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査定ノウハウ集(β版)が完成!

4月に開催しました「第2回新しい自治体財政を考える研究会」でご紹介させていただいた「査定ノウハウ集(β版)が完成しました!

※査定ノウハウ集の詳細はこちらから
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「財政課の査定のノウハウを集結「査定ノウハウ集」-第2回新しい自治体財政を考える研究会2/3」

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「第2回新しい自治体財政を考える研究会 査定ノウハウ集デモンストレーション」

今回は「査定ノウハウ集」の開発者である定野司さんにお話を伺いました。

属人化した知識(暗黙知)を、誰でも使えるノウハウ集(形式知)に

――「定ノウハウ集は暗黙知から形式知へ―」というのが大きなキーワードなのですが、このアイディアはいつ頃生まれたのですか?

もともと、予算編成システムの開発以前に自分がやっていた仕事の中で、暗黙知だったものがたくさんあったのですが、それらを形式知にしていきました。
例えば足立区時代、戸籍や国民健康保険の窓口を民間事業者へ委託する業務に関わったのですが、その際、「業務マニュアル」といったまとまったものがなく、各職員が個人的にまとめていたノートしかなかったことがありました。

翻ってみると、予算の査定も似たようなところがあります。
財政課は、すべての事業に精通していて色々と議論できるわけではありません。
原課の方が持っている知識を上手に聞き出しながら
「もっとこういうものはないの?」
とやっていくのが査定で、財政課職員はこのノウハウを身に付けていきます。
ただ、個人が身に付けたノウハウが蓄積される仕組みがなく、人事異動のたびに、新たに着任した職員がゼロからノウハウを蓄積していくことが繰り返されていたんです。
だから、これを整理しないといけないとずっと思っていました。
そのときに㈱WiseVineが「世の中をよくしよう」「財源に困っている自治体の役に立ちたい」と開発を進めていた予算編成システムの開発に携わることとなり、この中で「査定ノウハウ集」も開発することとなりました。

今はどこの自治体も
「財源をどう捻出するか」
と困っていて、これからも困るはずです。
これまでいろいろな知恵があったはずなのに、それが埋もれて口伝えになっている。
仮に自分の自治体には知恵が残っていたとしても、他の自治体とは比較できないわけです。
ここを広げていければ、面白いことができるんじゃないかと思ったのが発端です。
40年役所にいて成しえなかった、暗黙知を形式知にすることの最たるものが査定ノウハウ集ではないかと思います。

――なるほど、足立区職員時代からずっとそういう思いがあったんですね。

そうですね。
財政課にいたときに包括予算制度を導入したので、原課にいたときも、どうしたら原課が予算を上手に使って効果を上げられるのか考えていました。
財政課だけでなく、全課にそういうノウハウが必要だったということです。

――査定ノウハウ集は原課にとっても有益な情報が詰まっていますよね。

今はまだデータも多くないから、財政課の査定ノウハウみたいに見えますが、結局、事業をやるのは原課なので、事業ができる査定になるはずなんです。
査定とは何かというと、事業をどうやって執行するのかというノウハウです。
そうだとすると、これは財政課が切ったり貼ったりするための道具ではなく、原課が事業を運営するうえでの創意工夫のかたまりだと思います。
だから、査定のノウハウではなく事業のノウハウかもしれませんね。
だから全庁で使えるんです。

また、「査定ノウハウ集」というネーミングには、知恵を出したら1人のものにするのではなく、組織のものにして、さらに他の自治体にも提供しよう、という思いも込めています。

――新しい自治体財政を考える研究会が掲げている「自治体同士、連携して頑張っていきましょう」ということにつながりますね。

そうです。
ただ、今それを阻んでいる壁というのが
「どこまで情報を出していいのかわからない」
ということなんです。
個人情報ではないので、僕は出しても構わないと思うのですが、そういったことを理解していただいてどれだけ情報をいただけるかが大事だと思います。

また、今後は、事務事業評価などとどうやってリンクさせていくかが大きなテーマになってくると思います。
事業評価は、予算を使って何がどう変わったのかを見るわけですよね。
すると、予算の査定のノウハウ、事業のノウハウ、そしてその結果としての事業評価がわかれば、複数の中から選択できると思います。
必ずしも安いものがいいわけでもないので、それぞれの自治体に合ったものを選択できるようになるのではないでしょうか。
例えばごみ処理の話だと、うちの町には処分業者がないとか、リサイクルして分別したけれど、それを運ぶのにお金がかかるから持ち出しになるとか、町によって違いがあるわけです。
逆に、燃え残った灰をセメント化できる企業がたまたまあって、低コストで処分をお願いできるとか、あるいは処分をお願いするのではなく買ってもらえるとか、全国にそういった色々なノウハウがあります。
ほかの仕事でもそういうことがたくさんあるので、それを拾っていけばいいものができると思います。

