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公会計のプロ・田中弘樹さんに聞く!自治体財政に公会計が必要なワケ(後編)

自治体の予算を管理する財政課の職員なら、税金の使途や流れを把握するために公会計の知識はぜひとも押さえておきたいところです。しかし、「今の業務とは直接関係ないので興味がない」「気にはなるけれど、忙しくて公会計を勉強する時間も気力もない」という方も多いのではないでしょうか。そんな職員の方に向けて、自治体の財政を考える上で公会計の知識がなぜ必要なのか、公務員や学生などで勉強会を開催するグループ「ワンエヒメ」の田中弘樹(たなか・ひろき)さんに解説していただきました。

【田中弘樹さんProfile】
現役の自治体職員。税部門、会計部門、財政部門と、長く会計に関わってきた 会計のスペシャリスト。
平成20年総務省「地方公会計の整備促進に関するワーキンググループ」委員に抜擢。この他6つの公会計に関するワーキンググループでの委員経験あり。
日本公認会計士協会シンポジウムのパネリストや早稲田大学公会計改革推進シンポジウムのパネリストとしても活動実績がある。
株式会社ホルグ主催の「地方公務員アワード2017」を受賞し、2019、2020年には同アワードの審査員を務める。
全国の公務員がオンライン上で知見を持ち寄り集まる「オンライン市役所」では、趣味系部門のマンガ・アニメ部部長を務める。
 
前編はこちら

財務諸表の作成で将来推計も可能に

 
それから、財務諸表で全体像をつかめるようになると、固定資産更新の将来推計もできるようになります。
自治体にはものすごい額の固定資産があり、それを更新しなければならないので、将来推計は非常に重要です。
これから自治体の使えるお金がどんどんなくなっていく中で何を諦めますか、という話をするときに、全体像・将来像を見て、何をどれだけ削減する必要があるかというところまで、セグメントの情報も入れながら突き詰めていかないといけないと思います。
そうしないと、行き当たりばったりで思いついたものからやめていったり、ある期間内にやめなければならなかったはずのものを続けてしまうことで、どこかの時点で突如お金が足りなくなったりしまう事態になりかねません。
たとえば、小学校の建て替えをずっと先延ばしにしていて、もう限界だとなったとき、建て替えのための一般財源が全く足りなくなってしまう危険性もあります。
施設建設には、一定の割合までしか借金できないルールが自治体にはあるので、借金できない部分は自分たちで持ち出ししないといけない。
でも、複数あると持ち出しの部分、いわゆる一般財源のお金すら確保できず、さらに基金も使い果たしていたとなると、施設を更新できない日がやってくるかもしれません。
そういうことを考えるためにも、資産の総量や減価償却の累計、負債や償還のデータが必要です。
自治体の場合は、小学校の校舎の更新をしない、小学校事業から撤退するなど言えないため、必ず施設を更新する前提で、バランスシートの資産総量と減価償却累計、基金の積み立て具合、借金の総量を常に見ておく必要があるかと思います。
 

公会計の学び方―「付箋紙仕訳ゲーム」で楽しく学ぶ―


 ―財政課の人が公会計を勉強しようと思ったら、やはりテキストで学ぶのでしょうか?-
 
そうですね。ただ、僕は読もうとしたらすぐに意識を失ってしまうほうです(笑)
 
―そうなんですね(笑)。田中さんはどうやって公会計を勉強されたのですか?―
 
業務を進める上で必要になったタイミングで調べていました。簿記の基礎的な知識など、古い情報でも問題ないものは図書館で調べ、ネットの記事もたくさん読みまくりました。あとは、新しい情報に関しては本屋を何軒も回って調べました。
 
