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The Pineapple Thief 『It Leads To This』 (2024)

7/10
★★★★★★★☆☆☆


Porcupine Treeと並びイギリスのネオ・プログレッシヴロックを20年以上リードしてきたThe Pineapple Thiefの14枚目のアルバム。

プログレの枠に括られてはいるが、8作目の『Someone Here Is Missing』(2010)以降はどれも10曲前後で約45分とタイトかつシンプルに仕上げられている。高度な演奏技術と高いメロディセンスを持っているが決して誇示することなく、奥深く薄暗い、言ってみればUKロックの原風景とも言える世界を作り上げる。「King Crimsonが演奏するPink Floyd」とか言われていたが、大袈裟だが言いたいことはよく分かる。

本作も大きく変わっていない。ポストロック/アンビエント系のゆったりした広い空間にヘヴィなディストーションギターが切り込む。本作では特に静寂に重きが置かれている。例えば早速一曲目”Put It Right”ではギターの残響とアンビエントなシンセが静寂に満ちた暗闇を作り出している。また、”The Frost”で印象に残るのはヘヴィなギターリフよりも寧ろその後(”We fall into the ocean floor....”)の海にゆったり揺られているような感覚。この感覚こそが本作、ひいてはこのバンドの基本トーンであり、その遅効性の気持ち良さに気付けるかどうかがこのバンドを楽しむ鍵であると思う。

一方で、ただ暗闇にボヤッと浮かんでいるような音にはなっておらず、シャープで筋肉質な印象を残す。それは間違いなくドラム由来で、11作目『Your Wilderness』(2016)から参加しているGavin Harrison(※King CrimsonとPorcupine Treeも兼任)の演奏は本作において明らかに飛び抜けた存在感を放っている。特にスネア、タム、シンバルを多い手数で繊細に叩き分ける技術においてはプログレ界においても右に出るものはいないと思う。中でもハイタム・中タムを左右のチャンネルに細かく振り分ける手法は非常に個性的で、2022年のPorcupine Treeの傑作『Continuation/Closure』でも多用されていたものだ。YouTubeにも彼のプレイ動画はいくつも上がっている。

はっきり言って曲も演奏も非常に地味で、一回で良さが伝わるタイプの作品では決してない。即効性・過激性・話題性・拡張性が求められるサブスク時代に一番向いていないタイプのアルバムだと思うが、それでもこの奥深い作品に多くの人が魅了されることを願う。

どの曲も同じくらいよいが、比較的キャッチーなのは”Rubicon”, “The Frost”など。ベストソングは水の波紋のように静寂が広がる”Put It Right”, ”Now It’s Yours”。

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