――もう1つ査定ノウハウ集の肝となるのが、査定の視点となる「軸」の設定だと思います。この軸はどうやって生まれるのでしょうか。

それは様々なのですが、どこの自治体にも色々な人がいて色々なことをやってきているので、軸はどこにでもあるものだと思います。
それが形式知になっていなければ、できるだけ形式知にしていきます。
すると
「この事業の軸はこれだったのか」
ということがわかってくると思います。
そうなれば、自分の頭の中になかった新しい軸が見えてくるので、それを査定ノウハウ集に足し、みんなでシェアしていく、というのが理想的な軸のあり方だと思います。

――「こういう検索をしたらこういう事業・軸が出てくるから参考になるよ」という感じで、財政課と原課の情報共有もしやすくなりそうです。

そうですね。
財政課と原課がミュニケーションしながらコラボレーションしてクリエイションしていくという、まさに21世紀型の仕事です。
加えてクリティカルシンキングですね。
従来のことにとらわれず先入観を捨てて考えるということです。
これは財政課も原課も同じです。

――査定ノウハウを作ったときにこだわったところはありますか?

やはり事業を見るときに、1つの軸ではなく2つ以上の軸を考えておく、というところです。
それから、従来にはない新しい軸が当てはまらないか考えました。
今の査定とは違うパターンを持って来られないかということです。
クリティカルシンキングだから、従来のものに縛られず、もう一歩先に行ける手法はないのか考えました。
ユーザーの皆さんにも、それを考えながら使ってもらうと面白いことができるのではないかと思います。

――査定ノウハウ集の中身が正解というわけではなく、新しい考えが生まれるためのきっかけや気づきということですね。

そうだと思います。
「あの町ではこういう査定をしていた」
とか
「うちよりも人口が多いのに経費はこれしかかかっていない」
といったことがわかります。

地方公務員は、自分の自治体の市民のために仕事をしているのだけれど、同じ仕事は他でもやっているので、ある自治体の手法でこれだけ合理的にできたとなったら、他も真似してくれるわけです。
そうすると自分の勤める自治体の市民のためだけでなく、全国の自治体全体の刺激になります。
1億2千万人を幸せにできる可能性だってあるわけです。
これは地方公務員のやりがいだと思います。
公務員予備校で公務員試験を受ける人に話をすることもあるのですが、彼らにはそういうことを目指してほしいという話をよくします。

査定ノウハウ集(β版)は、まだ、生み終わった直後の卵みたいなものですね。
これから大きく育てていくのは、私ではなく皆さんです。
皆さんの育て方によって大きく化けるのではないかと思います。
これを使う人たちがどこかに集って、議論するきっかけにしていただいてもいいですね。

財政課は「いい意味でのエリート意識」を持とう

――最後に、査定ノウハウ集を使っていただきたい自治体の財政課職員に対して一言いただけますか?

財政課の職員は選ばれたエリートだと思います。
辞令が出たからしょうがなくやっているんだと言う人もいるかもしれませんが、やはり原課で実績を積んでいる方が財政課に選ばれていると思うんです。
ギリシャ神話では社会のために尽くした人が死後楽園に行けるのですが、その楽園の名前が「エリシオン」でこれが「エリート」という言葉の語源なんです。
だから、「エリート」とは良いことをしたというのが前提です。
だけれど、過去に悪いことをしたエリートもいるので、日本ではエリート=悪い奴というイメージがありますよね。
よく「エリート意識は捨てろ」と言われることもあります。
その意識も重要で、財政課はあくまでも役割分担の1つとして仕事をしていると思っていいのですが、一方でエリートだと思うことも重要です。
それは目の前に課題があるとき、自分なら必ず解決できると思うということです。
財政課の中だけでなく現場でも色々な難題が起きていますが、そういうときに現場に行って、一緒に解決するのがエリートである財政課の仕事だと思います。
そのとき、原課は
「お金や時間や人員があればできますよ」
と必ず言うのですが、財政課はそういうバリアを外せるんです。
「じゃあいくらお金があったらできるんだろう」
とか
「これだけのお金をどこかから捻出できないか」
といったことを、財政課の職員は考えることができます。
それが財政課のエリートたる所以ではないかと思います。
「もう少しお金があったら何ができる?」
と財政課が言ってあげられれば、前に進みます。
そうすれば
「お金がないから皆10%削減しましょう」
という話にはなりません。
そういったことを財政課の皆さんには考えていただいて「良いエリート」になってもらいたいと思います。



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