―確かに業務で必要にならないと、なかなか時間を割いて知識を得ようという気持ちにならないのかもしれませんね。―
 
財政担当の職員さんは通常状態でもかなり忙しい状態であり、テキストで公会計や財務諸表の勉強をしようとしてもなかなかできないのが現状かもしれませせん。
ましてや、財務諸表をつくっても活用していない場合だと余計に徒労感があるのではないかと思います。
そのような中、僕は、財政の職員はもちろん、公営企業に異動になった人、学生や住民でも自分の自治体や学校、会社に関する財務的な情報を知りたいと思っている人には、いつでも知って貰えるよう、まちのホームページを会社のアニュアルレポートのような雰囲気で順番を考えながら公表していました。
上から順番に見て貰えると理解してもらいやすいようにホームページの資料配列を考え抜きました。
また、財務諸表ってどんなものかを簿記の知識がなくてもたくさんの人に理解して貰いたいとの思いから、ゲーム感覚で楽しく学べるようにできないか考えていました。
そこで私が思いついたのが「付箋紙仕訳ゲーム」です。
取引が発生したときの仕訳を付箋紙に書き込み、それを貼りかえるだけで仕訳から財務諸表ができることの意味をまるっと理解してしまおうていうものです。
学生や自治体職員でも、「私、数字苦手だし」「むつかしい話はちょっと無理」と言う人でも、このゲームを体験してもらうと
「ゲームみたいで楽しかった」
「数字が苦手という感覚が頭から消えた」
など言って貰えます。
こうしたゲームを通じて、まず「ちょっとだけ知るからはじめる」を体験してもらえることが大事だと思っています。
 今では千葉や埼玉、神奈川、奈良などで公認会計士の方などが折に触れて使ってくれたり、公務員の研修所でも、公会計の話をするときに使ってもらったりしています。
 

学んだことを周りと共有する

 
私は財政の担当になったときに、財政のことを自分が知ると同時に、財政課以外の人にも知ってほしいと思う部分がいくつかあり、それを何とか伝えたいと思い、一時期毎日昼休みにいろいろな財政の情報を職場内部のネットワークでチャットのようにして発信していました。
財政課の人しか知らないのも寂しいですからね。
そうすると、どうわかりやすく伝えるかということにどんどんフォーカスが寄っていきます。
現在も、たとえば水道管とか水道料金について、こんな値段で提供しているとか、施設の老朽化とか人口の分布とかを示した資料を作っています。
総務省で公会計のデータを公表しているので、フォーマットさえ作れば総務省のエクセルデータを取り込んで、いろいろな資料を簡単につくることができます。
たとえば、総務省のこの資料を使って愛媛県内の自治体を並べてみると、一人あたりの行政コストなどにばらつきが出ていて、これはなぜだろうというところから話をすると興味を持ってもらえます。
僕は、自分が知ったことは他の職員にも知ってもらいたいという思いがすごく強かったんです。
財政経験者だけが知っているという状態で終わっているのはとても残念なことだと思い、知っていることを周りに伝えたいと思いました。
付箋紙仕訳ゲームにしても、こうしたものを最初にやってから財務諸表の話をしていくと、非常にわかりやすい気がします。
 
―公会計の知識を実務に生かすために工夫されたことはありましたか?―
 
例えば、財務会計システムを更新する際に、支払伝票・収入伝票とかに仕訳を記載するようにして、毎日職員の目に触れるようにしたり、伝票が回るたびに会計でチェックするスタイルにしたりしていました。
そういうことをしていると、どんな仕訳が行われていて、それがどんなふうに財務諸表につながるのかがわかりますし、コストなのか資産なのかという意識も生まれます。
 

田中さんから財政課の皆さんへのメッセージ

 
みなさんは、どんなまちの将来を思い浮かべますか?
それと比較して現状はどうなっているか把握していますか?
そのギャップこそが課題であり、解決すべきものです。
それらを考えるためには、まち全体の情報や将来推計、何を残し、何を諦めるのか。
セグメントのデータがないと議論も始まらない。
まち全体のことを考えようとすれば、いろんな分野のさまざまな知識が必要で、自己学習を続けないと未来をイメージできない。
でも、それには途方もない時間が必要となります。
もし、いろいろな知見を持った人とたくさん繋がることができれば、その時間は大幅に短縮される。
財務や会計のことを知ることは、自分の組織はもちろん、自治体、地域、不動産、企業、銀行などの考えや行動が考えるきっかけとなり土台となる。
知り合いを増やす際にも役立つと思う。
子どもや若い人の単なる思いつきが上手くいくことはたまにあるが、基本、知識や人脈が豊富な人の思いつきとは全然違うもの。
僕は、何かをイメージするとき、熟考するとき、知っておきたいものの一つは財務や会計のこと。
「これより天下のことを知る時は、会計 もっとも大事なり」
坂本龍馬の言葉です。

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田中さん考案の「付箋紙仕訳ゲーム」の詳細はこちらの動画で確認できます。
https://www.youtube.com/channel/UCbWxqzCvEMCEHcn1lcG9VGQ/featured
また、田中さんの取り組みはこちらの記事でもご紹介されております。
https://www.holg.jp/hito/tanakahiroki/
 

ありがとうございます!