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最近聴いているアルバム2024.06


Pink Floyd 『Meddle』 (1970)

私はこのバンドの特に『狂気』〜『The Wall』の4枚が大好きで、それらの音楽的完成度とストーリー性の両立は人間の仕業とは思えないし、Apple Musicのオールタイムベストの1位は『狂気』か『スリラー』以外あり得ないと思っていた(それが28位だったのを見て、2024年におけるこのバンドの影響力はかなり低いのだと思い知った)。

本作は「初めてクリエイティヴィティを獲得した」とメンバーが語っている通り、後の覚醒を予感させる緊張感マックスの大曲が最初と最後に入っている。しかし間の4曲はかなり牧歌的。曲自体はどれも良いと思うけど、この落差が受け付けない。覚醒前の試作品であってこれ一枚でどうこう語るようなタイプのものではないように捉えている。



Steven Wilson 『Grace For Drowning』 (2011)

1時間23分の大作だが2枚組に分けられているので気軽に聴ける。彼の中では比較的往年のプログレに近い。テクニカルなリフを織り交ぜるヘヴィなアンサンブルももちろん存在し、そこでは『Lizard』期のKing Crimsonに近づいている。とはいえ全体的にはリフを軸にするのではなくムードとメロディ、そして一つ一つの楽器の響きや空間のデザインに焦点を当てる静謐な作風で、それに一番近いのは『狂気』以降のPink Floydだろう。

1stで陰鬱な裏ロックの歴史をおさらいし、本2ndで往年のプログレッシヴロックの伝統をなぞり、3rdでヘヴィな演奏を強めながら完璧なプログレを作り上げた。ここまでは正統的な進化という感じ。4th以降は直線的進化をやめ、横方向に枝葉を広げていくような作品を発表し続けている。それこそが語義通りの「プログレッシヴな」ロックだと思うが、皮肉なことに多くのプログレファンは5th以降ついていけなくなりファンを辞めたらしい。実際Stevenも6thリリース時に「プログレファンに去られる準備はできている」とか言ってたもんな。



Travis 『Good Feeling』 (1997)

もちろんソングライティングはチャーミング。しかしブリットポップという時代に合わせて元気いっぱいなロックを装っているが、明らかに柄じゃない。高音を無理して出している感じが聴いてて辛いし、そもそも声質がロックに合っていない。次作での内省的な方向転換は大正解だったなと本作を聴くたびに思う。

「Travisとはこういうバンドだ!と俺が言えるのはあと6年キャリアを積んでから」と本人がリリース当時語っていた。その言葉通り、6年後の『12 Memories』がTravisの到達点だと思っている。



Rachel Goswell 『Waves Are Universal』(2004)

Slowdiveのフロントウーマンの初ソロ作。シンプルなフォークロック。何か凄い個性があるというわけでは全然ないが、一曲目"Warm Summer Sun"のメロディが好きすぎるし、タイのペチャブリとかのフィールドノイズ(波、虫の音、ざわめき)が使われていて親近感/安心感を覚える。出会えてよかったなと思えるアルバム。



Simon Scott 『Bunny』(2011)

同じくSlowdiveのドラマーのソロ作。この人は完全な"物音系"アンビエント作家。ギターもシンセも不協和音、ベースはフリージャズ、そこに雑踏ノイズが重なる、完全に意味を排したアブストラクトな作品。それでもこの人の中では比較的聴きやすい作品だと思う。深夜にベランダでバンコクの夜景を眺めながら聴いたところ、暗い空に吸い込まれるような悲しい感覚を覚えたのですぐに聴くのをやめて寝た。



Glasvegas 『Euphoric /// Heartbreak \\\』 (2011)

MuseSuedeManicsがやり残した宇宙規模のロックを大真面目にやっている。Floodが手がけた天の川のようなシューゲイザーはナルシスティックな歌唱と相性抜群だ。歌詞は暗い密室で悩むマイノリティの気持ちを歌っている。それを小さなフォークソングとかではなく巨大なスケールで演奏するところにこのアルバムの面白さがあった。

残念ながらこのバンドの支持層は宇宙にもナヨナヨした悩みにも興味のない労働者階級の野郎共だったので、本作は商業的失敗に終わりバンドもスケールが小さくなっていったが、暗い部屋で悩む若者には2024年の今でも一聴の価値があると思う。



Loyle Carner 『Not Waving But Drowning』 (2019)

このアルバムにそこまでハマった記憶は無いが、例のライヴ盤を聴いたら”Ottolenghi”, “Still”, “Loose Ends”があまりにも良かったので慌てて戻ってきた。良い曲が多いのは間違いないけど、結論から言うとライヴ盤の方がはるかに良い。ボーカルとドラムが全然違う。こっちにハマった後でライヴ盤を聴いていたら二度と楽しめたんだろうなと思う。日曜の晴れた昼下がりに部屋の掃除でもしながら聴くのにちょうど良いヒップホップ。



Wunderhorse 『Cub』 (2022)

とても素晴らしいバンド。奇を衒わないオーソドックスなオルタナティヴロックだけど、特別なバンドだけが持っている余韻と情景がある。フロントマンJacob Slaterはシンガーソングライターとしても活動している典型的な天才型のアーティストで、自らのバックボーンと信念に基づいた力強い曲を多く生み出している。

あえて例えるならNeil Youngに影響を受けたグランジという感じで、それはつまりNirvanaだけど、しかし切羽詰まったNirvana感は無い。むしろPearl Jam『Yield』, My Morning Jacket『Z』, Kings Of Leon『Only By The Night』のような骨太過ぎて逆に余裕と余白が生まれてるタイプのバンドに近い。デビュー作でこの貫禄は普通ありえない。







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