かされたアルバムで、なんか悪い薬でもやってんじゃないかというほどハネるシンセポップ。リズムはなぜかテムズヴァレー。気味悪いほどポップな曲に挟まれるのは1st以上に虚脱した放心状態のサイケ。日本の風営法をテーマにした最後の曲は8分間トランス状態。これほど思い切った作風を、しかし1stのとき同様当たり前みたいな顔をして演奏しているのを見て、なぜか誇らしく、そして胸が熱くなった記憶がある。今聴いても近いものが見当たらない不思議なアルバム。

それを聴いた私は当然次を切望したが、2019年の3rd『Emelard Classics』まで4年も待たねばならなかった。結果、縮小再生産みたいな曲群が私の心を掴むことは無かったし、何よりあんなに好きだった夢見心地な彼らの音が就職したての私にとっては空虚に響くというのがショックで、それっきり、このバンドは「大学時代に好きだったバンド」として過去のものになっていった。

しかし気まぐれで聴いたこの4thが意外にも良い。

サウンドはこれまでのような特定のサブジャンルにフォーカスするものではなく、オーソドックスなポップロック/ソフトロック/シンセポップ路線。感傷的だが悲しい感じはせず心がほぐされていくような優しい響きがある。キラキラポップに仕上げずあえてTrebleを削ってこっち路線に持っていったのは大正解だし、そのためにBill Ryder-Jonesをプロデューサーに選んだ人選も的確すぎる。

それにしても曲が良い。パキッとしたサビを歌い上げるのではなく優しい美メロ(死語)を優しい声で歌う。5点満点で4点の曲が11曲流れるように続く。全曲同じくらい良い曲なので一曲だけ挙げる必要は無いが、強いて挙げるなら”Very Heaven”と"So Long, So Far"は特に強い存在感を放っている。”Glitter”は1st時代を思い出させるシンセリフ主体のポップソングだが、キラキラ感より落ち着きが先に来るちょうどいい味付け。

かつて彼らの弱さだと感じていたのは実は優しさだったのかもしれない。私は自分の優しさをどこに忘れてきたんだろう。そんなことを考えてしまうほど、このサウンドとメロディの魅力は強い。疲れているけど何か耳に入れたい人はぜひ聴いてみて。


↑1st収録曲。キャンバスの右上の方に「BTOWN」と書いてある。この言葉は元々メンバーとPeaceのHarrison Koisserが仲間内で使っていた言葉だったが、メディアに取り上げられるようになって困惑したとのこと。しかしいつ見てもドラマーは可愛い。

↑2nd収録の突然変異的な曲。特に突出した音楽的才能があるわけではないと勝手に思い込んでたらこんな曲を出してきたので当時は相当ビビった。




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