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変えられないものある、できることをやる・田中弘樹さんに聞く「モチベーションの保ち方」-財オタインタビュー④

自治体の厳しい財政状況を何とかしようとしても、上役の意向に左右されがちなのが役所のツライところです。なかなか理想通りに業務が進まない中、それでも諦めずに前を見続けるにはどうすればいいのでしょうか。
今回は、愛媛県砥部町の財政課で長年勤務してきた田中弘樹さんに、モチベーションを高く、前向きに働く考え方などをお聞きしました。

約10年にわたり財政課に在籍。固定資産台帳を整備する

――田中さんが財政課にいらっしゃったのはいつ頃でしょうか?

だいたい15年くらい前からですね。
財政課在席中に係長に昇任し、異動しました。
在籍期間は10年をちょっと超えるくらいだと思います。

――1か所で10年というのは珍しいですね。田中さんは財政課時代に業務改善や新しい仕組み作りなど、色々なアイデアを提案されてきたと思うのですが、その提案の中で印象に残っているものは何でしょうか?

1つは固定資産台帳です。
財務諸表を作るのと同時に固定資産台帳の整備もスタートし、それを全部自分でやったことが印象に残っています。

――おひとりでやられたということですが、具体的にどのような作業をされたのですか?

まずは、台帳自体が無かったので、これを作るところから始まりました。
まずどんな台帳を作ろうか考えて、市販のデータベースソフトのAccess(アクセス)で台帳を作っていきました。
財政課が持っている固定資産のデータはでたらめだと予想していたので、税務課が持っている町の名義のものを全部拾い、それをシステムの中に入れました。
建物については、保険調査のデータから全部抜き出して、まずすべての物件システムに入れました。
それから、各課が自分のところの資産だと思うものにそれぞれの課の名前を入れてもらったところ、担当課も自分のところかどうか知らないものが山のように出てきました。
ですので、私の方で地図とか地番とかを見ながら、たとえば学校の隣にあるものなら学校のものかどうか担当課に聞き、回答してもらう、みたいなことをやって1つずつ特定していきました。

――それをおひとりでやられたとは、すごい!作業にはどの位時間がかかったんですか?

財務諸表と固定資産台帳を作ったのは1年です。
当時は入札の担当もしていたので、財政と入札、契約関係全般と公会計をやっていました。

――田中さんが「このままだと砥部町の財政がまずい」と、本腰を入れて改善しないといけないと思われたのはいつ頃ですか?

財政課にきて最初の年からですね。
財政課で色々なデータを作るようになって、ちょっとやばいんじゃないかと思うようになりました。
予算を組むだけなら組めるのですが、本質的な問題がどんどん先送りになっていき、何もしないとどこかのタイミングで急にしんどくなるだろうなとは思っていました。
ただ、事業を1割、2割削ることは限界になりつつあったので、何か施設や事業そのものを諦めるという話になりつつありました。
そのときに、施設単位、事業単位での財務データがないとどれをやめれば一番いいのか議論しづらく、また将来のシミュレーションがはっきりと出ていないと、何年ごとにどれくらいの改善をしていかないといけないのかわかりません。
そこで、長期シミュレーションと施設・事業単位の財務データを作ることになりました。
そのデータを全部取るためには、まず個別の固定資産のデータがないといけないので、1年目に財務諸表とともに固定資産台帳も作ることになったというわけです。

――このような色々なアイディアについて、上司の方の反応はどのようなものだったのでしょうか?

財政課に入ってから最後の1、2年くらいまでの課長はほったらかしなタイプでした。
ただ、だからといって何もしないわけではなく、財務諸表を作ってその説明を数百ページにわたり書いたときは、全部読んで手直ししてくれました。
最初の頃は説明をものすごくたくさん書いたものを深夜に課長の机に置いておくと、だいたい翌日には読んで手直しなどをしてくれました。
疑問点などを聞かれたときは、その回答を書いて机に置いておくと、また次の日には全部読んでくれました。その課長は基本的に何でもやらせてくれる方でした。

若者に行政や財政、政治について興味を持ってもらうことがモチベーション

――田中さんが財政課から異動されるとき、「田中イズム」的なものは置いて行かれたのですか?

うーん、どうでしょう? (笑)。
公会計はどうしてもこれまでの役場の考え方とは異質な部分があり、一人だけで担当して孤立することもあります。
他の自治体も似たような状況のようです。
ですので、その担当者が抜けてしまうと継続するのが非常に難しくなります。
引継ぎしようとしても、普段日付が変わるくらいまで働いていて、そこから公会計の勉強をしようとはならないですよね。
私の場合は財政課に10年いたので、引継ぎするはずだった人の方が先に異動してしまったこともしばしばでした。
公会計は理解するのに結構時間がかかりますし、引継ぎが本当に難しいなと思っていました。

――なるほど。リソースが足りていない現状があったのですね。

そうです。
「この業務量なのになんでこの人数しかいないんだろう」
と思っていました。

――田中さんは財政課を離れた今でも、若手の職員や大学生などと付箋仕分けゲームを一緒にされていますよね。

まちづくりのシミュレーションゲームでワンエヒメ版というものを作り、昨年は愛媛県内の高校15校くらいが集まった中でやらせてもらい、今年は付箋仕分けゲームも合わせて香川大学でやらせてもらうことになりました。

――田中さんが次世代の育成に力を入れている理由は何ですか?

自分たちの住む自治体の行政や政治などに関心を持ってもらいたいからです。
まちづくりのシミュレーションゲームでは、参加者が架空の町の建設部長や財政部長などになって、どうお金を使うかということをやっていくのですが、そういうことを考えていくと、主権者教育やSDGsなどにつながるところがあります。
町の財政が将来どうなるかとか、税金がこう使われていて、将来高齢者を支えるのがこんなに大変になる、といったことを踏まえた上で、まちづくりのシミュレーションゲームに入っていきます。
そこで議会の議員の役割も出てくるので、自治体の職員の気持ちや自治体のルール、財政のルールなどを聞いて、議員の役をやったときにどうすればいいのかなど、色々なことを考えてもらえる機会になると思います。
そうしたことを通じて関心を持ってもらえたら、多少変わってくるのではないでしょうか。
まず自治体の仕組みが現状どうなっていて、将来自分たちがどんなに損するか、どの議員がどんな考えを持っているのかなど、多少なりともわかってもらえたらいいなという思いで、できるだけゲームの中にそういった要素をしみ込ませようとしています。

今年から、中学や高校で総合的な探求の時間として、どんな課題があるのか自分で見つけ、問いを立てて自分たちで解決し、それを分析・評価して発表するというカリキュラムが動き出したようです。
ただ、発表して聞いてもらえる場が学校の中だけで終わってしまっているので、それを「学生サミット」の場で発表してもらえるといいなと思います。
色々な民間企業や自治体、地域の人が発表を聞いて、情報交換ができる場として「学生サミット」が活用されれば理想的です。

――本日はありがとうございました。

ありがとうございます!