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最近聴いているアルバム2024.07


シューゲイザーとオルタナティヴロックの境目ってどこにあるんだろう。そんなことを考えさせられるアルバムたち。


Swervedriver 『Mezcal Head』 (1993)

“Duel”

オリジナルシューゲイザーの重要バンドとされているが、聴けば聴くほどシューゲイザーの定義が分からなくなる。ボーカルは男臭いし、マスタング(アメ車)大好きとか俗なこと歌ってるし、グダグダメロディには儚さのかけらもないし、ギターにはフィードバックノイズもリヴァーブも無いし、ベースとドラムはガレージロック的な躍動感に溢れているし。影響を受けたというT-Rex, The Stooges, MC5, Husker Du, Sonic Youth, Dinosaur Jr.の系譜だと思って聴くとしっくりくる。良さが分かるまでにかなり時間を要したアルバム。


Catherine Wheel 『Chrome』 (1993)

“The Nude”

Swervedriver同様、シューゲイザーというよりはオルタナだと思うが、とは言えディストーションの壁は粒が細かく少し遠くで鳴るミックスになっているし、"Pain"や"The Nude"を筆頭にメロディにはUKらしい叙情的な湿っぽさがあるので、シューゲイザーと括られるのも分からないでもない。SwervedriverDinosaur Jr.ならこっちはThe Chameleonsだと言えるかもしれない。なので聴いてすぐに良さが分かったアルバム。

1994年以降は他の多くのシューゲイザーバンドと同じようにブリットポップに鞍替えするという選択肢もあっただろうし、実際本作の"Show Me Marry"を聴けばそのポテンシャルもあったとは思う。だがこのバンドは時代に逆行し、よりハードな路線に向かっていった。信念があるバンドはかっこいい。

ちなみにDeath Cab For CutieInterpolのメンバーはこのアルバムに多大な影響を受けており、それぞれ「このアルバムがなければ自分達は存在していなかった」と語ったことがあるらしい。しかし肝心のソースがこのバンドのボーカル自身だというので信憑性には欠ける。ちなみにSwervedriverはアメ車好きだが、このCatherine Wheelのボーカルはポルシェ好きらしい。車の趣味が音にも若干現れてるのがなんか面白い。


Adorable 『Against Perfection』 (1993)

“A To Fade In”

憂いを帯びたエモーショナルで蒼いギターロック。UKロックと言われて10人中6人が想像する音が鳴っている。逆に言えばプラスアルファの面白みや個性は皆無。「シャリ本来の味を楽しんで頂くために当店の寿司はシャリのみです」という寿司屋があったとして流行るわけないのでこのバンドが売れなかったのもしかたない(Creationレーベルとの壮絶な確執があったらしい)。

ところで90年代UKロックは順当に行けばThe CureThe Smithsの暗い音やCocteau Twinsのドリームポップをそのまま発展/進化させていくのが正統路線だったはずで、その世界線ではこのAdorableThe AuteursSlowdiveみたいなバンドが活躍していただろう。しかしThe KinksThe BeatlesThe Rolling Stonesの影響を受けたバンドが突如大量発生したのでそうはならなかった。こっちの世界線も見てみたかった。絶対ブリットポップよりも良い時代になっていたはず。


My Vitriol 『Finelines』 (2001)

“Losing Touch”

グランジとシューゲイザーという90年代の二大ムーヴメントをたった一作で完璧に融合し時代にピリオドを打ってしまった奇跡的なアルバム。ちょっとレベルの違う音を出している。このバンドがコンスタントな活動を続けていれば、00年代のUKロックの地図は変わっていたかもしれない、それだけの力を感じる。ところでボーカルのSom Wardnerはシューゲイザーと呼ばれることを嫌がり、”nu gaze”となら呼んでもいいと宣ったようだ。何の違いがあるのかはよく分からない。


Deftones 『Saturday Night Wrist』 (2007)

“Cherry Waves”

前三作でヘヴィロックを極めたという自覚があったのか、本作ではギターの音色が違うものに変わっている。当初はよりテクニカルなマスメタル方向に行こうとしていたらしいが、それをやめ、ヘヴィシューゲイザーとも呼べる浮遊感マシマシの方向へ進んだ。My Vitriolを前座に選んだこともあるChino Morenoの趣向を考えると、当然と言えば当然の方向性。キャリアの中では異色の作品なので最高傑作として挙げられることは少ないが、カルト名盤として今でもこのアルバムの独特の魅力に取り憑かれる人は多い。


Hum 『Inlet』 (2020)

“Step Into You”

そんなDeftonesに多大な影響を与えたHumの出世作と言えば『You’d Prefer An Astronaut』(1995)で、あの時点で既にオルタナ・ハードコア・エモなどを織り交ぜるかなりの折衷志向だった。

約20年ぶりの本作では、シューゲイザーやポストメタルの要素も強め、「オルタナティヴなヘヴィギターミュージックをすべて溶解し鋳造しなおした歴史総括盤」みたいな様相を呈している。「どのジャンルにも重なり合うせいで逆にどのジャンルにも属してこなかったバンド」が、全てのジャンルを飲み込んだ総括作を遂に作り上げたのだ。これはもうオルタナティヴロック史に残る傑作と言うしかないだろう。

ちなみに、1998年のHumのライブの前座はSwervedriverが務めていた。米英のはぐれもの同士が実は当時接触していたというのはとても面白い。


Pure X 『Pure X』(2020)

“Middle America”

シューゲイザーには属さない門外漢バンドが自らの音を追求した結果、期せずしてシューゲイザーに近接した音を生み出し、個性の打ち出しに苦労するシューゲイザー専業バンドを鮮やかに抜き去ってしまうケースが存在する。アルバム単位だとThe Horrors『Primary Colours』、Cigarettes After Sex『Cigarettes After Sex』、Bill Ryder-Jones『Yawn』などがそうだし、曲単位だと枚挙に暇が無い。

Pure Xもまさにそれ。クランチ気味のクリーンギターはコードストロークはせず繊細なアルペジオ/単音ベースだし、フォーク的な歌心を重視してボーカルを前面に出したミックスも全然シューゲイザーじゃない。そこだけ聴けば単なるサイケフォークだ。だけどそこに豪快なディストーションギターを一本乗せたことで、シューゲイザーではないのにシューゲイザーの陶酔感を意図せず獲得してしまった。ジャンルの狭間で隠れた光を放つアルバムは魅力的だ。


Heavenward 『Pyrophonics』(2023)

“Tangerine”

SwervedriverCatherine Wheelがやってきたことを2023年になって洗練させたのが本作だ。サウンドの面ではそつなくクリーンにまとまっており明確な個性は感じないが、とにかくメロディが良い。この手のバンドは昔からどれもメロディの弱いバンドが多かった。別にそこはマイナスポイントではないが、このバンドはそこにシンプルで強いメロディを載せてきた。Teenage Wristからの離脱がこういう形で結実するとは思っていなかったし、今となってはTWより注目している。次作がサウンド面の方でどういう発展を遂げるのか大注目。


最近買ったレコード

アビーロードとPrefab Sproutの名作を購入。まだ聴いてない。8月はThe Blue Nileの限定リイシューとAjaのリマスターが届くので楽しみ。10月にはSuede 『Dog Man Star』の30周年リイシューも控えている。

Catherine Wheelのボーカルもこのポルシェのレゴ持ってたりして



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