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公会計のプロ・田中弘樹さんに聞く!自治体財政に公会計が必要なワケ(前編)

自治体の予算を管理する財政課の職員なら、税金の使途や流れを把握するために公会計の知識はぜひとも押さえておきたいところです。しかし、「今の業務とは直接関係ないので興味がない」「気にはなるけれど、忙しくて公会計を勉強する時間も気力もない」という方も多いのではないでしょうか。そんな職員の方に向けて、自治体の財政を考える上で公会計の知識がなぜ必要なのか、公務員や学生などで勉強会を開催するグループ「ワンエヒメ」の田中弘樹(たなか・ひろき)さんに解説していただきました。
 
【田中弘樹さんProfile】
現役の自治体職員。税部門、会計部門、財政部門と、長く会計に関わってきた 会計のスペシャリスト。
平成20年総務省「地方公会計の整備促進に関するワーキンググループ」委員に抜擢。この他6つの公会計に関するワーキンググループでの委員経験あり。
日本公認会計士協会シンポジウムのパネリストや早稲田大学公会計改革推進シンポジウムのパネリストとしても活動実績がある。
株式会社ホルグ主催の「地方公務員アワード2017」を受賞し、2019、2020年には同アワードの審査員を務める。
全国の公務員がオンライン上で知見を持ち寄り集まる「オンライン市役所」では、趣味系部門のマンガ・アニメ部部長を務める。
 

財政課職員が公会計を知っておくべき理由―財政に関する住民説明が容易になる―

 

―田中さんは財政のご担当になったときに、なぜ公会計の必要性を感じられたのでしょうか?―

 私は、2006年に財政課に異動して公会計の担当になったとき、前任者からの引継ぎでは、財務諸表を決算統計から作ることになっていました。
しかし、実際には何も進んでいませんでした。
その理由は、昭和〇年の決算統計の何表・何行・何列の数字は示されたデータはあったのですが、肝心の何表・何行・何列の数値が何の数値か分からなかったからです。
年度によって行数や列数が違うこともありました。
近隣の自治体でも当時の決算統計が残っている自治体はなく、何の数値か特定することができなかったのです。
運良く、私が異動となったその年度の早いうちに総務省から何の数値か項目名が示されたデータが提示され、ようやく作成に取り掛かれるようになりました。
財務諸表でなくてもいろいろなデータを使って説明することはできますが、住民も含め多くの方に読んでもらえるとしたら、最も効率よく正確に情報が伝わるのが財務諸表ではないかと考えます。
商工会議所の簿記検定試験を受験した人は2,700万人以上。
つまり、公会計を学び、財務諸表の形にして公表し、民間と違うところを伝えることができれば、住民の方にも理解して貰いやすいということです。

幻の住民説明会

私は、十数年前に財務諸表を作って公表したあと、公認会計士とか税理士とか銀行員を呼んで、財務諸表の説明会をしたいと考えました。
財務諸表やセグメントの情報などをきっちり作り込んだものは、わかる人に見てもらうのが一番かなと思ったからです。
説明会を二段構えにして、昼間に前述の公認会計士や銀行の人に見てもらい、夕方・夜には住民に楽しくわかりやすい説明会をしたいという話をしたのですが、実現には至りませんでした。
財務諸表を読める人に見てもらいたい、コメント貰えたらと思っていましたが、ちょっと財務諸表が分かる人に相談した感触では
「私になんの権限もない自治体の財務諸表を見たところで、何をコメントするのか、その必要性を感じない」
「私の時間を何時間もとって、私になんのメリットがあるの」
と言われたときは、うまくコメントを返せなかったことを思いだします。 

―「公会計の知識が業務に必要」という意識は持っている自治体職員の方は多いのでしょうか?―

組織や職員個々によってさまざまだと思います。
その気になれば固定資産台帳を整備して、全てのデータをわかりやすく必要な書類を作り込んでいけば、財務諸表がなくても説明はある程度できます。
私も財務諸表を公表してから数年後ですが、決算統計そのものを町のホームページで公開し、さらに「決算カード」という事業ごと・施設ごとに決算情報を簡潔にまとめた資料を使って自分のまちの近隣のまちのデータを分析した「決算カードからわかること」という資料をホームページで公開したこともあります。
ただ、住民に説明するときに、一番説明しやすいインフラは財務諸表です。
財務諸表を知っている人はたくさんいるので、内部でのやり方はいろいろあるとしても、最後には財務諸表のスタイルで説明するのが最も正確に理解して貰えるのではないかと思います。それが公会計を知っておくべき理由の一つですね。

コストと資産の可視化にも使える


―財務諸表の作り方を知っておくと、財政課の業務にも役立つのでしょうか?―
 
そうですね。
直接的にではないかもしれませんが、自治体全体のコストと資産を可視化することで、まちの全体像や将来像をイメージするようになれば、すごく役に立っていると思います。
まずは簡単でもいいから将来をイメージしてみることが大事です。
コストは必要なもので、なくすべきはロスであることの意味を知ること。
たとえば、10万円の備品を8万円で買える代わりに、何人もの職員が何時間もかけて何かを対応する必要があった場合、2万円を得するために4万円の人件費を費やしてしまった。
この場合、人件費をコストとして考えていないと、8万円の備品を買う選択をし、その引き換えに職員が4万円分のサービス残業をする、あるいは残業手当が必要となって最終的に人件費が4万円多くなってしまう。
トータル12万円の費用が掛かっているが、備品購入費は予定していた10万円ではなく8万円で済んだので良かったとなる。
しかし、実際は職員に4万円分の負担を無報酬で押し付けている、あるいは人件費総額が4万円高くなっているが誰も気づくことはないという事態。
そのほかにも、備品をまとめて購入すると安くなるので大量購入したが、在庫を保管する必要ができたために新しくプレハブ倉庫をつくった。
大損である。
しかし、事業や施設ごとに収入と支出が一定期間をもって紐づけられていないため、まとめて大量購入にして安く済んだという事実と倉庫の建設は別ものとして扱われてしまったら、多くの人に気づかれないまま終わってしまいます。
民間でいうと減価償却や人件費はコストとして大きいところなのですが、単式だけでは、この二つがコストとして認識されず、前述のようにいろいろなものが歪んだ形で見えてしまうのではないかと思います。
施設も一回建てたら終わりで、そのあと人件費と減価償却がこれぐらいかかっているから今後の経営・運営をどうするか、という考えも不十分なように思います。
財務諸表があれば、施設別や事業別のデータがあれば、これまで、気にしなかった、ほったらかしになっていた部分に気づけるようになるのではないでしょうか。

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